あの日、僕らは同じ夢を見ながら並んで夜空の星を眺めていた。 200X年3月某日、23時15分。 3月になったとはいえ、まだまだ肌寒い夜の駐車場で、僕は生まれて初めて寝袋というものにくるまった。 中はふかふかのお布団とまではいかないが、アスファルトの上で横になっても背中が痛くならない程度には快適な空間だった。 周囲を見渡すと、同じような恰好をした集団が既に100人はいる。 これから始まるのは、ワールドカップのパブリックビューイングか流星群の鑑賞会かといった雰囲気だ。 臨時に設置された灯光器を除くと、周囲には灯りらしい灯りはない。 最寄の駅までは徒歩だとおよそ30分。 コンビニまでの距離も1kmはあり、少し先へと視線を移せば何も見えない世界が続いていた。 「寝袋まで持ってきて、準備いいね。 おたくら何人で来てんの?」 カイロを揉みながら、私の隣にいた男が話し掛けてくる。 1、2、3、4……。 私は、私たちのグループの先頭に並んでいる園長から最後尾にいる自分まで、メンバー達の人数を数えた。 「10人です。」 私の答えを聞くと、男は手にしていたチョコレートの袋の中身を数えてこちらに差し出す。 「よかったら、みんなで食べて。 うちらは6人なんだけど、お隣同士一晩よろしくね。」 こうして見知らぬ者同士が仲良くなって、時にはメールアドレスを交換し合う。 自身の後ろに並ぶ者と仲良くしておく事で、開店時に後ろから追い抜かれるリスクを軽減したり、テリトリーの違う者から新しい情報を仕入れる等、いろんな打算もないではない。 しかし、そこは相手も同じなのでお互い様。 男の差し出してきたチョコレートにも、それなりの意味が込められているのだ。 言い忘れていたが、ここは某スロット専門店「X」の駐車場。 本日は、年一クラスの激熱イベント「レジェンドα来店」の前夜。 我々10人も、その後ろに並ぶ6人組も、明日の設定6を夢見て並ぶいわゆる徹夜組という訳だ。 同じ夢を見て同じ時を過ごすのだから、見知らぬ者同士でも、そして、打算を抜きにしても自然と話は弾む。 このコミュニケーションも徹夜の醍醐味の1つであった。 我々も男達もこのホールに訪れたのは初めての、所謂「遠征組」。 熱いイベントという噂を聞きつけ、やってきたのはいいものの、設定師のクセであるとか、ホールとして力を入れている機種等は一切分からない状態であった。 だが、そんな事はイベント廻りをしている集団であれば日常茶飯事。 何も知らない状態から、どのようにして狙い台に当たりを付けて、軍団内のメンバーをどのように人数配分するのか、この日、私たちはそんな話題で盛り上がった。 閉店間際にメモした「X」の店内の地図を広げて、男は私に尋ねる。 「明日はどの辺が良いと思う?」 当然の事ながら、この質問に対して論理的に正しい解はない。 数学のように、誰が解いても同じように答えが導き出される類の問題ではないのだ。 もちろん、明日になれば結果的に正解が何であったかは分かるが、それはあくまで結果論。 毎回同じ答えに辿り着く訳ではなく、あくまで「正解である確率の高い低いがあるだけ」である。 「北斗の拳か吉宗か……」 私は、当時物凄い人気であった2機種を挙げた。 当時、この2機種はどこのホールに行っても看板機種扱いで、この日並んでいた「X」にも、他の機種とは比べ物にならない台数が設置されていた。 その中でも、北斗の拳の方がこの店のイチオシである事は、店内の内装やBGMを聞けば明らかだった。 「やっぱ、北斗ですかね。」 その時ホールが最も推している機種を狙う、セオリー通りと言えばセオリー通り、当然の選択のはずであった。 だが…… 「30点。」 園長はそう言いながら、寝袋に包まった私にデコピンをすると、男の横に座り込んだ。 「北斗じゃなんでダメなん?」 人懐っこいその男は、いきなり現れた園長にも物怖じせずに食い付いていく。 「誠、オマエ北斗に座るとして、どの台に座るんだ?」 この店のパターンはどういったものなのか。 上げ狙いなのか? 据え置き狙いなのか? 高設定を並べて入れるのか? ばらして入れるのか? 中間設定を使うのか否か? 私達は「X」のクセを何一つ知らない。 「通路側の角付近、やはり目立つ位置の方が狙い目でしょうか。」 経験上、人目に触れる通路付近はやはり高設定の投入率が高く、通路から離れた奥の方にいけばいくほどその確率は低かった。 そして、人が多く集まる激熱イベントであればあるほど、その傾向は強い。 どちらも園長に教わった事である。 「確かにそうだな。 で、俺達の前には70人ほど並んでいる訳だが、俺達は通路側の角付近の台に座れるのかな?」 言われてみれば確かにそうだ。 「X」に北斗の拳は2シマ32台が設置されているにしても、前に並んでいる人達のほとんどが北斗か吉宗、あるいは設定6が丸分かりの南国育ちあたりに流れるであろう事は容易に想像できた。 