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ゴーストスロッター 第6話



■ 第6話 ■

時間は22:30。

14:00過ぎにホールへ様子を見に行った後、あえて優司はこの時間まで一度もホールへ行かなかった。

あそこからヘコむことはないだろうという考えと、どれだけ出玉を増やしたのかを楽しみにしておきたいの
とが入り混じり、閉店前まで行かないようにしていたのだ。

ホールに入り、真っ直ぐ藤田のところまで歩いていく。

しかし、ここで予想外の事態が目に飛び込んできた。
なんと、藤田の頭上にはわずか1箱のドル箱しかないのである。

「え!? マジで・・・?」

思わず声に出してしまった。

小走りで藤田に駆け寄り、慌てて声をかける優司。

「ね、ねぇ! もしかしてノマれたの!? 嘘だろ!?」

焦る優司に、ゆっくりとした口調で返す藤田。

「焦るなって。 ほら、これ。」

そう言って、頭上の札を指差した。
そこには、輝かしい「設定6」の札が。

「やっぱ6だったよ。
  ドル箱は別積みにしてあるだけ。
  ほら、あっちにあるでしょ?」

指差された方向を見ると、9箱ほど積まれたドル箱が目にうつった。

「え? あれって、この台のコイン・・・?」

「もちろん。
  あの後昇天かましてさ。 40連もしちゃったよ!
  多分全部合わせて15000枚近くあるんじゃないかな。」

「・・・・・・・・・」

優司は、驚きのあまり声も出なかった。

確かに、昼頃のペースから考えるとこのくらいのコインは出るかも、という淡い期待はあった。

しかし、実際ここまでうまくいくとは思ってもみなかったのである。

「す、すげぇよ藤田君・・・・!
  まさかここまで出すとは・・・・・」

「ね! 俺もびっくりだよ。」

そんな感じの会話が続いた後、数十プレイ回し高確じゃないことを確認して、コールボタンを押し
店員を呼ぶ藤田。

ジェットカウンターにコインを流し、レシートを受け取る。
そこには、「15362枚」の文字が印刷されていた。
等価交換でのこの枚数はかなり刺激的である。

興奮気味に二人で換金所へと向かい、無事換金作業を済ませ、30万を超える大金を藤田が受け取る。
それを目の当たりにして、声を失う優司。

そして、金を手にしながらボソリと呟く藤田。

「す、すげぇ・・・
  やっぱ実際に手にすると結構迫力あるな、30万って。」

「確かに・・・・
  見てるだけでも圧巻だよ。
  ・・・・・で、結局いくら投資だったの?」

「うん、4000円かな。」

「ってことは、30万3000円勝ちか!! すごいなぁ・・・・」

「・・・・・・・うん。」

「じゃあ、俺の取り分の15万、今もらっていいかな。
  端数の3000円はあげるよ。
  丸1日ブン回して疲れただろうし、その手間賃としてさ。」

「・・・・・・・・・」

「ん?? どうしたの??」

なぜか30万強の金を手にしたまま黙りこくる藤田。
そんな姿に、優司は一抹の不安を覚えた。

「ね、ねぇ。 何固まってるの・・・・?
  とりあえず俺の取り分の15万、渡してもらえるかなぁ。」

「・・・・・・・あのさぁ、あの台を取って1日ブン回したのは俺だよな?」

「は??
  ・・・・・・・・いや、そりゃそうだけど、あの台を選んだのは俺でしょ・・・?
  ってかちょっと待ってよ・・・ 何を言おうとしてんの・・・・・?」

「だからさぁ、俺はこの金をわざわざアンタと折半しなきゃいけないのかな、って思うんだよね。」

イヤな汗が一気に噴出してきた。
必死で頭の中を整理しようとする優司。

「(コイツは何を言ってるんだ??
  大金を目の前にしておかしくなっちまったのか・・・・??)」

焦りながらも、段々状況が飲み込めてきた。

まさかこんなことを言い出すとは思ってもいなかったので、考えをまとめるのに手間取ってしまったのだ。

「な、なあ藤田君。 よく考えようよ。
  この金は、俺がいなかったら手に出来なかったんだよ? それはわかるよね・・・?」

「・・・・・・まあ、ね。」

「でしょ?
  だからさ、とりあえずその半分は俺に渡すべきでしょ?
  ていうか、元々そういう約束だったよね!?」

「まあ・・・・・ そうだけど。
  でも、その約束を知ってるのは俺とアンタの二人だけじゃん?
  別にここで俺がバッくれたって誰もなんとも言わないしね。」

「ちょ・・・・・・ ちょっと待てよッ!!
  なんなんだよその言い方ッ!!
  それが勝たせてもらった人間に対する態度か!?
  お前みたいなロクに設定も読めないようなヘボじゃ絶対に手に出来ない金なんだぞ!!
  ふざけるのもいい加減にしろよ!!」

ここで優司はキレてしまった。

無理もない。
この状況なら、10人中9人は怒りを抑えることは出来ないだろう。

しかし、そんな優司を半笑いで眺めながら、藤田はこう言った。

「へっ、そうやって一人で騒いでろよ。
  とにかく、この金は俺のモンだから。
  たった今そう決めた。
  ま、今回は助かったよ。 久々の大勝ちだったからな。
  じゃ、そういうことで!」

そのまま藤田は足早にその場を立ち去ろうとした。

「ふ、ふざけるなよお前ッ!!
  このまま行かすとでも思ってんのかよッ!!」

大声で喚きながら、藤田の胸倉に掴みかかる優司。

「お前はどこまでもクズなんだなッ!!
  スロでも勝てない、人としての仁義もない、最低野郎だよッ!!
  お前みたいなヤツはなぁ、とっととくたばっ・・・」

怒りに任せて藤田を罵っていると、突然腹部に強烈な衝撃を感じた。
見ると、藤田の右拳が深々と優司の腹に突き刺さっていたのだ。

「ご・・・・・ ふ・・・・・ おぉ・・・・・」

「悪いなぁ。
  どっちかって言うと俺は、スロよりもケンカの方が得意でね。
  いつでも相手になってやんぜ!?」

「お、お前・・・・・」

もがきながらも、一旦離してしまった胸倉をもう一度掴もうとする優司。

しかし、その手はあっさりと藤田に振り払われてしまい、さらにもう一発腹部へ拳をお見舞いされて
しまった。

「頼む・・・・ 待ってくれ・・・・ その金がないと俺は・・・・」

振り絞るように懇願したが、それを聞いたか聞かずか、藤田はそのまま足早に去っていった。

しかし、優司には藤田を追いかける気力は残っていなかった。
不意に喰らったダメージと、思いがけない裏切りに対してのショックで。
 

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