[2]スロッターズライフは小説より奇なり [2017/9/1(金)] |
駅に着くなり、彼女をすぐに見つける。
気分が落ちている事も相重なってか、見つけた瞬間の心の高揚はいつも以上だ。
そんな自分の笑顔につられる様に、彼女も笑みを返してくれる。
この幸せな時間を一生守りたい。
しかしながら、お金の使い方の優先順位の第1位がスロットである以上、彼女を幸せにする事は出来ないのだろう。
それならば止めればいいじゃないか。
そう思う人が8割だろう。
立ち回りをシビアにして、勝率を上げればいいじゃないか。
そう思う人は1割。
わかるぞ、わかるぞヒグラシ!!
そう思ってくれる人が1割はいると信じながら、感謝して進む荒れたオフロード。
世の中には、簡単そうに見えて難しい事が山ほどある。
本当にどうしようもない人間だと分かっていても、どうする事も出来ないし、変わる努力も出来ない。
だからと言って、助けを求める事もせず、常に嘘を付きながら、まともな人間を出来るだけ装うとしてしまう。
全てが中途半端ならば、いっその事中途半端を極める。
中途半端な私が中途半端を中途半端にだけは…
この話はもう止めよう。
そんな事など何も知らない彼女は…
『今日はどうしてもパスタが食べたい』
夢見る少女の様に可愛いらしく、そんな事を言うのだった。
なんて事のない他愛のない話をしながら、食事を終えて外に出る。
少し駅までの道を遠回りし、人通りの少ない公園に差し掛かかる所で、いつもなら普通に通り過ぎるところをこの日は違った。
『ブランコに乗りませんか?』
ブランコに乗るなんて、15年ぶりくらいだ。
「夜のブランコ楽しそうだね!」
と、大賛成の返事をする。
ただ、勢いよくブランコを漕ぎ出す私の隣で、彼女は静かにブランコに座っている。
そして、わりと本気でブランコを漕いでいる私に向かって、彼女は急に、
『一つ質問があります』
と、私がブランコの1番高いところに到達したあたりで、そう言うのだった。
これがスロットだったら、間違いなくボーナス直撃だ。
「質問?」
恐る恐る聞き返すと、
『はい… あのー… 結婚とかって考えてたりします?』
そんな急に真面目な話をされるとは思わなかったせいか、
“靴飛ばし”をしようとしてた自分が恥ずかしくなる。
「まだ社会人になって間もないし、仕事にももう少し慣れて、更には経済的にも少し落ち着いた時に、結婚とかは考えたいかな」
そんな言葉に対し彼女は、
『そうですかー。 私は結婚願望が元々強くて、出来れば早くしたいなって思ってます』
…私の身の回りの事を何も知らないのに、そうやって信用してくれる彼女は、本当にかけがえのない存在だ。
そして、そんな彼女を裏切っている自分自身が心底憎い。
休みの度にスロットに行っては、やらなくてはならない事を後回しにし、自制も効かずに大金を失っては自暴自棄になる。
寝て覚めてしまえば根拠のない自信が再び生まれ、打つためのお金を日雇いでかき集めては、それを再びスロットに注ぐ。
絶え間なく注ぐメダルの名を永遠と呼ぶ事はできないのだ。
それに、仕事の事だって…
色々な自分自身へのイラ立ちや、彼女への申し訳なさが相重なって、
「すぐに結婚したいなら、他の人を探した方がいいよ」
と、若気の至りとはいえ、光ったゴーゴーランプですら消灯しかねない程のひどい一言を、つい言ってしまったのだった。
言葉でありのままの気持ちを伝えるのはとても困難だ。
そして、これほどまでに愛しい彼女を、想いと反して、ただ傷つけてしまったのだった。
どうしてスロットなんて覚えてしまったのだろうか…
こんな人生勘弁してくれ…
いっその事、記憶喪失になってしまえばいい…
そんな自暴自棄になる私に、彼女は一言。
『今は好きだから、それは考えられないです』
と、そんな言葉を返してくれたのだった。
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