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ゴーストスロッター 第11話



■ 第11話 ■

「いらっしゃいませぇ!」

不意に聞こえてくる店員の大きな声。
それすなわち、開店の合図である。

入り口の自動ドアが開くと同時に、猛然と狙い台に向かっていく優司。
それに追随する日高。

偶然にも、二人の走っていく方向は一緒だった。

そして、辿り着いた先は二人とも「北斗の拳」。
言わずと知れた、超人気機種である。

「・・・・なるほどね。 夏目君もこの機種か。」

「・・・・・・」

「でも、今日は休日だから同一のシマには6は1台しかないぜ。
  このホールは、休日は同一のシマに2台以上6を置くことはないからな。
  さすがに俺ら二人ともハズレってこともないだろうから、これで引き分けはなくなったな。」

「・・・・・みたいだね。 勝負が長引かなくて助かるよ。」

奇しくも二人とも同機種。
全16台が1列に並ぶ北斗のシマ。

優司は一番右のハジ台、日高は右から3番目の台。
日高と優司の間には、わずかに1台を隔てるだけである。

たっぷりと余裕を浮かべながら、悠々と優司に話しかける日高。

「各自、今座った台が6だったら勝ちなんだよな。
  もう台移動はナシだぜ。」

「ああ、わかってるよ。」

軽く言葉をかわした後二人とも席につき、黙々と自分の台を回し始めた。


**********************************************************************


勝負開始から3時間が経過した13:00。

現在の出玉状況は、日高が2000円投資で約2000枚持ち、優司は17000円投資で約400枚持ち。
出玉だけ見れば、圧倒的に優司が負けている状態である。

「ふふ、悪いな。
  いまんとこ大幅にリードしちまってて。
  BB後の高確移行も、チャンス目、スイカからの移行率・ヒット率も俺の方が上だしな。」

もはや勝ちを確信したかのような口調で優司に話しかける日高。
しかし、優司に焦りは見えなかった。

「確かに俺の台は出玉で負けてるし、高確移行も今んとこよくないよ。
  でもね、北斗ってのは短時間じゃ何もわからないよ。
  勝った気になるのは早いんじゃないの?」

「よく言うぜ。
  短時間だろうとある程度目安にはなるだろ?
  そんな負け惜しみはよせって。」

「・・・・・・・」

「まあ、それも8時間後の午後9時にははっきりすることだけどな。
  あんまし負け惜しみが過ぎると後で恥ずかしい思いをすることになるぜ。」

「・・・・・・・覚えておくよ。」

日高の挑発的な言葉にも反応せず、あくまで冷静に返す優司。

その時だった。

「日高さん、調子はどうっすか??」

聞き覚えのあるイヤな声。

そう、藤田である。

優司にとって、今回の勝負の一番の目的ともいっていい藤田がついに現れたのである。

「藤田ッ・・・・・・・・」

思わず睨みつける優司。
それを気にする様子もなく、日高の出玉を見てニヤける藤田。

「やっぱ楽勝っすね! さすが日高さんだ。
  まあ、別に心配してなかったけど。
  日高さんが勝つことはわかってたし。」

憎らしい軽口を叩きながら、優司を完全に無視する藤田。
優司もあえて苦々しい思いを一旦抑え込み、そのままプレイを続けた。

「(今に見てろ・・・・ お前の居場所なんて失くしてやるからな・・・・・)」


**********************************************************************


18:00。
運命の設定発表の時間まであと3時間。

あれから、お互い追加投資はなく、持ちコインでのプレイが続いている。

しかし、出玉の差は圧倒的だった。
日高は約5000枚、優司は約900枚。

相変わらず出玉の差は広がる一方。

なのに、先ほどまで余裕だった日高の表情が若干歪んできていた。

実は、日高の5000枚という持ちコインは、単にBBの継続に恵まれてのものだったのだ。
BBの継続には一切の設定差がないため、今の日高の大量出玉は『単なる運』ということになる。

さらに、順調だったBB後の高確移行や、レア小役率やチャンス目・スイカからのヒット率はみるみる
下がっている状態で、初当たり回数ではなんと優司に負けているのである。

「・・・・・・・日高君、なんだか随分焦ったような表情をしてるね。
  さっきまではあんなに余裕だったのに。」

「う、うるせぇよ!
  確かにそっちの方が初当たり率がいいけど、6かどうかなんてわからねぇだろ!?
  4とか5だったら勝ちにはならないんだからな!」

横から藤田も口をはさむ。

「そ、そうだぞ!
  いい気になってんじゃねえ!
  お前が日高さんに勝てるわけねぇだろ!」

「うるせぇ! お前は口はさむんじゃねぇ!」

余計な藤田の一言にキレ気味の日高。
フォローしたつもりが怒鳴られてしまい、意外そうな顔をしつつすごすごと黙り込む藤田。

そんな中、優司は落ち着いた声でこう言った。

「わかってるよ。
  これはあくまで設定6をツモる勝負。 どっちも6をツモれなかったら引き分けさ。
  たとえ俺の台が5で、日高君の台が1でもね。
  でも、ついさっき『二人とも6をハズすなんてことはない』とか大見得きってなかったっけ?」

「・・・・・・・と、とにかく俺の台もまだ6の可能性はあるんだ!
  あんまし余裕こいた態度とってんなよ!」

「まあ、ね。
  とにかく、泣いても笑ってもあと3時間で結果が出るんだから、お互いおとなしく打とうよ。」

出玉とは裏腹に、お互いの余裕はこの時点で逆転していた。
藤田のニヤけた表情も、この頃からなくなってきていた。
 

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