[2]園長列伝≪その3≫ 〜園長 VS マナー悪軍団〜(前編) [2016/11/18(金)] |
<5分後>
「フライドポテトとドリンクバーで。」
大柄なその男は店内に入るなり、そう店員に告げると、私達のテーブルへと一直線に向かってきた。
右手を挙げて応える園長の様子を見て、私達はこの男が電話の主である事を察した。
「トレジャーの店長の南です。」
男はそう言って私達に会釈をすると、私達一人一人に名刺を差し出した。
私はその大柄な黒服風のスーツ姿に、多少圧倒されていたかもしれない。
だが、男はその見た目に反し、穏やかな口調で話し出した。
「実はうちの店にマナーの悪い10人くらいの集団が住み着いちゃってね……」
はじめのうちは、現行犯で見つける都度注意をしていたところ、彼等のやり口も日に日に巧妙になり、現在では店員の目に着かないところで悪さをするようになってしまったという。
「常連からも苦情が出ているんで、なんとかしたいと思ってるんだけど……」
出禁にすればそれで済む問題のように、私には思えた。
だが、そこは旧知の間柄の園長と南店長。
園長は、それだけでは満足しない南店長の本心を言い当てる。
「だから、今回のイベントで奴らにギャフンと言わせたいって事か。」
南店長の希望としては、イベント最終日には彼等10人の座る台だけが設定1、それ以外の台は全て高設定というような状況にできれば、最高に気持ち良いだろうし、常連さんのうっぷん晴らしにもなるだろうという事らしい。
だが、それをするには当然彼等がどの台に座るのかが分からないといけない。
彼らが自由に着席する台を選べる以上、それを完璧に予想する事など不可能のように思えた。
「今までの彼らの行動パターンを聞けば、ある程度の予測は可能かもしれないが……」
園長はそこまで言うと一呼吸置いて、私と加藤の方を見た。
「ある程度の予測でも良いんだ。 元からこんな事100%実現できるとも思ってないし。」
彼等が座るであろう台の予想を教えて欲しいとせがむ南店長。
正解かどうかはともかく、なんだかんだ言っても面倒見の良い園長の事だ。
結局は、予想をするのだろうと思って私は話を聞いていた。
腕組みをして、悩んだ様子の園長。
私はそれを、プレートに残ったコーンの一粒一粒をフォークに刺しては口に運びながら眺めていた。
「分かった、やろう。」
園長のその言葉を聞いて安堵の表情を見せる南店長。
と同時に、園長は私達に向けてこう言った。
「どうせ打たない愛はともかく、誠と加藤は、明日トレジャーで打つつもりなら今日はもう帰れ。」
園長VSマナ悪軍団、こんな面白そうな対決を見物しない訳にはいかないと思っていた私には意外な言葉だったが、加藤はいそいそと財布を取り出し、帰り支度をしている。
「それじゃあ、俺は明日並ぶつもりなんで、これで。」
加藤は自分の食べたミックスグリルの代金として千円札をテーブルに置くと、その場を後にした。
「誠はいいのか?」
園長はそう聞いた後に、イマイチ分かっていない様子の私の為にこう付け足した。
「今日、ここから先の話を聞くという事は、明日の設定1の台番が分かってしまうというのと同じ事だ。 設定を知って打ちに行けば、それはサクラと同じ。 つまりこの話に乗るってことは、一切打てなくなるって事だぞ。」
だから、明日から3日間の激熱イベントに参戦するのであれば、ここから先の話は聞かずに帰れという事らしい。
もちろん、園長は自分がトレジャーで打てなくなる事も、凌ぎのチャンスを逃す事になるのも承知の上で旧友の相談に乗るのだ。
期待値的には、加藤のように話を聞かず翌日からのイベントに参戦した方が良かっただろう。
だが、園長の漢気を目の前で見せられて、自分だけ帰りますというのも何か違う気がしたし、何より園長がどのようにしてマナ悪軍団を攻略するのか興味のあった。
私に帰宅という選択肢があろうはずもない。
「分かりました。 打てなくなっても良いので聞かせてください。」
園長は、別に構わないと頷く南店長の様子を確認すると、物好きな奴もいるもんだと笑って見せた。
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