あれからさらに1週間程が過ぎ、ダイキチは仕事帰りに何の気無しにあのゲームセンターに立ち寄ってみた。
「Sコイン専用のエヴァでも打つか」
打ち始め、立て続けにボーナスを2回引いたものの、その後はボーナスを引けずにクレジットが0になった。
「う〜ん、この前はSコインが7枚まで増えたのに、これで5枚になっちまったな。まぁいいや、そろそろ時間だし、行くか」
待ち合わせ場所のファミレスへ着くと、ヨシツグが既に待っていた。
「おう、来たか」
「お待たせ」
ダイキチはドリンクバーから冷たいコーヒーを持ってくると、椅子に座ってふんぞり返り、煙草をくわえると燐寸を擦った。
心地良い音と共に頭薬が燃えあがり、独特の臭いが鼻をつく。炎が大きくなり、パチパチと微かに音を立てて軸にまで炎が及ぶと臭いも消える。炎を直接煙草にはつけず、煙草の下方にその炎を置くと煙草がジリジリと幽かな音を立てて赤く染まった。
煙草を口にくわえたまま椅子の背もたれにずっしりともたれかかり、頭の後ろで両手を組む。
「で?ダイキチ、俺に何か用があるのか?」
「まぁたいした事じゃないんだけど」
「だったら呼び出すなよ」
「いやぁ、少し協力してもらおうかと思って」
「何を」
「ライターとして書く記事の事だよ。どういう風に書けばいいのかわからなくてさぁ」
「そんな事かよ。書きたい事があるって言ったじゃんかよ」
「まぁね」
ライターとしてどのような方向性を持って記事を書くか、ダイキチにもある程度は決まっているものの、具体的に何を書けば良いのかわからないらしい。
「パチスロの楽しさを書きたいって言ったじゃんかよ」
「だからさ、何をどう書けばいいのかな」
「ま、ダイキチのネギミソ頭じゃ無理ねぇな。でもお前、パチスロの楽しさはお前がよくわかってんだろ?それを書けばいいんじゃねぇの?」
「パチスロって楽しいですね、って?」
「…そのひと言だけで終わりそうだな、お前の場合」
ヨシツグは席を立つと飲み物を取りに行ってしまった。しばしダイキチは、立ち昇る煙草の煙を一人眺めながら無い知恵を必死に絞る。
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