[3]打ち子稼業の実態〜沢渡(さわたり)の場合〜 [2016/10/21(金)] |
その後、15時のタイミングで伝えられた佐渡のデータで山崎は高設定を確信。
佐渡にぶん回しを指示する。
そして、19時に山崎と私がホールを訪れた時には、佐渡は別積みで5箱ほどの出玉を積み重ねていた。
山崎は、佐渡と交替して打ち始める。
出玉に対するボーナスと夕食代として、5,000円を差し出すと、
「ありがとう。 今日はもういいよ。」
山崎はそう言って、佐渡の業務終了を告げたのだった。
「今日はたくさん出せて良かったです。 またよろしく頼んます。」
笑顔で着席する山崎に、佐渡も笑顔で答える。
普段、自分の金でも打つ打ち子は、自腹の時に負けて、打ち子の時に大勝ちすると損した気分になるというが、佐渡に関しては一切そのような気持ちはないようだった。
駅までの帰り道。
私は佐渡を一軒の飲み屋に誘った。
とりあえずの生を2つ頼むと、私は佐渡とジョッキを合わせる。
「スロットは楽しいですか?」
佐渡くらいの実力があれば、自分自身で自由に立ち回っても十分勝てるであろう。
私は、その方が楽しいのではないかと考えた。
「確かに、雇い主の判断が最善の判断とは思えない時もあるよ。 俺だったらもう見切るんだけどとか、こっちの台を打つんだけどなぁとか。」
確かに、自由が利かないという葛藤はあると佐渡は言う。
だけど、金をもらったらなんだってそう。
金を稼ごうと思ったらなんだってそうだと佐渡は続ける。
「誠さんだって。 サラリーマンなんかはその典型だろう?」
佐渡は少し意地悪な笑みを見せると、決して自分だけが特別ではないと付け加えた。
「もっと言えば、専業のスロッターだって、設定や期待値という鎖で縛られているんじゃないかな?」
パチスロでお金を稼いでいる人間は皆、決して好き勝手に打っている訳ではない。
本当に自由なのは、収支度外視で好きな台を趣味打ちできる大富豪だけじゃないかと佐渡は語る。
「仰る通りで。」
年下ではあるが、私より遥かにしっかりした佐渡の人生観が垣間見えた瞬間だった。
「ぶっちゃけた話……」
今日佐渡を知るまで私は、打ち子というと、あまりスキルがなく、独断で立ち回っても勝てない人がアルバイト感覚でやるものというイメージを持っていた事を佐渡に打ち明けた。
だが、佐渡の知識量や実戦を見れば、そのイメージが正しくない事は明白だった。
プロフェッショナルとは?
自分に与えられた役割を理解して、それに全力で徹する事ができる人。
自分がなぜ金をもらえるのか、自分の価値を理解して、それを日々高める努力ができる人。
そういう気持ちでいたら、知らないうちに自分の周りに人の輪ができていて、多くの雇い主が他の誰かではなく、自分を選んで、頼ってくれる。
それがプロフェッショナルの証じゃないか。
酒の勢いもあっただろうか。
少しはにかんで、佐渡はそう言った。
謙遜を抜きにして、言葉にしてくれた事は勢いだったかもしれない。
だが、その内容は決して勢いだけで語れるものではなく、佐渡の過ごしてきた日々の尊さを物語るものであった。
「最後に1つ。」
こう前置きして私は佐渡に尋ねた。
「将来の夢は?」
佐渡は手にしていたジョッキを空にすると、なんの躊躇いもなく語り出した。
「さっきも言ったけど、今自由にパチスロを楽しんでる奴なんてほとんどいないと思うんだ。 だから……」
打ち子として、スロッターのコミュニティーを広げて、その輪の中にいる皆でスロットを楽しめたらと佐渡は言う。
「貯めた金でスロゲーセンでも開いて、毎日イベントにしたい。」
佐渡は、この日初めて年相応のかわいらしい笑顔を見せた。
それは、最後の最後、佐渡のパチスロに対する愛を伺い知る事ができた瞬間であった。
※ サイト編集部による追記 ※
「打ち子」とは、「設定読みに長けている人間が指定した台を、報酬を貰って打つ」という人の事。
店から設定を聞き、設定を知りながら打つ、いわゆる「サクラ」とは全く異なります。
「打ち子」という存在・概念がアリかナシかにつきましては、皆様の価値観に基づいてご判断ください。
なお、インターネット等での打ち子募集は、
ほぼ詐欺です。
絶対応募したりはしないでください。
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