<順風満帆で迎えた最初のハマり>
最初にボーナスを引いたのが投資4k。
その後は追加投資を強いられる事もなく、僕は順調に出玉を増やしていった。
打ちはじめてからおよそ4時間。
チェリー重複も設定6を上回っているし、合算も未だに1/100を維持している。
ブドウがイマイチなのを除けば、なんの不安要素もない展開だった……
ここまでは……
時刻は21時を過ぎた頃。
直前に250回転でREGボーナスを引いた後、僕は再び200回転ハマっていた。
下皿にパンパンだったコインは壊滅し、僕は箱の中のコインを使うか否かを迷っていた。
「ここでヤメても1,500枚は浮いている……」
今になって「中間設定が多い」という主の言葉が頭をよぎり、僕は手を止めた。
「時間も時間だし、早めにヤメてデータを取るか」
そう考え、席を離れかけたその刹那、僕の中にもう一人の僕が現れ、問い掛ける。
「この台を打ち切らずして、何を打ち切るというんだ?」
先ほどまでの私を「感情」という言葉で表現するならば、もう一人の僕は「理」である。
「理」は「感情」に向けて、こう言い放った。
「時間も時間だし? いやいや、ノーマルタイプの高設定のヤメ時など、閉店時間をおいて他にありえないじゃないか」
「中間設定が多いと主が言っていた? 4時間前の君は、主の語った『根拠』よりも合算1/94.4という『挙動』に重きをおいて着席したはずだろう。 なのになぜ、『挙動』は未だに設定6を超えているこの台をヤメようとするんだ?」
彼の言う事の方が10倍正しかった。
さっきまでの僕はただただハマりを恐れ、せっかく手にした出玉を失うのを怖がっていただけで、その判断には何一つ合理的な理由を見出す事はできない。
ただ感情に流されただけのものだった。
ここで『根拠』を理由にヤメるのは一貫性のない場当たり的な判断で、『挙動』を理由に座った以上、『挙動』が設定6を否定しない限りは打ち切るべき。
それが正着だ。
僕はもう一人の僕の説得に応じて、続行を決断した。
僕は箱のコインを下皿にばらまき、レバーを叩き続けた。
そして、閉店を迎え……
<迷いの森のその先に待っていたのは>
その後はBIG間600ハマりもあり、閉店間際のジャンバリもありと、スランプグラフ的には山あり谷ありな内容で稼働を終えた。
終わってみれば、判別ツールの値も上は間違いない数値を示しており、出玉を上積みする事ができた。
あの時の心の迷いはなんだったのだろうか?
あの感情を今一度振り返ってみる。
全ては、この台を打ち続けてコインを失う事に対する恐れが生み出した不合理な発想。
この時の僕が必死になって探していた「ヤメる理由」は、どれももっともらしく聞こえるだけで、イチローや松山英樹が決断を下す時のそれとは似て非なるものに違いない……
と、後からなら……結果を出してからなら、誰でもそう言える。
悩み、迷い苦しみ進むその道の先に待つのは天国か地獄か。
それは誰にも分からない。
ただ、今回その道の先で待っていたのはたまたま天国だったというだけである。
それでも、いや、だからこそ大切なのはあの時、僕を押し留めてくれたもう一人の僕の存在であり、彼の声に気が付けるかどうかなのだと僕は思う。
エスパーなんかに僕はなれない。
だからこそ、失敗と成功の経験の積み重ね、「理」に身を委ねる事の確からしさを学ばなければならないのだ。
「あの時、あの台をなんでヤメてしまったんだ……」
「なんで、あんな台に座っていつまでも打ち続けたんだ……」
そんな失敗を幾度となく繰り返してきた今までの僕がいる。
そうやって大人になっていく中で生まれたのがもう一人の僕だったのかもしれない。
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