<自販機withおばちゃん>
自販機の前には、3本のジュースを手にしたおばちゃんの姿が。
「まさか!?」
遠目に見えるおばちゃんの台は、その台枠がピカピカしている。
それは、おばちゃんがいつものように振る舞っている証であった。
私は三歩先を行くおばちゃんの背中を見ながら、同じ通路をアイムのシマへと進む。
途中、真瞳術チャンスを消化している絆もあったが、その結果より何より、私はおばちゃんと兄貴が気がかりだった。
アイムのシマに戻り、ジュースを配り出すおばちゃん。
配る相手は兄貴と舎弟。
ここまでは、先程の舎弟の行動と全く同じだ。
少し離れた所で息を飲んで見守る私。
だが、私の予想を良い意味で裏切り、それ以上の事は何も起きなかった。
<二昔前の大人の遊戯場>
しばらくしておばちゃんの台がペカる。
それを揃える隣の兄貴。
そこからおばちゃんと兄貴は雑談を始め、1時間も過ぎた頃にはだいぶ打ち解けた様子であった。
それからしばらく経って、私自身もその事を忘れかけてたタイミングで兄貴はさりげなくあの台詞をおばちゃんに告げた。
「ところでさっきジュースご馳走になったけど、ボーナス中にジュース買いに行くのやめた方がいいよ」
相変わらずの兄貴の大声は、意識せずとも私の耳に届く。
その口調は、舎弟に対するものとは明らかに違い、おばちゃんを不快にするものではなかった。
「あら、そうなの? ごめんなさいね」
謝るおばちゃんに対して兄貴は理由を伝えると最後にこう言った。
「次からでいいんよ」
その光景に、私が危惧していた要素は一切なかった。
そもそも、マナーとは他人を不快にさせない為のものであり、それを押し付ける事で他人を不快にさせては本末転倒である。
兄貴は当然その事もわきまえていたのだろう。
人は見かけで判断してはダメという事なのかもしれない。
自称「マナーの達人」でも、それを他人に強要する迷惑な教養人も多い世の中で、見かけは完全にアレな兄貴の中身はジェントルだったのだ。
昔はどこの町にも近所に怖いおじちゃんが住んでいて、悪ガキどもを叱って教育していた。
そうやって、子供達はルールを少しずつ学んでいったのだ……なんて話をよく聞くが、一昔前からパチスロを打ってるいい年したおっさんの私でも、もはやそれをリアルタイムには経験していない。
しかし、この日のアイムのシマはどことなくそれを連想させる古き良き日本のホッコリ感があった。
「二昔前の大人の遊戯場」、そこには少しだけ怖いおじちゃんがいて、大人の世界を教えてくれる。
そこにドキドキしながら、飛び込んでは怒られて……
そんな経験をした事のない私であっても、兄貴の背中にノスタルジーを感じてしまうのは一体どうしてなのだろう。
【 6の付く日はお先に失礼します 】 メニューへ