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ゴーストスロッター 第84話



■ 第84話 ■

「(嘘だろ・・・・・? あの二人って・・・・・・)」

広瀬の連れてきた二人の女を見て、明らかに表情が変わる鴻上。
すかさず広瀬はそこをつく。

「飯島さん・・・だよね?
  ほら、鴻上の顔を見てみ。
  完全に動揺してるでしょ?」

「え・・・?」

言われるままに鴻上の顔を覗き込む飯島。
確かに、明らかに普通の状態ではなかった。

「ど、どうしたの健自・・・・?」

「え? いや・・・・・・」

ここで優司が勢いを取り戻す。

「ほら見ろよ!
  焦ってるだろ!? あの二人を見て!
  なんで焦ってんのか聞いてみろよ!
  素直には答えないだろうけどな。」

「・・・・・健自、答えて。
  どうしたの? あの女の子たちと何かあったの?」

「それは私達から答えるわ。」

広瀬に連れてこられてから、黙って立っていた二人の女。

一人は、170cm近くある長身で痩せ型。
化粧や服装など、キャバクラ嬢と思われるような派手ないでたちだった。

もう一人は、身長は160cmくらいでぽっちゃりとした体型。
見た目は、派手ではないが地味でもない、どこにでもいそうな感じ。

そして、喋りだしたのは長身の方。

「・・・・・・あなた誰?」

「私の名前はユミ。
  この子が真紀子。
  で、私達が何を言いたいかっていうと・・・・・・・・
  回りくどく言っても仕方がないからはっきり言うね。
  私達、昔、そこにいる鴻上と付き合ってたことがあるの。」

「・・・・・・・・・・・」

「で、人生をめちゃくちゃにされそうになった。
  なんとかギリギリのところで耐えたけどね。
  ・・・・って言っても、私は結局キャバクラで働くことになったけど。
  大量の借金を押し付けられてね。」

「ど、どういうこと・・・・・?」

「そのままの意味よ。
  私もバカだったんだけど、つい簡単に引き受けちゃったのよね。 借金の連帯保証人。
  あの頃、まだまだ世間知らずで、連帯保証人の意味もわからなかった。
  もし鴻上に何かあったら、私が払わなきゃいけないのかも、くらいの認識だったの。
  まさか、連帯保証っていうのは『借りたのと同じ扱い』になるなんてね。」

「・・・・・・・・」

「ひどいでしょ?
  この人、さんざん私にたかってたから自分のお金は全然減らないし、しかも競馬で大穴当てたとかで、
  100万単位のお金持ってたんだよ?
  でも、借金の督促が来ても払わなかった。
  お金は持ってるけど払う気がない、って言って。
  そしたら、すぐに私の方に請求がきて・・・・・
  払う気がないなんて理由でも連帯保証人が払わなきゃいけないんですって。 信じられなくない?」

「う、嘘でしょ・・・・・ 健自がそんなことを・・・・・?」

「私も同じようなもんよ。」

黙って聞いていた真紀子も、口を挟んできた。

「風俗に無理矢理面接行かされて、もう少しで働かされるところだった。
  寸前で、親に泣きついてなんとか助けてもらったけど・・・・」

「嘘だ・・・・・ 嘘だ・・・・・」

「その人、女のことを人間と思ってないわよ。
  付き合ってる時はやたらと優しいけど、一旦本性を出したらもう・・・・・」

「嘘っっっ!!!!」

飯島は突然、真紀子の言葉を遮るように大声を出した。
そして、鴻上の方を向き、取り乱しながら詰め寄った。

「ねぇ、どういうことなの!?
  なんなのこの人たち!! ねぇ!!」

おとなしく様子を見ていた優司と広瀬。
しかしここで、鴻上の異変に気付いた。

この状況で、なんと鴻上がヘラヘラと笑っていたのだ。

「(なんだ・・・・? ついに諦めたのか??)」

戸惑う優司。
しかし、その答えはすぐにわかった。

「わりいな、俺まで取り乱しちまって。」

「え・・・・?」

「とりあえず落ち着けよ由香。
  俺も、だいぶ落ち着いたしさ。」

「ど、どういうこと・・・・?」

「いや、つい焦っちまったんだよ。
  こいつら、ここまでやるんだ、と思ってさ。
  こんな見知らぬ女を二人も連れてきて、ありもしない出来事をでっち上げてさ。
  ここまでして、俺と由香を別れさせたいんだなぁ、って。
  怖くなっちゃってさ。 つい表情も歪んじゃったよ。」

