台の上にドル箱を置き、下皿にもいくらかのコインを放り込むとダイキチは休憩スペースへと向かい、缶コーヒーを買うとソファーに座る。
「パチスロ辞めるつもりだったけど、やっぱホールに来て良かった。久しぶりのこの感覚。記事を書くにはこの感覚を取り戻さないと」
コーヒーをひと口飲むと煙草を咥え火を着ける。
「ゲーセンのパチスロも楽しかったけど、アミューズメント仕様のパチスロなのかと思うとイマイチ気分が乗らない。それに…やっぱ俺はこの空気が好きなんだな」
休憩中なのか、或いは既に諦めたのか、数人の若者が黙々と漫画を読んでいる。
「俺も20年以上ホールに入り浸ってるんだもんな。今時のゲーセンみたいなクリーンな空間より、こういう欲望が渦巻く空気が性に合ってるんだな。パチスロ辞めるつもりだったけど、記事を書くならこの空気の中にいないとダメかもな」
煙草を吸い終わると立ち上がり、再び台へと戻る。
いざ打ち始めると、ここでまたARTに当選し、立て続けに2回当選する。
「やっぱ今日はヒキがいいや。上乗せもかなり引けるし、10ゲームが80ゲームまで増殖するし」
そのARTも終了し、ダイキチもそろそろ帰ろうかと思い始めた。
「終わったかぁ。99ゲームまで回すのも面倒だし、1ゲームだけ回して帰ろうかな。ART終了後の1ゲーム目でレア役引けば復活だし」
台の脇に置いてある煙草とスマートフォンをポケットに仕舞いながらレバーを叩く。
「って…おい、1ゲーム目でおっぱいキタぞ…。これはレア役だろ」
思った通り、リールにチェリーが二つ並んで停止した。
「復活だよ。何だ何だ、今日はどうしちまったんだ?いつもの俺とは全然違うじゃんか。これは、あれか?もう一生分の運をここで使っちまったのかな」
左リールの上下段に7が停止し、7が斜めに四つ並ぶ。
「すげぇな、俺。こんなにツイてて俺、もう死んじまうんかな…」
ART中も何度もゲーム数が上乗せされる。
「いやいや、運を使い果たしたとか、もう死ぬんかなとか、そんな事言ってるとまたヨシツグに馬鹿にされるよな。そうだよ、運を使い果たすとか、運が尽きてもう死ぬとか、そんな事はない。そう、ヨシツグがよく言う…そう、そんな考えは合理的じゃないってヤツだ。そうそう、運が尽きるとか、そんなんじゃない。そうじゃなくて……」
ガツンとレバーを叩く。
「俺にはパチスロの神がついてるんだっ」
どちらにしろあまり合理的ではない。
ここでも1000枚を超えるコインを得て、締めて2500枚程のプラスで終わったのだった。「くぅ〜っ。バイオは楽しいよなぁ。つーか、パチスロはほんと楽しいや。この楽しさを書くのかぁ」
どのような記事にするかダイキチは考えてみようとしたが、あまりの興奮の為にそれどころではない。
「あー、なんか、記事なんてどうでもいいや。そんな事より、なんつーか…パチスロって楽しいー!って叫びたいよ。この楽しさを…この楽しさを、誰かに伝えたい。伝えたい、けど…」
一人悶絶するダイキチを、隣で「ジャグラー」を打っているお婆さんが不思議そうな顔で見る。
「となりの婆ちゃんに言っても伝わらないかもしれないし…」
下皿にいっぱいになったコインをチマチマとドル箱に詰め込むと、そのコインを景品に交換してホールを出たのだった。
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