二人ともほとんど儲けなど出なかったが、パチスロという物を味わったヨシツグは何やら上気した表情でホールを出て、そしてそんなヨシツグの顔を見るダイキチはずいぶんと嬉しそうだった。
帰宅したダイキチは、例によって煙草を燻らせながら思いを巡らせる。
「ヨシツグ、楽しそうだったなぁ。俺も始めてリーチ目を見つけた時は嬉しかったもんな。あのアクアビーナスじゃあトータルでかなり負けたけど、あのリーチ目出してネジるのが楽しくて毎日打ってたな」
窓際に置いてあるサボテンのミカエルは、いつの間にやら背が伸びた。伸びながら、少しずつ窓の方へと傾いてゆくのだ。やはり光を求めているのであろう。そこで、いつだったかダイキチはミカエルの向きを逆にしてみた。つまりミカエルは窓とは逆方向に傾く。しかし、気がつくとまた向きを変え、光の方へと傾いているのだった。
「よし、とりあえず記事を書いてみるか。どうなるかわかんないけど、ヨシツグを見てたらパチスロの楽しさってのがわかった。つーか、わかってたんだけど、こう…再発見した、って感じかな」
踏ん切りのつかなかったダイキチも、ついに記事を書く決意をしたようだ。スマートフォンを手に取る。スマートフォンの中のメモ帳に記事の下書きをするつもりらしい。
「え〜と、何て書くかな。ん〜と……みなさんこんにちは。…ん?夜に読む人もいるかな」
ダイキチは阿呆ではあったが、パチスロの楽しさは身に染みている。それを何とか文章にしようと考えていた。何を書けば良いかわからず、見切り発車ではあったが、とにかく書く事にしたのだ。
「それはやめよう。じゃあ、え〜と…ん〜と……そうだっ」
椅子がガタッと音を立て、ダイキチは立ち上がった。
「とりあえずメシ食おう。それからだ」
立ち上がったダイキチは窓に近づくとカーテンをいっぱいに開け、ミカエルの向きを逆にするとコップに少しの水を入れ、それをミカエルの植木鉢に注いでやると部屋を出ていった。
ミカエルの棘の一本一本がきらりと陽を反射し、光を求めて再び動き出すのだ。
≪連載プロローグ 了≫
※プロローグとしての私小説風連載は今回で終了となり、次回からは通常連載へと移行します。
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