結局ダイキチが「北斗の拳」を打ち、ヨシツグはパチンコで慣れ親しんだ「エヴァンゲリオン」を打つ事になった。いざ打とうとダイキチが台に近寄ると、ふと違和感を覚えた。
「ん?あ、クレジットが残ってるじゃん」
ダイキチは何気なくベットボタンを押した。液晶画面に映し出されているデモ画面から画像が切り替わる。
「じぇじぇじぇっ、ART中じゃんかよ」
前回のダイキチ同様、誰かがART中にヤメて帰ってしまったらしい。
「何だ?どうした」
「いや、この台ART中なんだよ。ってヨシツグに言ってもわかんないか。要するに、うんと出る状態のまま放置されてたんだよ」
「マジで?なんだよそれ。なぁダイキチ、これは?この俺の台は?」
「ああ、それはね!」
「おうっ」
「全然出ない状態!」
「……クソッタレが」
満面に笑みを浮かべ、ホクホクとした表情でダイキチは打ち始める。ART中のまま放置されたこの台は、この時点でまだ230ゲームのゲーム数が残っているのだ。
「ラッキーだなぁ。元手ナシでSコイン2枚取れたよ」
「こっちはアンラッキーだよ。何回もアツそうなバトルになるのに全然ボーナスが出ねぇぞ」
「うん、それはエヴァを乗りこなす為の試練なのだよ」
「クソぉ、1500円も使っちまった。ダイキチ、ラーメン食いに行こうぜ」
「ラーメン?だって、こないだもヨシツグにおごってもらったのに、またじゃあ…」
「だからお前がおごるんだろっ」
すぐ近くにあるラーメン店に入り、ダイキチとヨシツグはネギ味噌ラーメンを注文し、さらにヨシツグはチャーシュー丼も注文する。
「ヨシツグさぁ、遠慮ってモノを覚えた方がいいよ」
「アホっ。お前はこないだギョーザまで注文しただろ」
瞬く間に食べ終わると、二人とも煙草に火を着けた。
「はぁ〜。やっぱここんちのネギミソは旨いよなー。でもあれだよな、ゲーセンでもあれだけ出ると楽しいよな。な?」
「お前だけだろ」
「でもあれだ、あんなに出るなら…」
ダイキチの口許に下卑た笑みが浮かぶ。
「へへへっ。ゲーセンで出しまくって、そのうち有名になったりしてな。他の客が俺を指差して、おい見ろよ、アイツ、ここら辺を荒らし回ってるゲーセンプロだぜ、とかなんとか…」
「ゲ……はい?」
途方もない阿呆である。絶句するヨシツグの煙草の先端から長くなった灰がポトリと落ちた。
「ダイキチお前……お前アホだな。いや、知ってるけど」
極めて子供染みた夢想に溺れているようだ。しかし、ダイキチ本人はそれもあながち単なる夢ではないとでも思っているらしい。
「それに、ですよ、ヨシツグ君」
「………」
「さっきみたいにうんと出た事を記事に書いちまえば…ひっひっひ」
「記事?」
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