初めて挑んだ目押しが思った以上に上手くゆき、ヨシツグは満足げであり、どころか仄かに上気しているようにも見える。
「ちっと休憩しようぜ」
二人は店内の休憩スペースへ移動し、缶コーヒーを買いにゆく。
「へっ、しょうがねぇ、授業料だと思っておごってやらぁ」
「おー、ヨシツグわかってるじゃん。俺もいつ言い出そうかと思って、そのタイミン…」「やっぱヤメた」
「えぇ〜」
椅子に座り、二人同時に煙草に火を着ける。
「いや、俺もな、前に知り合いと一緒にパチスロ打った事はあったんだよ。ほんの1,2回だけどさ。でもそん時ゃ目押しなんてしないで適当に押してただけだったし、当たりも引けなかったからよ、パチスロなんてどこが面白いんだよ、なんて思ったけど…」
「けど?」
「面白ぇ」
「だろ?」
誰かにパチスロの楽しさを伝えたいと思い、思った以上にヨシツグは楽しんでいるようであり、そしてそれがまたダイキチを満足させたのだった。
「パチンコも楽しいし、ちゃんと立ち回ればもちろん勝てるんだけどさ、なんつーか…」「なんつーか?」
「確かにパチンコ打ってるのは自分なんだけどさ、自分で打ってるにもかかわらず、なんか自分がただの傍観者になってる感じかな」
「ああ〜、なるほど」
「ただひたすらハンドル握って見てるだけ、なんだよな」
「確かにそうだなぁ。でも、俺もずっとパチンコやってたから、パチンコの楽しさはよくわかってるよ。なんてったって釘を読む楽しさがイイ」
「もちろんそうなんだけどよ、そりゃ俺もよくわかってるよ。でもな、一度台の前に座ったら、後は傍観者だよな」
「だよな」
「だけど、パチスロは台の前に座ってからも面白ぇんだな。なんつーか…」
「なんつーか?」
「そう、積極的に介入できる」
「そう!」
「で、介入するとすごく面白ぇ。だから前に打った時みてぇに適当に打ってるとあんまり面白く感じなかったのかもな」
「そう!」
「それに、ダイキチの言う勝ち負けとか金銭的な楽しさ以外の部分でも、あれは楽しいと思うぞ」
「だろ?だろ?」
「だってよ、7を目押しして、7が下に止まろうが上に止まろうが真ん中に止まろうが、それって儲けとは全く関係ないだろ。儲けとは全く関係ないけど、その部分がすげぇ面白ぇ」
「そうなんだよぉ〜。いやぁ、わかってくれて良かったよ」
「いやしかし、パチスロって…」
「やっぱヨシツグが記事を書くべきだよ!」
「…お前、まだ言うか?」
一服し終わると二人は再び台へと戻った。
真剣な眼差しでリールを見つめるヨシツグを見ると、ダイキチは嬉しかった。
「俺もそろそろボーナス引きたいなぁ。少しはヨシツグにイイとこ見せなくちゃな」
しかしなかなかボーナスを引けず、レバーを叩く手に自然と力が入る。
「おっ、右中段7」
左リールにBARを狙うと、BARが下段に停止した。
「キタっ」
そして中リールに7を狙い、ボタンを押したままにする。
「ヨシツグ」
「ん?」
「コレ」
「ん?…それがどうかしたのか?」
ヨシツグはダイキチの台のリールを見るが、ヨシツグには何の事かわからない。
「リーチ目」
「リーチ目?」
「そう、リーチ目。ほら、バーと7が並んでるだろ?これがリーチ目っていって、ボーナスが成立してる時にしか止まらない出目なんだよ」
「ボーナス?…だって、ランプが光ってないじゃんか」
「へっへっへ〜。見てな」
ダイキチがボタンから指を離すと同時に告知ランプが点灯する。
「おおっ!なんだソレっ。おい、何だよそれは!」
「へっへっへ〜。ジャグラーはね、第三ボタンから指を離した瞬間にランプが光るんだよ」
「そうなのか?すげぇな。ん?ダイキチお前、なんで光るってわかったんだよ」
「だからリーチ目」
「あ、そうか。ん?つーか、なんでそのリーチ目ってのが出るってわかったんだよ」
「それはだね〜、へっへっへ〜」
「なんだよオイ、もったいぶらないで教えろよ」
「ヨシツグもコレやってみたい?」
「おう、早く教えろって」
そこで、二人はまた休憩スペースへ移動する事にしたのだった。
「あ〜、なんか喉渇いたなー」
「くっ…生臭野郎が。わかったよ、コーヒーおごってやるから教えろって」
「え?いやぁ、悪いなぁ。なんか俺が要求しちゃったみたいじゃんか」
「どアホぉが…」
椅子に座るとダイキチは早速ヨシツグに説明を始めた。事前に基礎的な事は教えてあるため、ヨシツグはすぐに理解したようだ。
「よーし、俺もやるぞ」
すぐに台へと戻り、力強くレバーを叩く。
「ヨシツグ、7が右リールの中段か上段に止まったらちょっと期待できるよ」
「そうなのか?真ん中とか上には時々7が止まるけど…ボーナスにならなかったぞ?」
「う〜ん、押したタイミングにもよるからなぁ。とにかく、中段か上段に止まったらちょっとドキドキした方がいいよ」
ヨシツグが右リールを止めると、ダイキチがそう言ったそばから中段に7が停止した。
「おっ、真ん中キタぞ」
「よし、じゃあ左にバー狙って。バーはふたつあるけど、どっちでもいいから」
「真ん中のリールじゃダメなのか?」
「いいんだけど、チェリーの可能性もあるから先に左を止めちゃうんだ」
回転するリールを何度も何度も見つめ、ヨシツグはタイミングをはかる。
「ふたつあると感覚が狂うな…。イチニッサン……イチニッサン」
「キター!2確目!やったじゃんヨシツグ」
「おお〜。止まった」
左リールの上段にBARが停止し、残るは中リールだけである。
「じゃあ中リールに7を狙って」
「よし。イチニッサン…」
「あ、ヨシツグ」
「なんだよっ」
「ボタン押しっぱなしだよ」
「おう。…イチニッサン…イチニッサン……イチニッサン!」
狙い通り中リールに7が停止した。
「やったじゃん」
「おぉ…。止まった…。これでボタンから指を離せばいいんだな?」
「そうだけど、そう焦るなって。押しっぱなしでタメてる瞬間がカイカンなんだから」
「すげぇ…。リーチ目かぁ。おい、離すぞ?」
「いいよ」
「せーのっ」
その瞬間にガコッと音が鳴り、ランプが点灯した。
「リーチ目、気分いいだろ?」
「おう。さすがにスロバカだけあって詳しい事知ってるな」
「へっへっへ。知ってるっつーか、自分で発見したんだよ」
「そうなのか?お前みたいなヤツでも何か取り柄があるもんなんだな。それにしても…すげぇな」
「いやぁ〜」
「すげぇ。すげぇぞ」
「いやぁ、そんなに褒められると…」
「すげぇぞパチスロ」
「…え?」
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