[2]園長列伝≪その1≫ 〜ホールからのサインを見逃すな〜 [2016/6/24(金)] |
7時45分、メンバーの一人が着メロに反応して携帯電話を開く。
それにつられるように、次々と自分の携帯を手にする軍団メンバー。
この日の実戦ホールからメールが送信されてきたのだ。
●本日、チェリーが熱いあの機種が全台設定◯◯
●当店看板のメイン機種が期待度MAX
そんな内容だったように記憶している。
このメールを見た私達軍団員の話題は、「チェリーが熱いあの機種とはどの機種か?」という点に集中した。
「チェリーが熱いと言えば、やはり中段チェリーがバトルボーナスへの突入契機となる北斗の拳だ」と言う者。
「チェリーからのゼニガタイムが設定看破のカギになる主役は銭型はどうか」と言う者。
仕舞には、「アラジンの単チェが最強だろう」だの、「吉宗だってチェリー解除がある」だのと、その時点では設置の無い機種やこじつけに近い機種まで名前が挙がり、なんでも有りな状態に。
その時、私は何気なくこう言葉を発したのだ。
「園長は何だと思います?」
皆の視線が園長に集中する。
だが、園長は押し黙ったままで一切の言葉を返さない。
それまで私達の話し声で賑やかだった周囲は一瞬静まり返り、私達の周りだけ時が止まったかのようだった。
一人、二人、通勤途中のサラリーマンや制服姿の女子高生が目の前を通りすぎる。
15秒……30秒……と、私はその姿を見送った。
その時。
「4時間並んだのだからソロでも打ちたい、という発想の奴は、2時間しか並んでない今のうちに家に帰れ。 黙って打たずに勉強できる奴だけ残れ。」
私達の前に立つと、園長はくわえていたタバコを手に取り、頭上にふっと煙を吐いた。
そしてそう言ったのである。
今日は軍団として乗り打ちはしないし、稼働自体もしない。
だけど開店までの残り2時間そのまま並び続ける、という園長の理不尽極まりない発言に私達は戸惑った。
4時間も並ぶのだから、打たなきゃそれまでの時間が無駄になる。
勿体ない。
そう思うのが普通であろう。
だが、そう思うのであれば今のうちに帰れと園長は吐き捨てる。
今まで園長の言う事に大きな間違いがあった試しはない。
それは、その日集まったメンバー全員が理解していた。
園長が今日は打たないと言うのだから、打たない方が良いのだろうと誰もが思った。
だが、それでも並び続けるという園長の言動だけは誰も理解する事ができなかった。
結局、この日集まったメンバーの中でその場に残ったのは、園長を盲信する私ともう一人だけ。
私達は、3人で開店時間を迎える事となった。
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