[1]スロッター・ジャズ [ 2015/12/13 ] |
読者諸兄ご機嫌よう、男爵です。
訳アリ、過去アリ、協調性ナシ。
人生とは、幾多の選択が続く物語。
触れられたくない傷を持ち、尖り続けた若き頃、いくらか皺も増えた日に、振り返るのもいいでしょう。
今回は過去、さかのぼること10年程前の出来事。
とあるホールを舞台に繰り広げられる、スロットを覚えて間もない若男爵の物語。
いつもより少しだけシリアスでパチスロ成分薄め、それでいて長い話。
「長編になったため分割しましょうか」と管理人クランキー氏にたずねたところ、まとめて出しても問題ないとの返答をいただいたため、前・後編と銘打っておりますが、一挙にまとめております。
それではしばしお付き合いを…
スロット紳士こと男爵の体験談を聞いて欲しい。
■ スロッター・ジャズ(前編) ■
「男爵っちって、スロットするの?」
バイトあがりの帰りがけに、先輩の瀧本さんから尋ねられた。
え、まぁ、時々…と、突然の問いかけに少し動揺し、歯切れの悪い返事をする。
瀧本さんはアルバイト先の焼肉店の先輩。
といっても歳は同じ20歳で、身なりは派手めだが物腰のやわらかい、専門学校に通う女の子だ。
その日は休日で、ランチタイムのシフトを終えた後のことだった。
「これから時間ある?」
彼女は続けた。
女性からのこの問いに期待しない男子大学生はいないだろう。
何か楽しいことが起こりそうな期待に、鼻の下を伸ばしながら「暇だ」と答える。
「●●町の『マルス』ってホール、今日の『南国育ち』は出るかもしれないよ。」
瀧本さんはそう言って愛車に乗り込み帰っていった。
…あれ?
デートじゃないの?
その日の夕方、私は『マルス』にいた。
早速『南国育ち』のシマの様子を見る。
おお、確かに出ている。
客付きは8割程度だが、データランプを見てもどれも良い挙動。
設定6らしき台も2台あった。(4号機『南国育ち』の設定6は連チャンの仕方に特徴がある)
私も残っていた空き台で稼働を開始。
結果はショボ勝ちだったが、「『南国育ち』が出る」という情報は確かなものだった。
ここで一つ疑問が出てくる。
なぜ瀧本さんは狙い目台の情報を知っていたのか。
『南国育ち』が強い特定日で広告でも出していたのか。
いや、『マルス』は私も何度か行っているが、南国の特定日は別にある。
特にイベント告知もされていないため、ゲリラ的に設定を入れていた可能性が高い。
彼女自身が敏腕スロッターで独自に設定配分を予想していたのか。
でもそれほどの設定予想ができるならば、時給\750の焼肉店のバイトなどするだろうか。
とすると、彼氏が社員等の関係者で情報を流してもらっているのか。
ありえない話では無いが、普通パチンコ店の設定は店長か設定師クラスでないと知り得ない情報だ。
そんな立場の人間が、そう簡単に情報を漏らすわけがない。
まして彼女自身は打ち手の中にいなかったのだから、メリットが無いだろう。
様々な疑問が頭をかけめぐりながら、私は帰路についた。
明日の夜もシフトが一緒だ、その時に聞いてみよう。
□
「イラッシャイマセー!(笑顔で舌打ち)」
次の日の焼肉店は妙に忙しく、疑問の解消を待ち望んでいる私は、お客様どもめ恐れ入りますがとっとと帰られては如何でしょうか、と店員にあるまじき意識でバイトに勤しんでいた。
「食後にシャーベット等は如何でしょうかぁ!(バイトに染みついた習性)」
注文とれちゃったよ畜生。
店長(オカマ)が褒めてくる、うるさいだまれ。
なんとか閉店時間を迎え、瀧本さんと一緒に焼き網を片付けている時に『マルス』の出来事を話してみた。
「あぁ、勝てたんだ〜男爵っちよかったねぇ。」
昨日からの疑問をぶつけてみる。
瀧本さんはスロッターなのか。
「いや〜、わたしは全然だよ、たまに触るって程度。」
するとやはり彼氏社員ルートか。
疑問の核心に迫っている気がした私は、そのままの勢いで彼氏がいるのかを尋ねた。
「えっ!? い、いないけど///」
急にうつむいてしまった。
何か悪い事を聞いてしまったか…
どうフォローしたものか考えていると、別のバイト仲間から声がかかる。
「おい男爵! 『彼氏いますか?』なんて、こんなトコで瀧本さん口説いてんじゃねぇよ(笑)」
あ…
いや違うぞ、そういう意図で聞いたんじゃない。
知らぬ間に声が大きくなっていたらしく、店内のバイト達がニヤニヤしながら私たちを見ていた。
「わ、わたし調味料しまってくるね!」
その甘酸っぱい空気に耐えかねたのか、彼女は一人倉庫に入ってしまった。
私も焼き網をまとめてカートに乗せて洗い場に移動すると、興味対象を失った店員もそれぞれ持ち場に戻っていく。
彼女に気まずい思いをさせてしまった。
聞き方をもっとちゃんと考えていれば良かった。
自分の対応を悔やみながら網を擦る。
店長(オカマ)が近づいてきて、訳知り顔で「彼女のことを知りたいのね、でもあのコのためにも場所を考えて」とか言い出す。
絶対勘違いしてるのに、言ってる事は合ってるから余計に腹が立つ。
今日はもう彼女に聞くのはやめよう。
肩を落として店を出ると、バイトの後輩(メスゴリラ)が近づいてきた。
勢いよく接近する霊長目ゴリラ属にそっくりな後輩(メスゴリラ)に備え、思わず武器になるものを探す。
「男爵さん、今日瀧本さんに告ってたでしょー♪」
下品な笑みをうかべて聞いてくる。
よしこれだ、適度な大きさの石を握りこんだ私に、後輩(ゲスゴリラ)は一枚のメモを差し出す。
そこにはメールアドレスが書いてあった。
申し訳ないが、君の気持ちに応えることはできない、さぁ森へお帰り。
脊髄反射で断ろうとすると、
「これ、瀧本さんのアドレスですよ。 ちなみに下に書いてあるのはウチのアドレスでーす。」
ウホっ!?
手の中にある石をその辺に捨てて、メモを奪い取る。
そこには瀧本さんの携帯アドレスと、その下によくわからない不可思議な文字列が並べてあった。
ありがとう後輩(キャンディーコング)、ゴリラなどと言ってすまなかった。
こうして街灯から離れて片目をつぶって距離をとると、なんとなく愛嬌のある顔に見えなくもないじゃないか。
後輩(個性派女子)に礼を言い、その夜は緊張しながら正座して瀧本さんにメールした。
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