[3]ジャミング・ウィズ・ジャグラー [ 2016/2/20 ] |
私は暇をみて時折パソコンで裏モノについて調べていた。
『キングガルフ』や『リズムボーイズ』といった有名だったらしい裏モノについてのページがヒットし、裏モノの仕組みや多数のバージョンが存在することがわかった。
ただ、それらに共通することは全て「こんな時代があった」「当時はすごかった」という思い出話でページがむすばれており、たまに現在進行形の話が見つかったと思ったらゲームセンターの話題だった。
そして肝心のジャグラーに関しての話はほとんど知ることができない。
唯一の情報としては、テキストのみで記載された「裏モノ情報一覧」のサイト内で、
●ジャグラー
リプ連ver.
チェリー連ver.
32Gver.
という程度に簡素に並べられたもののみであった。
掲示板サイト内の話題で遠く離れた他県の「あの店があやしい」なんて噂される程度のものしかなく、手がかりと呼べるものはもうほとんど無い状態になりつつあった。
しかし、機会は意外なほど早く訪れた。
次の週に浜岡と二人で『ビッグヘブン』行くと、サラリーマン風の大人しそうな男が謎ジャグを打っている姿があった。
回転数も1000Gを越えている。
ちょっと気まぐれで打っているという感じではない。
その男は手持ちのコインを飲ませて立ち上がると、駐車場の方に歩きはじめていた。
見ず知らずの他人だが、ここで彼を逃すわけにはいかない。
あの台について聞きたいんだ。
浜岡も同じ気持ちだったのだろう。
「オレが行きますよ」
足早に彼の後を追う私の前に出た。
いや、ちょっとまて。
浜岡の容姿では相手に無用な警戒感を与える。
浜岡は金髪にピアス、メタルバンドマン風の強ザコみたいな派手ないでたち。
さらに、今日彼の着ているTシャツには「コロス」という物騒な文字が描かれていた。
どこで買ったんだそれ。
ともかく、オヤジ狩りとでも思われて逃げられてしまうと困るのだ。
ここは、何処に出しても恥ずかしくないともっぱらの噂の好青年である私が行こう。
「すみません、ちょっとお話しさせていただけませんか」
後に友人から詐欺師の笑顔と呼ばれる私のグッドスマイルが炸裂した。
男は怪訝な顔つきで私と浜岡を交互に見る。
「……えっ、何ですか」
確認すると、彼はあの日1500Gを回していた人物であった。
私は経緯を説明し、あのジャグラーについて知っていることがあれば教えて欲しいと頼んだ。
「ああ、あの台と605番台は明らかに改造モノだろうね」
605番台?
662番台の斜め後ろに位置する台だ。
まさか謎ジャグは2台あったとは。
肝心の台の仕様はどうだろう。
些細なことでもかまわないと伝える。
「チェリーが中段に止まるよ。 それ以外? うーん、それがコレと言って……無いんだよね。 短期的にならBIGに寄って1500枚くらい出したことがあるけど」
残念ながらあまり有用な情報ではなかった。
しかも、彼は今月中に引っ越すという。
調査協力は望めない。
彼に礼を言い別れると、再び浜岡と店内に戻った。
彼の情報から、シマにある30台のうち謎ジャグは662番と605番の2台あることが判明した。
浜岡と二人で同時に打つことができることは素直に嬉しかった。
しばらく互いに背中合わせのようなかたちで別れて打っていると、不意に浜岡に呼ばれる。
何か見つけたらしい。
彼の打つ横に立つ。
「コイン入れてみて下さい」
彼は不思議なことを言い出した。
それがなんだと言うのだ。
「まさか○枚コイン手入れして○回レバーオンでボーナス」とかいうバグじみた攻略法でもあるのだろうか。
(※こうしたボーナス誘発打法とかいうものは99%詐欺です)
促されるままにコインを一枚取って投入口に入れてみる。
……
あれ、なんの反応もない。
さらに数枚入れてみるも台は静かなまま、クレジット表示も上がらない。
浜岡は神妙な顔をしながら言う。
「まさに貯金箱ッスよ、こんな恐ろしい裏モードがあったなんて……」
なんという恐ろしい仕様、機械割0%の台が誕生したと言うのか!
とは言わず、私は筐体横のコイン排出ボタンをガシャガシャいじり、数枚のコインが下皿に吐き出された。
単にコインが詰まっただけ、当時のスロット台では時々見られた現象だ。
「あ、やっぱわかるッスか?」
浜岡は悪びれも無く言う。
くだらないことをするな。
とは言え、何の発見もなく時間だけが過ぎてゆき、私も彼もいよいよ疲れがみえはじめていた。
どのくらい疲れていたかと言うと、こんなエピソードがある。
丁度この時期に浜岡と合コンに参加したことがあり、楽しく酒を飲んでいた時だった。
もちろん我々も、こんな場でパチスロ話を持ち出すほど野暮じゃない。
それぞれ楽しい時間を過ごしていると、いつしか話題は芸能人で誰に似ているかという話になった。
そこで、眼鏡が素敵な女性が言い出した。
「アタシぃ、眼鏡ってだけでアンジェラ・アキって言われるんですよー、ちょっと微妙ですよねぇ♪」
うむ、正直言ってアンジェラ・アキではない。
微妙というのもうなずけると思った私は言った。
「わかるわかる、そうだよね、むしろ角野卓三に似てるもんね」
彼女の顔が豹変し、あっという間に般若のような形相になっていた。
何故だ。
微妙と言うから他の芸能人に例えてあげたのに。
ベテランの人気俳優じゃないか。
浜岡は食べていた焼きそばを噴き出してゲラゲラ笑っていた。
彼女はその後一切口をきいてくれなかった。
私は、この時にようやく致命的なミスを犯していたことに気付いた。
そう、彼女は女性。
中年男性に例えられては喜べないのだ。
私の体調が万全であればもう少し頭も回っただろう。
ハリセンボンの近藤春菜女史にしておけば、と今でも悔やんでいる。
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