[1]打ち子稼業の実態〜沢渡(さわたり)の場合〜 [2016/10/21(金)] |
男の朝は早い。
朝8時、冷たい雨の降りしきる中、男は今日の仕事場となる秋葉原の駅へと向かう。
男の名は佐渡竜二(さわたり りゅうじ)。※仮名
男の職業は……。
<プロフェッショナル 仕事の流儀>
打ち子一筋3年間、依頼人に勝利を届ける代理人、佐渡竜二。
佐渡は秋葉原に到着すると、依頼人へとメールを打つ。
約束の時間の15分前。
佐渡は必ず依頼人よりも先に現地に到着するよう心がけているという。
10分後、そこに本日の依頼人である山崎が現れる。
山崎は私の友人であり、私に佐渡を紹介してくれた人物だ。
山崎は現れるなり財布を取り出し、佐渡に1万円札を1枚手渡した。
佐渡とは、打ち子と依頼人という関係でしかないが、現金を先渡しする事に抵抗はないと山崎は言う。
「佐渡の事は信用してるから」
この言葉が、これまでの佐渡の仕事っぷりを如実に表していた。
私達はコンビニで朝食を仕入れると、入場抽選を受ける為に集まったスロッターの列の最後尾へと並ぶ。
この朝食代についても、佐渡の分は山崎持ちという契約のようだ。
抽選を待つ間に、皆様が気になるであろう事を聞いていく。
この連載の原稿になる事を伝えると、佐渡は「何でも聞いてくれて良い」と言ってくれた。
話をしていて気持ちの良い男だ。
「打ち子の収入ってどのくらいなんですか?」
失礼を承知で、最も突っ込んだ内容から話を進めていく。
「1日の日当は、朝晩食事付きで1万円ってところかな。」
山崎の方を見ながら、佐渡が答える。
その他、交通費は別である事や、固定給以外にも出玉に応じてもらうご祝儀やボーナスがたまにある事を佐渡は教えてくれた。
「俺の場合、それが月に平均20日で、月収は20万とちょっと、そんなもんだよ。」
佐渡はまだ20代前半。
高卒でその年齢という事を考えれば、決して少ない額ではなかった。
佐渡はスマホに登録したスケジュール表を見せてくれた。
そこには、都内では有名な店舗の特定日がズラリと記載されていた。
そういった日には、誰かしらからは依頼が入ると佐渡は言う。
「これだけ熱い特定日をご存じなら、ご自身で打とうとは思わないんですか?」
思わず口をついたのは、私の素朴な疑問であった。
だが、そんな事にはまるで興味がない様子の佐渡。
「依頼人だっていつも勝ってる訳じゃないからなぁ。」
額は少なくても、安定収入の方が魅力的だと言う佐渡。
確かに、佐渡のスケジュール表を見ればいずれも、うん百人規模で並ぶイベントばかり。
実際、抽選負けして何もできない日や、ハイエナメインの店舗回りを余儀なくされる日も珍しくはないと佐渡は言う。
そんな日でも固定の収入が得られるというのが、佐渡が打ち子を続ける理由のようだ。
佐渡は続けて言う。
「中には、打ち子を連れて歩くのをステータスだと思っている依頼人もいるしな。」
抽選倍率や過去の設定状況を考えた時に、期待値では明らかに日当の出ないイベントに呼ばれる事もあるという。
だが、そんな事は佐渡には関係ない。
佐渡にとっては、依頼人から支払われる日当が全てであり、期待値はそれ以上でもそれ以下でもないからだ。
毎日、確実に期待値が積めて欠損も出ない。
期待値主義者は皆打ち子をやれば良い、と言わんばかりである。
抽選開始までもう少し時間があるので、もう1つ聞いてみる。
「打ち子で生活していくというのは誰でもできるものですか?」
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