「北斗はどうしても設定看破に時間がかかるのもマイナスポイントだが、それ以上に明日狙っちゃいけない理由がある。」 園長は、それが何か分かるかと言わんばかりに私の顔を見る。 一瞬戸惑い、言葉を失くす私。 そんな私の様子を見てなのかは分からないが、男が一言呟いた。 「場所が悪いんですよね、北斗は。」 その言葉を聞くやいなや、園長は親指を立てた拳を突き出して、嬉しそうに言う。 「GOOD!」 男と園長が言っているのは、こういう事であった。 北斗の拳を狙ってしまうと、万が一着席できなかった場合には、外側の通路を通ってドロンジョ、ジャグラーのシマに向かうしかない。(最悪の場合、どれにも座れないリスクが生まれるので、北斗を見てからでも、南国育ち、吉宗に座れるかもしれないと考えてはいけない。) となると、人の流れとは逆行する形になるので、本来狙いたい通路側の角付近に座れる可能性は限りなくゼロになる。 北斗の拳は、座れなかった場合のリスクが大きすぎるという事だ。 「ホールのイチオシ機種を狙うという発想自体は間違ってない。 もちろん並びが30番以内だったら、狙ってもいいかもしれないがな。」 園長は、男の持っていたメモ上で移動経路を指差しながら私に説明してくれた。 「それよりももう1つの着眼点、目立つ位置を狙うって方を明日は重視したい。」 気付けば、双方のメンバーが1人、2人と集まり、園長を中心に7、8人の輪ができていた。 「全台設定6、あるいは全台高設定のシマを作るとして、自分が店長だったら、やっぱりそれをできるだけ多くの人に見てもらいたいよな。 となると、人通りの多い場所。 だけど、中央の通路からだとシマの端の方は見えないから、全6にしてもその全体像は一目では確認できない……」 勘の良い男は園長の言わんとするところが分かったようであったが、私にはまだピンとくるものがなかった。 「明日、多くの人が一度は通るであろう場所で、なおかつ視界の開けた見栄えの良いシマ。 カウンター前のキンパルで俺達は勝負だ!」 そこまで言い切ったところで、園長はタバコに火を点ける。 後ろに並ぶ者達には、先に自分達の狙い台を宣言しておく事でさり気なく優先権を主張しつつ、狙い台が被らないようにしてあげるという配慮でもあった。 タバコの煙を真っ暗な夜空に吐くと、園長はキンパルを狙うべき理由は他にもあると続けて説明する。 「さっき、北斗の拳に座れなかった場合、どうなるかって話をしたがキンパルの場合はどうだ?」 北斗や吉宗に向かう人でごった返すであろう中央の通路を通らなければ、かなり早くキンパルに辿り着けるだろうし、万が一座れなかったとしても、同じくカウンター前のジャグラーや割の高い百景の中央通路側が押さえられる可能性が高い事。 BIG中のハズレという明確な設定判別要素があり、座れた後に低設定を回し続けるリスクも小さい事。 二重にも三重にも保険の効いた戦略に、私はただただ聞き入るのみであった。 「座れなかったら……、低設定だったら……、どこまでも慎重なその発想は俺らとおんなじでプロなんかな?」 男の言葉を聞いてふと周りを見れば、自分を除いて他の者は全員当然の事だと言わんばかりにうんうんと頷いている。 初めて聞いたような顔でぽか〜んとしているのは私だけだった。 「全台系を狙うならカウンター前のシマ。」 この時は知らなかったが、その後の経験を照らし合わせてみると、このセオリーはかなりの場面で当てはまっていた。 そんな貴重なセオリーを私が心にメモしていると、いつの間にか話題は次の話に移っていた。 「そういえば、カウンター前を狙うってのは、セオリーの一つだとしても、カウンターに垂直に配置されている角台はダメなイメージが強いよな。」 「えっ? そうなの!?」という私の心の声より先に、園長が確かにそうだと反応する。 「理屈で言えば同じなのに、あれはパチスロ界の七不思議の一つと言ってもいいよなぁ。」 どこからともなくメンバーの誰かが話し出す。 そこから先は、パチスロで本当にあった怖い話だの、終いにはパチスロに関係なくただただ怖い話だので私達は盛り上がった。 見知らぬ者同士が同じ趣味を通じて知り合い、語り合う夜はいつだってあっという間に過ぎていった。 気が付けば、夜は更け、日が昇り、私達はカウンター前のキンパルで、男達は通路を挟んで隣のジャグラーで千両箱を一杯にする作業に勤しんでいた。 あの夜から何年が経ったであろうか。 その間に4号機は撤去され、イベントは禁止されたが、それでも今日もカウンターに平行なシマに全台高設定を期待して座る私がいる。 効果のほどは定かではないが、10/6、青いものを手にして真っ先にカウンターに向かう男がいたら、それは誠なのかもしれません。 〜FIN〜 【 6の付く日はお先に失礼します 】 メニューへ
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