「あ・・・・ そ、そういうことだったの!?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!!」

鴻上のあまりにふてぶてしい言い訳に、キレ気味で鴻上へ近寄っていくユミ。

だが、鴻上は動じない。

「君さぁ、こんなことして楽しい?
  ユミ・・・・さんだっけ?
  いくらでこれを引き受けたの?
  俺と付き合ってた証拠でもあんの? 写真とかさ。」

「写真・・・・・・」

「そうそう。 それが一番の証拠だろ?」

「だからなのね・・・・・
  いくら頼んでも絶対に写真を取らせなかったのは、こういう修羅場に備えてなのね・・・・・」

「はぁ? 何そのイチャモン。」

埒があかないと判断したユミは、会話の対象を鴻上から飯島に変更した。

「ちょっとあなた! 飯島さんだっけ?
  こいつ、あなたと写真撮ったことある? ないでしょ?
  なんだかんだ言い訳して、絶対に写真を撮らなかったでしょ?
  昔から性に合わないとか言って!?」

「いえ・・・・・ 普通に撮ってますけど・・・・・」

「え・・・・?」

この瞬間、立場が一気に逆転したことを、優司と広瀬は同時に察した。
完全にやられた、と。

「(マジかよ・・・・ どういうことだ・・・・?
  広瀬君が連れてきてくれた女の子たちにはしてなくて、飯島にだけはしてたことがあるってのか?
  なんでだ・・・・? なんでそんなことが・・・・・・
  まさか、こういうことまで想定して、全部計算ずくで行動してたってことか?
  いや、まさか・・・・・
  鴻上がそこまで計算して動けるわけない。 じゃあなんで・・・・・)」

いろいろと考えを巡らせる優司。

しかし実際は、もの凄く単純なことだった。

「(へっ・・・・ 偶然ってのは怖いぜ。
  こんなところで気まぐれが生きるとはね。
  ヒモ生活中は、付き合ってた証拠になっちまうようなもんは絶対に残さないようにしてたけど、
  もうこんな生活をするつもりはないからってことで、由香とは普通に写真も撮ってたんだよな。
  この勝負に勝てば、あとは土屋の案に乗っかって大金が転がり込んでくる予定だからな。
  しかも継続的に。
  こんな気まぐれが生きちまうなんて・・・・・・・ いやぁ、ラッキーだぜ!)」

鴻上の気まぐれの行動により、優司側は完全に不利な立場に立たされた。

「ねぇ、なんなのあなたたち!?
  どうしてそんなに私と健自の仲を邪魔しようとするの!?
  正直、気持ち悪いんだけど!!
  もういい加減にして!!」

「もういいよ由香。
  こんな連中に関わるのはもうやめよう。 帰ろうよ。」

「そうね。 もう行きましょ!」

そう言って鴻上の手を取り、大通りの方へ歩いて行こうとする飯島。
広瀬もユミも真紀子も、こうなってしまってはもう、ただ黙って見送るしかなった。

そして、飯島が優司の横を通り過ぎようとした時、優司の耳元で囁くように最後の言葉を告げた。

「こんなことまでするとは思わなかった。
  もう二度と私達に近づかないでね。」

もはや優司は、何も考えられない状態に陥っていた。

「なん・・・・だよ・・・・・それ・・・・・・・・・・」

優司は、声にならない声でそう呟いた。
 

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