酷く興奮したことは覚えている。
『ミルキィアタック』
先ほどのLive準備ゾーンからの突入がメインルートとなるフリーズ演出である。
内部的には100G×33.2%のループでG数を決定。
要するに、66.8%は100G乗せのみという事なので過信は禁物ということだ。
期待値は1000枚というところらしい。
しかし今の僕からすれば、1000枚だなんて十分すぎる報酬に値するわけである。
ここぞとばかりに騒ぎ立てるミルキィのそのフリーズ演出中、僕は胸ポケットに手を伸ばし、残りの少ないマールボロをくわえ火をつけた。
僕は『スロット』と頭のなかで考えてみた。
すると僕の頭は、ほとんど瞬間的に一人のおじさんの幻影に囚われた。
おじさんは、必要以上に広く何もない薄暗い部屋の中で、壁に向かい椅子に座っていた。
僕を見るなりおじさんは笑みを浮かべるが、コンクリートの壁に向かってボタンを押すような仕草を止めなかった。
疑問に思った僕は、おじさんに向かって「何をしているんだい」と尋ねてみた。
おじさんは「スロットだよ」と答えた。
迷いの無い口ぶりだった。
僕にはおじさんの打つスロット台は見えなかった。
「おじさんが打っているスロットは何だい?」
「マクロスだよ」とおじさんは言った。
「出ているところなのかい?」
「まさに今」とおじさんは言った。
「君たちは糞台と呼ぶことが多いかもしれない。 いずれにしても同じようなものさ。 メダルが沢山出れば面白い、良台である。 原理に何一つ難しいことなんてない。 メダルが出れば救われる」
「メダルが出れば『欠落』にはならない」
「『欠落』を恐れるのならば、ね」
僕はうなずいた。
「おじさんは、僕がちゃんと立ち回るべきだと、そう考えているんだね?」
「どうだろう」とおじさんは答えた。
「私は実際のところ、どちらでもいいと思っている。 君が本当の立ち回りに興味をもったのならやればいいと思うし、そうでないならやめればいい。 人がだれも居ないところでずっと、ひとりで詩を書き続けてもいいし、あるいは作業服を着て農家として毎日土を触るのもいいかもしれない」
「あいにく、農作業に興味はないんだ」
「知っているよ」おじさんは当然のことのように言う。
「私は何でも知っている。 君に纏わることならば、なんでもね」
「僕はこれからしっかりとした立ち回りをやってみようとおもうよ」
「そうかい」おじさんはどちらでもよさそうにうなずいた。
「そうしたいならそうすればいい。 私は止めることもしなければ、勧めることもしない。 すべては君の道だ」
「ありがとう」
結局この200Gでは何も起きず、ARTはほどなく幕切れとなった。
獲得枚数は500枚にも満たない程で、自宅から悪友達が帰った後の様な寂しさに僕は包まれた。
しかし、そのあっけない幕切れを惜しむまもなく次の周期であっさりとボーナスに当選した。
この疑似ボーナスは、ART突入期待度が約49%もある優秀なベルナビ管理タイプの疑似ボーナスとなっている。
しかしこの49%という数字が大抵あてにはならないのは周知の事実なのだ。
どれだけレア役を引こうともウンとも言わないミルキィに対して再び苛立ちを隠しきれなくなっていた。
そしてボーナス終了後、
このエンドカードの出現により僕は嬉しさのあまり、うんこをした後の猫の様にホールの中を走り回った。
なぜなら、これは次回天国以上を表しているからである。
天国滞在時は二周期以内でのボーナスの当選が確定している。
およそ50G後、約束された天国での当選。
そして勢いそのままに訪れたこの告知。
普段は何が起きても揃うはずの無い7が、持ちうる限りの色彩を駆使して今やっと49%の壁を乗り越えてくれた瞬間であった。
まったくもって騒がしい台である。
しかしどうも嫌いになりそうにもない。
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