彼と対峙する時、僕はいつも怖くて震えていた。
小刻みに震える右手を伸ばし、僕はサンドにお金を入れる。
幾度となく繰り返したその行為に僕が恐れを抱くのは、自分の決断の正しさに自信を持つ事ができないからだ。
結果はいつだって、過去自分が経験した「それ」とは異なる。
もし自分がイチローだったら、もし自分が松山英樹だったら……あるいは、同じ球を同じように打つ事ができて、いつも同じ結果を得る事ができるかもしれない。
彼らには、圧倒的な訓練と準備に裏打ちされた自信があろう。
だが、僕にはそれがない。
だから、いつも結果は違う。
僕はその事に恐れを抱くのだ。
<8月某日>
ある専業さんのホームを訪ねた時の事。
僕は、ぶっちぎってるゴージャグに出会った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
●総回転数 : 3,210G
●BB回数 : 19
●REG回数 : 15
●ボーナス合算 : 1/94.4
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これなら試してみる価値は……」
そう考えて台を確保した僕は、その事をこのホールの主に告げた。
「ここのジャグラーは中間設定が多いんで気を付けて下さい」
僕の言葉を聞くと、主はそう教えてくれた。
その後、続けて二、三、言葉を交わしたが、僕と会話している間も主が稼働の手を止める事はない。
彼もまた、イチローや松山英樹の同類なのであろう。
主との会話を終えて、僕は確保したゴージャグの前へと戻る。
財布から取り出した一万円をサンドに入れ、貸出ボタンを押そうとすると……
じゃらじゃらじゃらじゃら……
僕が貸出ボタンを押す前にコインが出てくる。
どうやら、一万円を入れると最初の千円分は勝手に出てくるタイプの貸出機のようだ。
僕は下皿に払い出された47枚のコインに祈りをこめてレバーを叩く。
「等価じゃないんで、最初はなるべく少ない投資で持ちコインを作りたいです。 お願いします!!」
僕がAT/ART機ではなくジャグラーを選択したのには、そんな想いもあった。
ぶっちぎった合算のジャグラー、少ない投資で持ちコインを作るには最も手堅い選択をしたはずの僕であったが、それでもなお100%の自信を持つ事ができないのは、過去にジャグの世界に巣食うエスパー達に幾度となく騙されてきたからだ。
現在130G。
特に高齢の打ち手には、独自の理論でハマりを察知し、それを回避する人智を超えた能力者が多い。
彼らは優秀台であっても抜群のタイミングで席を立ち、ハマり台であっても臆せず着席する。
そしてどういう訳か、彼らの離れた台はただただハマり、彼らの座った台がジャグ連するのだ……
僕はそんな事を考えながら、最初の47枚を消化した。
ブドウが揃ったのはわずかに3回……
「いや、ごちゃごちゃとやらない理由を考えていても仕方がない」
僕は貸出ボタンを押した。
そう、賽は投げられたのだから。
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