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ゴーストスロッター 第54話



■ 第54話 ■

「よぉ、作戦会議は終わったかい?」

ホールへ戻った日高を待っていたのは、相変わらず神経を逆撫でしてくる八尾の言葉と表情。
横目で日高に視線を送りつつ、ゆったりと自分の台を稼動させている。

さっきまでは優司に対し、口では「なんでもアリだからしょうがない」とは言ったものの、当然この八尾の
やり口に納得しているわけではない。

汚く、低俗な策であることには変わりないのだ。
いや、もはや策などと呼べるシロモノでもない。

「・・・・・・お前、こんなことしてただで済むと思うなよ・・・・」

「ん? 何言ってんの日高君??」

自分の台に座ったまま、おどけた顔で、君付けまでしておちょくりにかかる八尾。

「てめぇ・・・・・ マジでいい加減にしろよ・・・・・・・」

「おっかねぇなぁ〜。
  そんなにイライラしてると寿命が縮むぜぇ〜?」

「八尾ォ・・・・・・・・・」

「おいおい、勘弁してくれよぉ〜。
  劣勢だからって俺にアタるなよぉ日高ちゃぁ〜ん。
  あれ? お宅の大将はどこいったの?
  あ! わかった! トイレでシクシク泣いてたりして!」









  プ  ツ  ン









日高は、自分の中で何かが切れたのがはっきりとわかった。

咄嗟に右手で八尾の髪をわし掴みにし、そのまま台の盤面部分へと全力で叩きつけた。
不意を突かれた八尾は、顔面からモロに筐体へと突っ込まされた。

日高の怒号とともに、激しい衝撃音が鳴り響く。

「テメェッッッ!!!! ナメるのも大概にしろよッッッ!!!!」

何度も何度も全力で筐体へと叩きつける日高。

必死で抵抗しようとする八尾だが、所詮座っている人間と立っている人間では力の入り方が違う。

座っていては、仮にどんなに力があっても、立っている人間に上から押さえつけられると抵抗しづらいもの。

「ちょッッ・・・・ 待てッ・・・・ 待てってッ・・・・・・」

叩きつけられながらも、必死で言葉を絞り出す八尾。
しかし、日高はそんな言葉に一切耳を貸さず、八尾を盤面へと叩きつけ続けた。

「や、や、やめろ! やめて!」

へっぴり腰で信次が止めに入る。
だが、そんなことでは日高は止まらなかった。

盤面部分に叩きつけられながら、肘や拳でも顔面や腹を殴られ、かなりグロッキー状態に
なっている八尾。

そこでようやく、男性店員が複数で押し寄せ、日高を強引に羽交い絞めにした。

「や、やめなさいッ!!
  何やってるんですかッ!!」

「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

肩で息をする日高。
約1分間ほど全力で暴れたのだ。
当然息も上がる。

八尾がノソリと起き出し、日高に近寄ってくる。

「ゲホッ・・・・
  はぁ・・・ はぁ・・・
  よ、よくもやってくれたな・・・・
  こりゃ完全な傷害だからな・・・・・」

「うっせぇッ!!!
  テメェがねちねちとウザったい挑発繰り返すからだろうがァッ!!
  気持ちワリーんだよテメェよッ!!」

「そんなことは関係ねぇな・・・
  この法治国家日本ではな、挑発されたくらいじゃ暴力ってのは認められねぇんだよッ・・・・!
  バカがッ・・・・・」

「八尾ォ・・・・・」

羽交い絞めにされたまま、まだ殴り足りないといった様子の日高。

「とにかくおめぇらは失格な。
  ここまでやったんだから当然だよな。」

「ハァッ!?
  何トチ狂ったこと言ってんだよッ!?」

「そりゃそうだろぉが!
  ここまでやっといて何ホザいてんだこのバカが!!
  テメェはたった今犯罪者になったんだよッ!
  そんなもん、負けに決まってんじゃねぇかッ!! 」

段々と呼吸が落ち着いてくる日高。
そして、少しトーンを落として話し出した。

「あのなぁ・・・
  この勝負はあの紙に書いてあることがすべてなんだろ?
  ルールを書いたあの紙に駄目と書かれてなけりゃ、何でもアリなんだろ?
  『暴力振るったら負け』なんて項目はどこにもなかったぜ?」

