[2]「パチスロで食べていきたい」と言った若者の目指す先 [2016/11/4(金)] |
単なる就活相談だと思っていた私は驚き、テーブルの上のガムシロップに向けていた視線を武田の方に向けた。
武田の様子を見ると冗談とも思えない。
手に取りかけたガムシロップを置いて、私は理由は何故かと問い掛けた。
「パチスロで食べていきたいんです。 それには学歴は必要ないし、時間の方が必要だと思って。」
一般人の感覚からすれば止めるべきだろう。
そう頭では思っていたが、同時にパチスロを打つ人間がそれを言う事の矛盾も感じ、私は言葉に詰まった。
その結果、最初に出た一言が、
「今までの収支は?」
なんとも間抜けな台詞である。
これでは、収支さえ良ければ大学を辞める事を後押ししているようなものである。
だが、武田の返答は私の予想の斜め上をいくものであった。
「月に10日ほど稼働して、プラスマイナスゼロ付近です。」
その言葉を聞き、クエスチョンマークが私の頭を埋め尽くした。
私の若い頃に「パチスロで食べていく」と言ったら、専業のスロプロになって、パチスロで勝った金で暮らしていく事を意味していた。
そして、それを志す者は皆、当然のように月に数十万という金額を勝っていたからだ。
しかし、そこはイマドキの20歳。
武田の描いている未来、「パチスロで食べていく」という事はそうではなかった。
「自分の好きな事をネタに動画を撮って、それを自分で編集して面白くして、同じ趣味を持つ人達に笑ってもらってお金をもらう。 そういう事をやっていきたいと思うんです。 例えば……」
武田の口からは、現在スロ動画で活躍する多くの演者の名前が挙がった。
「なるほどねぇ……」
これも時代なのだろうか。
小学生のなりたい職業ランキングに『YouTuber』がランクインしたというニュースは聞いた事があったが、実際に目の当たりにするのはこれが初めて。
なんと答えたら良いか戸惑う私の様子を察してか、武田は続けて私に声を掛けた理由を告げた。
「だから、スロットもやってて、サラリーマンの道に進んだ誠さんの目から見てどう思うか聞いてみたかったんです。」
私がただのパチスロ好きのサラリーマンであれば、「そんなの知らねないよ」とか「せっかく親に大学に入れてもらったんだから辞めるな」の一言で済ませたかもしれない。
だが、武田の目指すものと規模は違えど、こうして自分の文章をネット上に晒し、それでわずかながらであってもお金を頂く。
そういったライターの真似事をしている自分がそう答えるのは、何か違う気がした。
武田がどちらの道を選ぶにせよ、納得のいく答えを出してもらいたいという気持ちで、私は自身の思うところを武田にぶつけてみようという気持ちになった。
「クラセレのボーナス中の7枚役ってハズすべきだと思う?」
一次会で話題になったクランキーセレブレーションの事を思い出し、逆に私は武田に問い掛けた。
偶然にもこの前日、私も武田もこの最新台を打っていたからだ。
話の前提として、まだクラセレを打った事のない方向けに説明しておくと、クラセレのボーナスには技術介入要素があり、
●BIG中は14枚役を2回
●REG中は14枚役を1回
を獲得して枚数を調整する事で、最大枚数を獲得する事ができる。
そして7枚役は、14枚役を狙う際に目押しを失敗してしまうと揃ってしまう役になる。
一般的なクラセレの打ち方としては、こう書いてある。
「7枚役がテンパイしてしまった場合には揃えず、右リールにコンドルを狙ってハズした方がお得」
こう聞いてどう思うかというのが、私から武田への問いであった。
武田がもし何も思わないのだとすれば、おそらく私と武田の考えるパチスロの面白さは違ったベクトルのものなのだろう。
それは良い悪いの問題ではない。
武田は武田の思う方向に進めばそれで良いのだ。
ただ、ベクトルが違うのであれば、私が武田に何か語るのもまた筋違いになろう。
この問いへの答えを聞いて、私は自身の武田へのスタンスを決めるつもりでいた。
武田が口元に手を当て、考え出したのを見て、私は自分のアイスティーを手に取った。
だが、それに口を付ける間もなく、武田は答え出す。
次のページへ
【 6の付く日はお先に失礼します 】 メニューへ