[3]園長列伝≪その1≫ 〜ホールからのサインを見逃すな〜 [2016/6/24(金)] |
開店前、園長は一言だけ私達に言った。
「いつもと何がどう変わっているかをよく見ておけ。」
開店と同時に店内に飛び込んだ私は目を疑った。
●全ての台が北斗揃いの北斗の拳
●吉宗/爺/姫……と異なるキャラ札が刺された吉宗
その他の機種も全台が7揃いで、しかも「注目機種」だの「本日のおススメ」だの、なんらかの札が全ての台に刺されていたのである。
皆、口にはしなかったが、このホールの立ち回りは既に園長から完璧に盗んだつもりであった。
冒頭に書いた通りの基準で台を選んでいれば、自分の力だけでも高設定をツモれるものと思っていた。
だが、そんな自信はただの勘違いだったのだ。
その証拠に、この日、私達はどの台に座れば良いのか一切分からなかった。
それでも、園長の言葉がなければ、おそらく私はチェリーの熱い北斗の拳に座っていただろう。
どの台が高設定の可能性が高いか、そんな絞込みもできないままに……
朝一の状況を確認した私達は一旦解散して、21時前にもう一度ホールに集合した。
設定発表の結果を見届ける為だ。
この店では、設定発表のタイミングで着席していた客は、発表された設定を確認する事ができた。
店に入る直前、園長に言われた事は3つ。
●とにかく出ている台に座って、設定発表を待て
●札が刺さったら、確認するかと言われなくても設定確認をしろ
●設定確認を断られたら、大人しく引き下がれ
設定発表の直前にホールに入った私達は、園長の指示に従ってその日単純に出ている台を選んで千円だけコインを借りた。
そして、21時。
「おめでとうございま〜す!」
私の座る北斗の拳にエビの札が刺さる。
だが、通常であればこの後に続くはずのあの言葉がこの日は無かった。
「設定を確認されますか?」
いつもならあるはずのその言葉が無い。
私は店員を呼びとめてこう尋ねた。
「確認できますか?」
「大変申し訳ございませんが、当店ではそのようなサービスは取り止めになりまして。」
店員が笑顔で答える。
全て事前に園長から聞いていた通りであった……
千円分のコインを使い切り、店を後にした私達はいつもの牛丼屋に向かった。
「エスパーですか?」
テーブルに座るなり、私は言った。
「ん?」
不思議そうな顔で園長がこちらを見る。
「朝から全て分かっていたんですよね。 どうして?」
この手の質問に園長が答えてくれない事は分かっていた。
だが、その魔法の仕掛けを私はどうしても聞かずにはいられなかった。
すると……
「今日は収入0で最後まで付き合ってくれた二人に免じて、特別に。」
そう前置きして、園長は魔法の種明かしを始めた。
「メールが先月のイベントの時から変わっていただろ。 だから、今日は見(ケン)にまわった方が良いと思ったんだ。」
●メールの送信時刻が8時ではなくなった事
●メールの内容がですます調から体言止めになった事
●3台に1台、最強設定といった具体的に設定配分を示す文言がなくなった事
●全台◯◯、期待度MAXといった抽象的な文言が増えた事
園長は朝受信したメールを開くと、1つ1つ指さして指摘をしていく。
今でこそ知っていて当然のように感じるが、全て
「ホールの経営方針が変わった時のサイン」として知られている事ばかりだ。
最後に、園長はこう付け足した。
「今回のように良い方向から悪い方向に変わった場合は、90%設定状況は悪化していると思った方が良い。」
園長の言葉に頷く二人。
頼んだ牛丼はとっくにテーブルに運ばれてきていた。
「では、逆のケースはどうだと思う?」
昨日まで抽象的で、狙い台も機種も絞りようがないようなメールを送ってきていたホールが、急に具体的で明確なメールを送ってきた場合だ。
「そのケースだと、信頼度が高いという事ですか?」
私の答えに、牛丼を口いっぱいに頬張った園長は全力で首を横に振った。
「その場合は、3割設定が入ってれば良い方だ。 だから、今日みたいな見が大切なんだ。」
周囲の状況は刻々と変化していく。
だから、昨日まで通用した事が今日も通用するとは限らない。
それはパチスロに限った話ではなく、仕事をする上でもなんでも同じだ。
その変化に誰よりも早く気付き、その目で確かめ、対応していく事が常勝への道だという事だろう。
その後、園長はポップの変化だの、データ表示機のランプの色だの様々な着眼点に気付かせてくれた。
いちいち見せてもらわなければ気が付かないバカな私も、さすがに色々な事を学んでいった。
そして現在、そんな私も仕事上では後輩を指導する立場になっている。
教える中身は違えど、あの頃の園長のような師匠になりたいという気持ちはとてつもなく大きい。
そんな事を思いながら、今日もあの列に並んで私はホールからのLINEに目を通す。
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