[3]園長列伝≪その3≫ 〜園長 VS マナー悪軍団〜(前編) [2016/11/18(金)] |
「じゃあ早速……」
園長が普段の彼等の行動のヒアリングを始めようとすると、南店長は鞄の中からノートを取り出し、店内の見取り図を書いてくれた。
朝一、特定機種のイベント告知がない限り、彼等は北斗の拳のカニ歩きとキンパルのリセット狙いからスタートするという。
キンパルは、オーソドックスに前日嵌まってストックの貯まっていそうな台を上げ狙いで、北斗は、前日の履歴を問わずガックンチェックをして、ガックンする台だけを高確狙いで数十ゲーム回していくという。
そして、キンパルについてはリセットゾーンでボーナスを引き、設定判別要素であるビッグボーナス中の小役が良ければ終日粘る。
北斗については、朝一高確の台に限って本腰を入れて判別を行なっていくというスタイルのようだ。
それに加えて、昼過ぎからは吉宗のゾーン狙い。
特に宵越しのゾーンと設定変更後のゾーンが重複するゲーム数を好んで打っているであろう事は、毎日彼等が閉店チェックを欠かさない事から考えて間違いないという。
「それで打つ台がなくなったら帰っていくってところかな。」
南店長はため息混じりに語った。
キンパル、北斗、吉宗の3機種しか打たないのであれば、そこに設定を入れずにリセット対策をすれば良いだけかとも思えたが、それをしてしまえば一般のお客さんも飛んでしまう。
7枚交換のトレジャーで、あからさまな回収設定や朝一対策はできないという事だ。
「イベント告知時の彼等の動きは?」
トレジャーでは、イベント告知の際、機種によって設定配分に強弱を付けるような事はしていないという。
にも関わらず、彼等にはイベント告知を狙ってくる機種とそうではない機種があるという。
彼等が狙ってくるのは、キンパル、北斗、吉宗に加えて、南国育ちやボンバーパワフル。
一方、狙われない機種はというと、猪木や百景、スーパービンゴ、それにジャグラー。
ここまで聞くと、彼等が朝一リセットやゲーム数である程度判別のできる機種を好んで打っている事はなんとなくだが察しは付いた。
あとは、これらの情報に私達が下見した閉店時の最終ゲーム数を加味して、彼等が朝一着席しそうな台を選んでいくだけだ。
「だったら、明日は……」
結論が出たのは、午前2時。
話を始めてから2時間が経過する頃には、机の上に広げられたノートにはびっしりと書き込みがされていた。
彼らが座ると予想される台番、すなわち明日「設定1」となる台番がノートに次々と記載されていく。
「1136番台」
「1139番台」
この時から現在に至るまで幾度となく設定を予想してきた私であるが、設定が決まるその場に立ち会ったのは、後にも先にもこの時一回限り。
書き出される台番が、翌日その台に座る客の命運を握るのかと思うと、えもしれぬ感覚に襲われた。
「1263番台は?」
私の一言で、ノートに刻まれたその台番に座る客が例のマナ悪軍団であれば良いが……
設定1となる台番の書かれたそのノートは、まさに、その日、その台に座る客を地獄に叩き落とす為の死神のノートのように思えた。
結局、30台ほどの候補と、翌日・翌々日の為の秘策がノートに記され、この日はお開きとなった。
「二人も終電過ぎまで付き合わせちゃって悪かったね。 これ、少ないけどタクシー代。」
そう言って南店長は、私と愛さんに一万円ずつ手渡した。
「いいんですか?」
戸惑う私達を「いいから、いいから」と通りに連れ出し、タクシーに乗せると、園長と南店長はスナック街と思しき方向へ消えていった。
一人タクシーに乗せられた私は、運転手に自宅の住所を告げ、いくらくらいかかるのかと尋ねる。
「だいたい6,000円ちょっとかな。」
初めてのタクシー帰りに少しドキドキしながら、私は少しずつ増える料金メーターを眺めていた。
(続く)
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