<アイムのシマ>
私はこの日、3,000回転でチェリー重複のREGを5回も引いていた。
ブドウも良い。
しかし、アイムは設定6でも時給2000円台。
とはいえ他にあてもない私は、このアイムを終日打ち切るつもりでいた。
だから荒れないで欲しかったのだ。
このアイムのシマが平穏を保ち続ける事を私は願っていた。
<招かざる客?>
時刻は午後5時。
私が高設定を確信し、閉店を意識しだした時の事だった。
私以外誰もいない6台設置のアイムのシマに2人の客が。
片方は50歳くらいで見るからにカタギじゃない雰囲気のヤクザ風。
そして、もう一方は20台前半くらいの茶髪の若者。
会話をしながらやってきたところを見ると、兄貴と舎弟といった間柄だろうか。
兄貴(と勝手に名前を付けたが)の方は、いかにもといった風貌で、できる事ならお隣にはなりたくないオーラを発している。
6台並びの左から2番目に陣取る私は、兄貴がこのアイムのシマを素通りしてくれる事を神に祈った。
だが、無情にも止まる兄貴の足。
しかも私の真後ろで。
兄貴は私の台を指差し、舎弟に何やら耳打ちする。
私は自分の台の盤面に映る2人の姿を振り返れずに見守っていた。
「覚えておけ。 こういう台がある店が良い店なんだ」
後ろに立つ兄貴の動向に、私は最大限の注意を払う。
だがそんな事をしなくとも、耳打ちにしては大きすぎる兄貴の声は、うるさいホール内でも十分私の元に届いていた。
ボーナス合算、REG確率共に良好な自分の台を見て、舎弟にレクチャーを始める兄貴。
「いやいや背後に立たれるとかマジで怖いからどっか行ってくれ…… いや、どこか行って下さい。 お願いします」
そんな私の心の声とは裏腹に、不意をついてあの音がする。
「ガコッ」
ビクッとして背筋が伸びる私。
兄貴は、自分が良い台だと言った台が当たった事に心なしか満足そうだ。
そして、次の瞬間、1台の空席を挟んで、隣の隣に兄貴が。
そして、もう1つ隣の台に舎弟が着席したのだ。
「こうはならないで欲しい」
そう願った事がだいたいそうなるのは一体どうしてなのだろうか?
<マナー違反?>
こうして兄貴と舎弟がアイムを打ち出す。
見れば、舎弟の方は打ち方がモロに初心者といった感じで、一方の兄貴はチェリーをしっかり狙っているようだった。
10分後……
先にペカったのは舎弟の台。
BIGボーナスだ。
それを揃えるのに3回転を要した舎弟は、7の図柄を揃えると自動販売機の方へと走っていった。
1分後、再びアイムのシマに戻ってきた舎弟は缶コーヒーを2本手にしていた。
「どうぞ」
そのうちの1本を兄貴に差し出す舎弟。
だが、その様子に兄貴は突然激怒する。
「バカ野郎!」
私だけではなく、その場にいた誰もが呆気にとられて2人を見る。
大抵の事には動じない集中力の持ち主であるHANABI職人の常連プロも、この時ばかりは振り向いた。
「ボーナスは揃えたら速やかに消化しろ。 ボーナス中に離席するなってこの前も教えたろうが」
舎弟の立場で考えれば、良かれと思っての行動だったのだろう。
だが、「どや放置」は他人からすれば、特にハマっている人が見れば気分の良いものではない。
立ち回り講座のパチスロを打つ際のマナーのページにも、「●ボーナス中にはなるべく席を立たない。 ましてや休憩札を取るなどもってのほか。」と記載されている。
風貌はともかく、兄貴の言ってる事は正論だった。
もっとも、場合によっては何千ゲームもボーナスが続くAT/ART機が主流の現代では、そんなマナーを意識できる人も少なくなってきたようには感じるが……
<常連のおばちゃん>
さらに30分後。
舎弟の台は北連モードに入ったらしく、あれよあれよという間に1箱+下皿一杯の出玉を獲得。
一方の兄貴の台はREGを2回ほど引いただけで追加投資を強いられていた。
そんなところに、私も顔馴染みの常連さんが現れたのだ。
私と兄貴の間に座ったそのおばちゃんは目押しができない。
故に私も、近くに座っている時には揃えてあげるのだが、困った事にこのおばちゃん、揃えてあげるとそのお礼にジュースをご馳走してくれるのだ。
さっきの舎弟と同じように……
もちろん、普段はそのジュースをありがたく頂戴し、二言三言の会話をする。
おばちゃんもその会話を楽しみにしているらしく、沖ドキやサラ番であっても目押しをお願いしてはジュースを配って回っている。
繰り返しになるが、普段であればほのぼのする光景なのだが、この日だけは……
一人勝手にヤキモキする私の気持ちを知ってか知らずか、おばちゃんの台のGOGOランプはしれっとペカる。
この時、兄貴は400ハマって、追加投資の真っ只中。
「おばちゃん、ごめん」
私はペカったランプを見て、トイレに駆け込む作戦をとった。
敢えて自分は離席して、店員に揃えてもらう流れを作る事で、おばちゃんが7を揃えた状態でジュースを買いに行く事を回避しようと考えたのだ。
「我ながらナイスな作戦」
この時はそう思ったのだが、私がトイレから戻ろうとすると……
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