[2]ジャミング・ウィズ・ジャグラー [ 2016/2/20 ] |
私は後輩の浜岡に、件のジャグラーについて聞いてみることにした。
彼のスロ知識はかなりのもので、現行機種の攻略情報から過去の機種の小ネタまで、聞けばすぐに答えが返ってくる頼もしい存在だ。
浜岡が住むアパートの近くにある喫茶店に入り、コーヒーを注文する。
洒落たカフェではない、昔ながらの喫茶店という雰囲気の店だ。
騒がしい店よりも話がしやすい。
おそらくブーム当時のものをそのまま置いてあるのだろう、既に骨董品と言ってもいいインベータ―ゲームのテーブル筐体が店内に置いてあった。
なかなか浜岡は姿を見せない。
携帯で時間を確認すると、既に約束の時間を過ぎていた。
電話することもできたが、そのままポケットに収め、壁面に雑に積まれて日焼けしていた漫画の山から適当にヤンキー漫画を手に取って読み始めた。
他校のライバル番長が仲間に加わったあたりで浜岡は現れた。
トレードマークであるきれいに染めた金髪が、古めかしい店内に全く馴染んでいなかった。
「すんません、寝坊しちゃいました」
彼が遅刻するのはいつものこと、むしろ予想よりは早いくらいだ。
私も漫画本を閉じて元の位置に戻し、浜岡を対面に座らせた。
何でも好きなものを注文していいと伝えると、子供のようにはしゃいでいた。
浜岡はパチスロに詳しいよな。
わかっていたが、前置きとして彼に尋ねた。
「そうッスね、まぁ5年も打ってますから」
1kgスパゲティ(ミートソース)とかいう冗談みたいな品を注文した浜岡は答える。
彼は21歳のはずなのに5年も打ってるという部分は引っ掛かかったが、とりあえず忘れることにして本題に入った。
昨日裏モノらしきものを見つけたと伝える。
「えっ!? 裏モノ? ……素人モノッスか?」
……そっちの裏モノじゃない。
さっきパチスロの話をしてただろう。
浜岡オンデマンドに件のジャグラーの特徴を話すと、それは2チェ連ver.(前兆として中段チェリーが成立した後にランプ点灯)ではないかと言う。
さすがにスロ知識豊富な浜岡だと思ったが、私の打っていた台はチェリー後にボーナス成立はしなかったのでそれとは違う。
「違うんスか、まぁジャグラーの裏は特に種類が多いって聞きますけど。 で、その店はどこに…… ○○区のビッグヘブン? またずいぶん遠くに行ったんスね」
遠いと言っても車に乗れば15分程度だ。
浜岡の言う「遠く」には「なんでそんなボッタクリ店に」というニュアンスが含まれているのだろう。
ともかく打ってみたいということで、『ビッグヘブン』に二人で向かうことにした。
1kgスパゲティはいつの間にか浜岡の胃袋に入っていた。
こいつは寝起きにどういう食欲をしているんだろう。
店に着くと、早速先日打っていた『ジャグラーTM』の662番台を浜岡に紹介し座ってもらう。
私も並んで隣の664番台で回し始める。
……あれ、チェリーが角に止まった。
こっそり入れ替えられたのか?
もしくは先日の出来事は私の夢だったのだろうか。
そう思っていると、浜岡が声をあげた。
「ホントだ、2チェだ!」
見ると、彼の打っている台は先日のものと同じようだ。
どうやら、裏モノは彼の打っている662番台だけらしい。
私の打っている台はノーマルなのだろう。
しかし、一台だけか?
普通こういう台を設置する店は、1機種全部裏返るものだと思っていたが。
ますます不可解な点が増えたが、浜岡に感触を尋ねる。
「うーん、何ッスかねコレ。 状態ver.かなぁ、ウェイトカットはされてないみたいだし……」
浜岡でもわからないとは、一体どうなっているんだ。
しばらく打った後に、彼は少しホールを見たいと席を立った。
打ち手を交代して私が打つ。
運よくBIGが3連して収支はトントン。
ちなみに連チャン時の動きもこれといって特徴がないノーマル機のそれだったため、新たな情報も得られなかった。
「いろんな意味でヤバい店ッスね、客全然いないのに怪しいジャグラーはあるとか」
交換した景品を二人で分けていると、浜岡がそんな感想を述べた。
少し調べてからまた打ちたいと言う彼に、また一緒に打つ約束をしてその日は解散した。
それからは、暇を見て何度か662番台を打ちに行き、なんの発見もないまま普通に負けた。
いつしか二人は、あのジャグラーを「謎ジャグ」と呼ぶようになっていた。
そんなある日のこと。
謎ジャグを打ちに行き、データランプをチェックしてみると前日の総回転数が1500G以上あった。
私も浜岡も昨日は打っていない。
普通の店ならばどうということはないものだが、この店においては異常とも言える数値だ。
偶然座った人が連チャンして回し続けたのだろうか、そう思ってデータ機のチェックを進めた。
スランプグラフまでは見れないデータ機だったが、ボーナス数と総ゲーム数から察するにおそらく負けている。
ということは、我々の他にもこの台に興味をもって打っている人がいる。
そしてその人物は、なんらかの確信をもっていたからこの台を打ち続けたのではないだろうか。
店に通い続ければいつか出会うかもしれない、そうしたら聞いてみよう、この台について。
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