どこからどう見ても不審な挙動で周りをキョロキョロと見回す。
「やっぱ…ムリ」
耳をつんざく大音響。 見知らぬ人間の集塊。 欲の集塊。 歓喜の高揚。 隅々に蟠る怨嗟の残滓。 それらを内包し、且つそれらを努めて抑え込もうとする、色を成さずに居並ぶ顔。
結局、ダイキチは再びここへ戻ってきた。
パチスロを辞める決意をしたダイキチだったが、ライターとして記事を書くにあたり、やはりアミューズメント仕様のゲームセンターのパチスロよりも実際にホールでパチスロを打つべきだと考えたらしい。
そして、どうせパチスロを打つならダイキチにはどうしても打ってみたい機種があったようだ。 そこで、その機種が5円パチスロとして設置されているホールを訪れたのだった。
このホールの5円パチスロは交換率が悪く、その分設定は良いらしい。 パチスロそのものを楽しむ事を目的としたダイキチとしては、たとえたいした儲けは出なくとも高設定台を打ってパチスロを楽しむ為に5円パチスロを打つ事にしたのだった。
「やっぱムリだなぁ。こっ恥ずかしいよな、推しメンを設定するなんて」
仕方なく、何もせずに打ち始めると、その「推しメン」とやらに設定されているのはダイキチの知らないメンバーである。
もっとも、ダイキチは彼女達には全く興味が無く、ちゃんと知っているメンバーはほんの数人だけであり、その中のお気に入りの一人を設定しようと考えていたようである。
「しょうがないか。でも、この推しメンの子、俺のタイプじゃないなぁ。つーか、名前も知らないし、顔も初めて見たよ、この子」
初めて打つ機種であり、その上何の予備知識も無く打ち始めたのであるが、500枚のコインを投資したところで訳のわからないうちにボーナスに当選し、その後ARTにも当選した。
「おー、48が揃いまくるんだな。こりゃあ気持ちイイや。おっ、ダブルライン」
レバーを叩くが、リールが動かない。
「えっ?…フリーズ?このフリーズは何?」
するとリールがそれぞれ動き回り、次々にゲーム数が上乗せされる。
「おっ?おっ!すげっ。こりゃあ本当にカイカンだよ。160ゲームスタートか」
ARTを消化し始めると、ゲーム数が減るどころかどんどん増えてゆく。
「あー、この子、可愛いよなー。名前知らないけど」
「あっ、この子は知ってる、顔だけは」
「ああ、この子はあれだよ、名前はほら……まぁいいや」
「ん?そういやボーナス中にメンバーの名前が出てくるけど…いちいち覚えられないや」 次から次へとレア小役を引き、次から次へとボーナスに当選する。
「おっ…やっと出てきた、我が愛しの…」
またしても上乗せゾーンに移行し、何度も48図柄が揃う。
「しっかしあれだな、初打ちでこんなに出るとはなぁ。それにしても、AKBなんて全っ然興味なかったけど、可愛い子がいっぱいいるんだなぁ〜。こんなに可愛い子ばっかなら………俺もAKBに入りたい…」
阿呆の見る夢は果てしない。
再びリールがフリーズし、100ゲーム程のゲーム数が上乗せされる。
「どうしちまったんだ?今日の俺は。すげぇヒキだな」
ボーナス後にまたもや上乗せゾーンに移行する。
「お、まただよ、なんちゃらコンボ。ん?超絶って書いてあるけど、何だろ」
こうして一度に3000枚のコインを得たのだが、その後はダイキチの悪い癖で他の機種を打ち回っているうちにコインが2000枚にまで減ってしまった。
「どうすっかな。バイオでも打つか。その前に少し休憩してこよ」
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