ゴーストスロッター 第48話
時は2004年10月30日、朝8:30。 ついに、八尾との勝負当日を迎えた。 優司にとっては、最後の勝負から既に一ヶ月以上間が空いている。 勝負ホールとなったベガスの前。 優司と日高は、すでに店の前に到着していた。 日高は、軽く腕時計に目をやった後、呟くように優司に問いかける。 「夏目・・・・ 勝てるよな?」 優司は、驚いた感じで戸惑いながら答える。 「ど、どうしたの急に? 大丈夫だって。 俺なりにしっかりと対策練ってきたからさ。 こんなところで連勝途切れさすつもりはないって!」 「・・・だよな。 なんか今回は変則ルールだからよ、ついつい不安になったりもしてな。」 「(・・・・・俺のことなのに。 本当にイイ奴だな日高は。)」 日高の言葉・様子を見て、自然と嬉しさがこみ上げる。 今までの人生、表面上は仲良く付き合ってきた友人もいたが、日高のようにここまで自分を 気遣ってくれた友人はいなかったのだから。 ********************************************************************** 9:00。 並んでいる人間は優司たちを含めて8人ほど。 イベントでもなんでもなく、取り立てて優良店というほどでもないので大した並びにはならなかった。 それでも、優司は絶対に狙い台を取るため、念には念を入れて8:30から並んでいた。 狙い台といっても、設定1が濃厚な巨人の星のことだが・・・・ 「なんか、わざわざ巨人の1掴むために並んでるのって滑稽だね。 バカバカしくなってくるよ。」 優司が愚痴を漏らした。 「まあそう言うなよ。 しょうがないって。 勝負の内容が内容だからな。 とりあえず全力で狙い台を取り・・・・ あっ・・・」 「ん?」 日高が何かに気付き、視線をそちらに移す。 その視線を追う優司。 そこには、信次と連れだってこちらにやってくる八尾の姿があった。 「・・・・ようやく来たか。」 「みたいだな。 固くなんなよ、夏目。」 「大丈夫だって。 あんな奴相手に固くなんかなんないよ。」 途端に気合の入った表情に変わる二人。 自然と八尾達を睨みつけてしまう。 「おっす! 随分と怖ぇ顔してんなぁ。 そんなに力むなよ。」 相変わらずふてぶてしい態度の八尾。 「そんじゃあ俺らは後ろに並ぶから。 まあ、お互い無理せず頑張ろうや! なぁ夏目!」 馴れ馴れしく優司の肩を叩きながら、小馬鹿にしたようなニヤケ面を浮かべる。 これにはさすがに優司もイラついた。 「へっ。 広瀬君に認めてもらえず追い出された野郎が、随分とデカい態度取るもんだね。 小物は小物らしくおとなしくしててくれよ。 後で恥かくだけだぜ?」 この言葉を聞いた八尾は、みるみるうちに表情が変わっていった。 「・・・・・てめぇ、それ誰に聞いたんだよ・・・・」 間髪入れず優司が返す。 「本人からに決まってんじゃん。 どうしようもない奴だって言ってたよ。 スロでもなんでも、何やらしても使えないってさ!」 「なんだとッ!? 嘘つくんじゃねぇよッ!! あぁッ!?!?」 先ほどまでの余裕たっぷりな態度からは想像もできないような急変ぶり。 声を荒げ、優司の胸ぐらに掴みかかり、今にも殴りかかりそうな勢い。 咄嗟に日高が仲裁に入る。 「おい! やめろって! こんなことしにきたんじゃねぇだろ!? 離れろ八尾!」 横で様子を見ていた信次は、いつものようにただオロオロするだけ。 並んでいた他の客達は、なるべく巻き込まれないようにと全員下を向いている。 日高が体を入れて二人を離し、ようやく二人とも少し冷静になった。 「・・・・まあいいや。 そうやって生意気な口きいてられんのも、連勝に浮かれてる今だけだ。 今日お前は俺に負けて、二度と這い上がれなくなるんだからよッ!」 八尾はそう言い捨てて、信次を連れ列の後方へと歩いていった。 心配そうに日高が優司に問いかける。 「・・・・おい、大丈夫かよ夏目?」 「ああ、大したことないよ。 実力ないヤツに限って、ああやってすぐキレんだよ。 これで俺の勝ちは間違いないね。 ざまぁみろってんだ。 きっちり勝って、思い知らせてやるッ・・・・・・ ふぅ・・・・・ふぅ・・・・・」 冷静を装おうとしているが、高ぶった気持ちが抑えきれず息遣いが荒れる優司。 会うたび会うたび、あえて自分を不快にさせようとしてくる八尾の態度に、いい加減我慢ができなく なっていたのだ。 「気持ちはわかるけどよ、まずは落ち着けって。 こういう勝負は、冷静さを失ったら負けだぜ? 八尾だって、お前の冷静さを奪おうとしてわざとやってんだからよ。 そんな挑発に乗ってやることはねぇよ。」 肩で息をしながら、胸に手をやり落ち着こうとする優司。 「・・・・・・・・わかってる。 そうだよね、悪かったよ。 いちいち相手の作戦に引っ掛かってたんじゃ、勝てる勝負も勝てなくなる。 とりあえず落ち着くことにするよ。」 黙って小さくうなづき、それから再び口を開く日高。 「それにしても・・・・・ どうやら、あいつにとって広瀬の話はタブーらしいな。 まさかあそこまでキレだすとは。 よっぽど追い出されたのが悔しかったんだろうよ。」 「・・・・・・・」 「さっき言ったの、ありゃ嘘だろ? 広瀬が八尾のことを『使えない』みたいに言ったってやつ。」 「ああ。 あんまりウザったかったんで、ちょっとヘコましてやろうと思ってさ。 前にもチョロっと話したけど、むしろスロに関しちゃ広瀬君は八尾のことを買ってたよ。 だから独立させた、みたいに言ってたし。」 「そうか・・・・ 」 それからしばらく、二人は黙ったまま何をするでもなく開店時間を待った。 そして、それから約1時間が経過。 ついに開店の時間が間近となった。 第49話へ進む 第47話へ戻る 目次へ戻る
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