[3]「パチスロで食べていきたい」と言った若者の目指す先 [2016/11/4(金)] |
「これが8枚役だったらハズした方がお得って話でしょうけど……」
武田の答えは、私の期待した模範解答だった。
7枚役なら2回揃えれば、14枚役を1回揃えても獲得枚数は同じになる。
そうであれば7枚役を1回ハズして改めて14枚役を揃えるのも、7枚役を2回揃えるのも、2ゲームで14枚を獲得する事には変わりなく、そこに優劣はないという訳だ。
「そうなると、後は目押しの難易度の話になりますが……」
クラセレの14枚役の獲得にあたり、最も難易度の高いのは中リールでここはビタ押し。
次に左リール枠内コンドル図柄狙いの目押しで、ここで早めに押してしまうと7枚役がテンパイしてしまう事になる。
右リールは7枚役か14枚役を揃えるにせよ、ハズすにせよ、ボーナス図柄をアバウトに狙えば良いので、ここは簡単。
つまり、左リールで失敗し7枚役を揃えるかどうかという状況になるプレーヤーの場合、もっと難易度の高い中リールのビタ押しにも当然苦労しているはずである。
だとすると、その後、中リールのビタ押しに成功しない可能性もありうる。
そうなった場合、7枚役を揃えておけば+7枚は獲得できるが、ハズした場合には何も獲得できない。
もちろん、その後中リールのビタ押しに成功すれば、前述の通り、どちらも獲得枚数は同じだが、ビタ押しに成功しないケースの分だけ7枚役は揃えた方がお得という事だ。
「だから7枚役は揃えておいた方が良い」
武田の答えを聞いて私は嬉しくなった。
武田の進むべき道について相談を受けていたという事実はさておき、その喜びは、自分と同じ方向を向いてパチスロを楽しむ仲間を新たに得る事ができた事に起因するものであった。
「なぜこんな事を聞いたかっていうとね……」
私なりに思うパチスロの面白さの答えは「考える」ところにあるという事を、私は武田に告げた。
もっと良い攻略法はないかと考えて、実行する事で収支を上げていくのも良い。
もっと面白い事はないかと考えて、動画を撮って再生数を増やしていくのでも良い。
パチスロの面白さの原点は、考える事から始まるという価値観さえ共有できれば、OBが後輩の相談に乗る、アドバイスをするなんて堅苦しい形式を取らずとも、ただ話をしているだけで武田にとってはなんらかのヒントになるだろうし、自然と武田自身で答えを見つける事もできるだろうと思って、クラセレの話を聞いてみたと私は告白した。
「ああしたら良いとかこうした方が良いとか、先輩らしく明確な事を答えてあげられなくてごめんね。」
私が冗談めかして笑うと、そんな事はないと武田は手を横に振ってくれた。
その後私たちは、7枚役を揃えた後に意図せず14枚役がテンパイしてしまった場合はハズせるのか、7枚役狙いの場合に左リール上段コンドル狙いは何コマ目押しなのか、といった、常人であれば興味も持たないであろう話に花を咲かせた。
武田が「ネットにそう書いているのだから7枚役はハズした方が良い」と答えていたら。
武田の思うパチスロの面白さのベクトルが私と違っていたら。
このような話で盛り上がる事もなかっただろう。
武田に何が伝わったか分からない。
武田の求めていたものを私が渡せたとも到底思えない。
ただ、私の目線で見た時に、若者が日に日に堅実に、安定志向になっていく事が囁かれる昨今、武田のようなパチスロバカが現れてくれるのは非常に嬉しい事だと思う。
ただただ、その事が心に残ってこの原稿を書いた。
それだけである。
武田がどのような結論を出したかは今のところ聞いていない。
それが決まるのはまだまだ先の事かもしれない。
ただ一つ言えるのは、私が武田のファン第一号になったという事だけだった。
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