[1]ビタ押しの行方 [2017/2/17(金)] |
彼女はなぜかいつも、僕らの横に座って開店を待っていた。
パチ屋が開店し、僕らが仕事に熱中し出すといつの間にか彼女の姿は消えている。
そして、その日の晩。
僕らがいつものファミレスに集まると、彼女は朝と変わらぬ笑顔でいつの間にか僕の横に座っている。
たいしてパチスロを打つ訳でもない彼女がなぜ僕らと行動を共にするのか?
その答えが「自分」ではない事は分かっていたけれど……
<AM 6:00 開店待ちの並びの列で>
私がまだ園長の軍団のお世話になりだして間もない頃。
その日は園長を含め、6人のメンバーで新装初日のA店に並んでいた。
今と比べて、抽選よりも並び順の入店が主流だった時代。
スロッターの朝は、始発と共に始まるのが当たり前であった。
まだ周囲は薄暗い中で、パチ屋の入り口前に座り込む。
持参した雑誌を広げて時間を潰す者もいれば、コンビニで購入したサンドイッチと缶コーヒーで朝食を摂る者もいる。
我々軍団のメンバーも、新台の解析の話やら昨日のテレビの話やらをしながら開店時間を待つのだが、当時新参者の私は他のメンバーの会話にどう加わっていったら良いかわからず、会話の中に入るのを躊躇していた。
「誠くん…… だったよね? 良かったら食べる?」
そんな私に気を遣ってか、彼女はサイコロの箱に入ったキャラメルを取り出し、私の方へと差し出した。
見たところ、25歳前後だろうか。
私やそこに集まる20歳くらいの軍団メンバーよりは少し年上といった印象で、かすかに甘い柑橘系の香りがしたのを覚えている。
「頂きます」
私がキャラメルを受け取り、包み紙を開けるのを見ると、彼女は他のメンバーにもキャラメルを配りながら私に話を振ってくれた。
「誠くんはいつからパチスロ打ってるの?」
「初めて打ったのは……」
パチスロの話題であれば、不思議と緊張せずに話ができた。
そして、そうなると他のメンバーも自然と会話に参加してくれて、気付けば私を中心に会話が始まっていた。
それを、彼女はうんうんと黙って頷きながら聞いていた。
まだ全員の顔と名前も一致しない私にとって、彼女の「優しさ」は非常にありがたかった。
それは、孤立しがちな新人メンバーに対する彼女の「親切心」以外の何物でもないのだが、私が彼女に心惹かれるようになるのにそう長い時間は要しなかった。
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