「はァ!? そ、そんなもん・・・・・」

「『そんなもんは常識』だとかはヌカすなよ!?
  言ってる意味わかるよなッ!?」

これは当然、店員と組んでることを指している。

八尾も、ゴールドXで出玉没収にならなかった時点で、店員と組んでいることはバレるだろうと
わかっていた。
しかし、取り決め以外はなんでもアリという条件を盾に突っぱねる気でいたのだ。

「・・・・・わかったよ。
  まあ、しょうがねぇな。
  確かにあの紙に書かれてなきゃなんでもアリだ。
  ・・・・・じゃあせめて監視役交代だ!
  お前は警察に引き渡す!」

「へっ!
  こんな面倒な監視する人間を、そんな右から左に用意できるかよッ!」

「ぐッッ・・・・・・・・」

「俺が退場となりゃその時点で勝負無効だ。
  俺から席を蹴るんじゃねぇんだぜ?
  お前が俺を締め出すんだからな。
  いや、無効どころかむしろテメェの負けだよ。
  お前が『なんでもなかった』とでも言やぁそれで済むんだからな。」

八尾は、口や鼻からの出血を手で拭いながらしばらく考え込む。
店員はいつの間にか日高に対する羽交い絞めを解いていた。

そのまま、3人ほどの店員が二人のやりとりをジッと観察している。
もちろん、周囲の客も。

「(・・・どうする?
  ここまでされたのに、このバカを許しちまうのか?
  こんだけ証人もいるし、俺も実際に結構派手に出血もしてる。
  警察に引き渡しゃコイツは確実に傷害罪で前科一犯だ。
  ・・・・・でも、俺の目的は今日の勝負で何がなんでも勝つこと。
  今の流れでいけば100%俺の勝ちなんだ。)」

しばらく考え込む八尾。

「(・・・・・・・・・・・・しょうがねぇか。)」

決心し、周囲の店員たちに事情を説明しだす八尾。

「すいません、俺とコイツは友達なんです。
  ちょっとしたくだらないことで口論になっちゃって・・・・」

バイトと思しき一人の店員が返事をする。

「そ、そうなんですか・・・・?
  随分派手でしたけど・・・・」

「ええ。 俺とコイツがやり合うといつもこうなんですよ。
  ついつい激しくなっちゃって。
  今日は俺がやられる側だったけど、普段は逆なんで全然いいです。
  こういうの慣れっこなんで気にしないでください。」

「・・・・・・そうですか。
  お客様同士で納得されてるんでしたら、別にそれでかまいませんが・・・・」

どう見ても日高と八尾が友人同士に見えなかった店員たちだが、店側としても「店内で暴力事件が
あった」という噂を立てられたくはないため、無理矢理穏便に片付けようとしていた。

「じゃあこれで終わりにしてください。
  お騒がせしてすみませんでした。」

そう言い残し、そのまま八尾はトイレへと向かった。
日高には目もくれず。

他の客達も再び自分の台へ集中し始め、店員たちも本来の業務へと戻っていった。

正直なところ、「やりすぎた」と若干焦っていた日高だったが、これにて一件落着となった。

「(ふぅ・・・・ 一時はどうなることかと思ったけど・・・・・ なんとか収まったか。
  とりあえず、これでもう余計な挑発もやめるだろうな。
  ・・・・・・でも、裏を返せば、それだけ八尾は今回の勝負の勝ちを確信してるってことだ。
  さっきの反応で主任と組んでるのも確定したしな。
  クソ・・・・ うまくいけばこの勝負自体を無効にできたかもしれなかったのに・・・・・)」

暴れたところまでは衝動的だったが、その後のやりとりの最中は、なんとか勝負を無効にして優司の
窮地を救おうとしていた日高。

「(でも・・・・・
  勝負が無効になってたら俺は逮捕だったろうな。
  あそこまでやったんだし。
  もうあいつ自身が否定しちまったんだから、今更蒸し返すことはできねぇだろうが。)」

複雑な心境の日高だった。


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「(イッテェ・・・・ 畜生ッ!!
  あの日高のクソ野郎・・・)」

店のトイレの中。
洗面台で、顔を水で洗い流す八尾。

「(耐えろ・・・・
  ここを耐えればそれ以上の見返りがくる・・・・
  手段はどうあれ、とにかく『あの無敗の夏目優司に勝った男』っていう称号が手に入るんだッ・・・・・
  その知らせを聞けば、ヒロちゃんだってきっと・・・・・・・)」
 

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