外に出ると俺は近くの駐輪場を指差し、そこで調べるよう促した。
駐輪場を選んだのは、人目につきやすいだけでなく壁にも面していたからだ。
男はあっさりと承諾した。
俺はため息混じりに言った。
俺 「もう一回言うけどさ、俺はゴトなんてしてない。 ただあの台が高設定だから出てるだけ。」
男 「ワイもそう思っとるよ。 あれだけ出してても店がなんも言ってこんみたいやしな。」
俺 「・・・・・・」
男 「でも調べることはしとかんと、後でワイが怒られるからな。 ・・・ワイな、組に頼まれてゴト捕まえる仕事しとるんよ。 捕まえたらそいつの名前と住所聞き出して、写真を撮る。 そしてそれを全国のホールに流す。 一枚単価は安いけど、数売れるから結構儲かるで。」
俺 「・・・・・・」
もしこの時、違和感を感じることができたならまだ間に合っていただろう。
しかし俺は、とってつけたようなこの話に、「なるほどな」と思ってしまったのだ。
ゴトは毎日身近で行われている犯罪ではない。
そして一人でやってるとも限らない。
ましてやゴト行為など、大抵の場合はホールが先に見つけてしまうものだ。
仮にホールより早く見つけたとしても、警察沙汰になりやすい。
そんな不確実なものに、そしてほとんど見つからないだろうという相手を探すために、毎日ホールを巡り続けることなどバカみたいな話なのだ。
あまりにも非現実的すぎて、副業としてすら成り立つわけがないのだ。
俺はこの時の男の言葉に、「何事もなく終わりそうだ」と安心してしまったのかもしれない。
自分でもそれに気づかなかったのだろう。
『すぐに終わる。』
そう考えてしまった時点でチェックメイトだったのだ。
そう。
出口が見えると人は後ろを振り返らない。
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