[2]打ち子稼業の実態〜沢渡(さわたり)の場合〜 [2016/10/21(金)] |
佐渡にとってはやや意外な質問であったか。
少し戸惑った表情を見せると、佐渡は乾いた苦笑いを浮かべ語り始めた。
「一日限りの打ち子だったら、全くの素人でない限り、誰でもできるかな。」
抽選待ちの列がわずかに動き始める。
とはいっても、我々に抽選の順番が回ってくるのはまだまだ先。
構わず佐渡は話続けた。
「ただ、それで生活できるくらい稼ごうと思うと話は別。」
継続的に仕事をもらおうと思ったら、雇い主にとって有用だと思ってもらう必要があるので、ある程度の知識も必要になる。
雇い主だって、毎日稼働している者ばかりではないので、複数の雇い主とのコネも必要になる。
自分のスキルによって待遇が変わる雇い主もいる為、ただ言われた事だけやっていれば良い訳ではないという事らしい。
そうこうしているうちに、私達3人も抽選を済ませる。
山崎と私はダメダメな番号で、佐渡のみが良い番号を引き当てた。
「じゃあ、狙い台はいつも通りで判別は任せるから。 なんかあったら連絡して。」
山崎は佐渡にそう告げると、同じく抽選のダメだった私に手招きをして、その場を後にするのだった。
その後、山崎と私は稼働を諦めて、近くのゲームセンターに入り、共通の趣味であるゲームを楽しんだ。
その傍ら、私は佐渡の事が気になっていた。
自分の財布に一切関係のない私が気になるのだから、雇い主である山崎はもっとではないのか?
そもそも抽選を終えた時点で山崎は、佐渡の入場整理券で自分が入場し打つ事もできた。
自分で打って判別した方が他人に任せるよりもはるかに安心だと私なんかは思ってしまう。
その時だった。
小役確率、ボーナス当選契機、設定示唆の有無、その他諸々……
設定判別を行う為に必要と思われる全てのデータが記載されたメールが、山崎の携帯に届いた。
開店から2時間とちょっと。
現時点では、中間設定付近の値であった。
後に佐渡は語る。
「自分の仕事は、雇い主が判断するのに必要な情報を提供する事。 だから、自分がどう思うかという個人の意見は含めずにデータだけを正確に伝えるようにしているんだ。」
判断をさせる為に必要な情報は全て届ける。
実際にそれができるだけの知識とスキルを身に付ける努力を、佐渡は日々行っていた。
最近仕事の方が忙しく、新台の知識が追いついていない私なんかではとても太刀打ちできない知識量である。
「前日までに実戦機種の指定があった場合には、寝る前に予習をして、当日、どの要素をカウントするか必ず雇い主と擦り合わせをする。」
佐渡のこの姿勢が、そして、それを常に実践しているという事実が、雇い主の信頼を産み、佐渡の打ち子としての価値を高めているのである。
だから山崎も、他の打ち子はともかく佐渡になら安心して任せておけると言うし、だから、佐渡にであれば前払いでも金を払うのだと言う。
だが当の佐渡は、打ち子として商売をしていくならそんな事は当たり前だと言う。
それに……
「ギャンブルには結果論が付き物だから、設定1だと思って止めた台がフリーズ引いて5,000枚出る事だってある。 その時に雇い主と気まずくならない為に判断は雇い主がするべきなんだ。 そうすれば、結果に対して打ち子に責任は発生しないからね。」
打ち子として継続的に仕事をするには、雇い主との信頼関係は欠かせない。
打ち子は判断しない。
このスタンスは、打ち子として雇い主と長期的な関係を築く為の佐渡の知恵でもあった。
「俺はプロセスについては責任をもってやる。 設定判別要素はキッチリ数えるし、高設定確定演出が出ればぶん回す。 だけど、結果については責任はない。 この事をキチンと理解してくれる雇い主としか俺は仕事をしないんだ。」
出る、出ないはその時の運次第。
そんな事でいちいち揉めていては、この商売を長く続ける事はできないという事らしい。
もっとも、金を払って打ち子を雇った挙げ句、負けてしまった雇い主としては愚痴の1つも言いたくなる気持ちは分からないでもなかったが……
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