なかなかヨシツグの都合がつかず、二人揃ってこのホールを訪れたのは、前回ダイキチがパチスロの楽しさを誰かに伝えたいと思ってから一週間の後だった。
「で?このジャグラーってのを打てばいいんだな?」
4台並んで「アイムジャグラー」が設置されており、そのうちの2台に二人は並んで座った。そして、この時ばかりはさすがのダイキチも設定の良さそうな台を自分では打たずにヨシツグに薦めたのだった。
下皿に出てきたコインを数枚掴み、ヨシツグは慣れない手付きでコインを台に投入する。
「で、だ。さっきのダイキチ先生のありがたい講義のおかげでパチスロの基礎はなんとなくわかったけどよ、問題は目押しだよな」
「とりあえず目押しを覚えるにはこういうシンプルな機種でいいよ。それに、ジャグラーならパチスロの楽しさを味わえるんだよ」
「ふ〜ん」
「で、その目押しだけど、右のリールだけを目押しして、後の二つのリールは適当に押せばいいから」
「右?左から止めるんじゃねぇのか?」
「別にどこから止めたっていいんだよ。それにジャグラーだと右を最初に止めた方がパチスロってモノを堪能できる。さらに右リールが一番目押ししやすい。特にヨシツグみたいなズブの素人にはね」
「…毒のある言い方だな、オイ」
「じゃあほら、リール回すよ?ほら、オレンジ色がスーッと通り過ぎるの、見える?」
「ああ」
「それが7。それを目押しするんだよ。さっき言ったように、イチニッサンのタイミングで」
「ああ、イチニッサンな」
「試しにやってみ」
「おう」
ヨシツグは回るリールを真剣な眼差しで見つめる。
「オレンジ色……来た……イチニッサン…イチニッサン……イチニッサン!」
「おっ、7が止まったじゃん」
「おお〜」
生まれて初めての目押しできちんと7を枠内に止める事ができ、ヨシツグは満足げである。
「いいじゃんいいじゃん。その調子でしばらく打ってみなよ」
ヨシツグは毎ゲーム真剣にリールを見つめ、いちいち時間はかかるものの、しかし真剣に目押しの練習をする。
一方のダイキチはダイキチで、何を思ったかレバーを縦横斜めと叩く。
「ダイキチ、何やってんだ?それ」
「ん?」
「レバーを下から上に叩いて」
「ああ、これ?これはね、こうやって叩くとボーナスを引きやすい…気がする」
「はぁ?…え?それってお前、もしかして攻略法か何かか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。でも、平均すれば150ゲームに1回くらいボーナス引けるかな」
「150ゲームに1回…って。なぁおい、この台の大当たり確率ってどれくらいなんだ?」
「えーと、設定6だと134分の1、設定1だと176分の1、だな」
「…………え?」
「え?」
「え?」
「ああ、いやいや、それくらいの知識はスロッターとして当然の事だよ」
「…いや、そういう…事じゃ、なくて」
何かを悟ったヨシツグは、脱力しきった表情で再び自分の台に向き直った。そもそもダイキチが言うにはリール横のランプが点灯すればボーナス確定だという事だが、それさえもこいつの妄想だという可能性がある、と不安になってきた。
その時、突然ヨシツグの台からガコッと音が鳴り、例のランプが点灯したのだった。
「おおっ、びっくりしたな。おい、光ったぞ」
「やったじゃんヨシツグ。ボーナス確定!」
「本当か?」
やはり不安は払拭できていないようである。
「でも残念ながら…」
「やっぱり妄想…」
「それはバケだね」
「バケ?」
「レギュラーボーナス。ほら、教えたじゃん。ちょっとしか出ない方のボーナスだよ」
「本当か?」
「でもいいじゃん、ボーナスなんだから」
「だから本当なのか?」
ここでヨシツグは目押しでボーナスを揃えなければならない。少し難儀したが、それでも5回程でボーナスを揃える事ができた。
「おお〜、揃った」
「やったな、初ボーナス」
「すげぇ〜。揃った。つーか、揃えた、俺」
「そうだよ、ヨシツグが目押しして揃えたんだよ」
「すげぇな。パチンコは数字が勝手に止まって揃うけど、パチスロは自分で揃えるんだもんなぁ」
「そこがまずパチスロの楽しいトコだよ」
「ああ、確かにそうかもしれない」
その後しばらくは二人ともボーナスを引けなかったものの、やはりヨシツグは目押しに夢中になっている。
「なぁダイキチ」
「ん?」
「もしかしたら俺の気のせいかもしれねぇけどさ、なんか、法則がねぇか?」
「法則?」
「うん。最初はな、俺の目押しがヘタなんだと思ってたけど、どうも法則があるんじゃねぇかって気がしてな」
「ほぅほぅ、どんな法則?」
「ん?いやぁ、だからな、たいてい7が一番下に止まるんだよ。でも、たまに真ん中とか上に止まる事があるんだよな」
「さすがヨシツグだな。気づいたか」
「お、やっぱそうか。そんでな、7が真ん中に止まった時って、いつもブドウが揃うんだよ」
「おお〜、さすが。ま、オプションもあるけど」
「は?で、上に止まった時は何も揃わない」
「ほほぉ〜。ま、そこは追い追い」
「あん?でな、7がどこにも止まらない事もよくある。これは俺のミスかな」
「いや、ミスじゃないと思うよ」
「え?そうか?じゃあ何だ?」
「それはね〜、ヒミツ」
「何ぃ?」
「はははっ。もうちょっと打ってみなよ。そこを気にしながら。何か発見できるかもよ。ヨシツグだったらあると思うよ、ソコソコの実力が」
「お前…さっきからわざと言ってんのか?」
その後、ヨシツグは50ゲームほど打った所で何かに気づいたようだ。
「おい、わかったぞ」
「おっ」
「7がどこにも止まらない時はよ、真ん中にこのサイが止まるんだな」
「そうそう」
「で、その時はたいがいブドウかサイが揃う。でも何も無い事もある…」
「やっぱヤルなぁヨシツグ。シロートにしちゃ上出来だよ」
「…ケンカ売ってんのか」
「その何も揃わない時はね、チェリーだよ」
「チェリー?」
「ま、今日のとこはそれはいいか。それとさ、さっきのボーナスの時、ランプが光った時、7がどこに止まったか覚えてる?」
「あん?あの時か?え〜と……上、だったか…?」
「そう。楽しいだろ?」
「は?何がだ?」
「ふふん」
「なんだよお前。ま、確かに7が止まる法則みたいなのがあるんだな。それは面白いよなぁ。しかも、それを自分で発見できたんだもんな。パチンコだとよ、ただハンドルを握ってるだけで、ひたすら数字を見てるだけだろ?でもパチスロは自分で止められる。しかも好きな場所で止められるんだよな。なんか、すげぇ面白ぇ」
「だろ?そうだろ?そこ、そこなんだよ」
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