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ゴーストスロッター 第30話



■ 第30話 ■

「ピピピピピピッ」

けたたましく鳴る目覚まし。
その音に反応してムクリと体を起こし、けだるそうに目覚ましを止める優司。

そこは、カプセルホテルの一室だった。

「(そっか。 昨日は久しぶりにカプセル泊まったんだっけ。
  とりあえず金の心配もなくなったし。)」

そう考えながら、枕元にある現金を手にとった。
総額約60万円。
もともとのタネ銭+真鍋との勝負での勝利金である。

「(・・・・・そうだ、早く日高に連絡入れないと。
  いろいろ報告もしないといけないしな。)」

本来なら、勝負終了後すぐにでも日高に連絡すべきだったが、真鍋と日高とのわだかまりを解消して
やれなかったことが負い目となり連絡できずにいた。

小島に「明日必ず連絡を入れる」と伝えて帰ってしまったのだ。

本当にあのまま真鍋を帰してしまってよかったのか?
説得する方法は他にもっとあったんじゃないか?

こんな思いが頭を駆け巡り、罪悪感がどんどん膨らんでくる。

「(・・・・・・・はぁ。 くそっ・・・・・・・
  でも、このまま悩み続けててもしょうがないか。
  とりあえず電話しに行こう・・・・)」

浮かない表情のまま、カプセルホテルのチェックアウトの準備を始めた。


**********************************************************************


「もしもし、夏目か!?」

勢いよく聞こえてくる日高の声。
優司は、公衆電話から日高の携帯に電話をかけていた。

「あ、ああ。 よ、よくわかったね。」

「今どき公衆電話からかけてくんのはお前くらいだっつーの!
  ったく、連絡おせーよ!」

「わ、わるい・・・・ ちょっと疲れててさ。」

「まあいいや。
  とりあえず今日の夜7時からいつもの店で飲みだから!
  お前も絶対来いよな!
  そこでいろいろ話聞くよ!」

「ああ、わかった。 7時ね。」

「おお! じゃあ待ってっから!」

「うん、それじゃあ。」

そう言って電話を切る優司。

「(はぁ・・・・・
  今の明るい声からして、真鍋のことをなんか期待されてたりするんかなぁ・・・・)」

妙な日高のハイテンションが気になった。


**********************************************************************


約束の時間をちょっとオーバーした19:20。

優司は、憂鬱な面持ちでいつもの居酒屋へ向かっていた。
普段は楽しい気分で向かうはずの店なのに。

「(日高は、俺のことをしっかりと考えてくれてた。
  でも、俺はそんな日高に何もしてやれなかったんだよな・・・・・)」

申し訳ない気持ちでいっぱいになり、自分の不甲斐なさをつくづく痛感していた。

冴えない表情のまま約束の店へ到着する優司。
変な緊張感を感じながら日高たちを探した。

「おーい! ここ! ここ!」

不意に聞きなれた声が聞こえてくる。
声のする方を向いてみると、そこには4人の男がいるのが見えた。

日高にヒデに小島。
それともう一人・・・・

「えッ!?!?」

もう一人の男を見て、この上なく驚く優司。

「よお! 遅かったな!」

「ま、ま、真鍋・・・・・・ッ だよね・・・・・!?」

「あん? 確認するまでもないだろうよ!
  昨日の今日で早速俺の顔忘れちまったってのか?」

なんとそこにいたのは、昨日まで勝負していた相手、真鍋遼介だった。

まったくもって状況が飲み込めない優司。
そんな様子を見て、日高が口を開く。

「何固まってんだよ!
  とりあえず座れって!」

「・・・・・い、いや、でもさ、なんで真鍋がここに・・・・・?」

この質問に、真鍋が上機嫌で勢いよく答える。

「なぁに細かいこと言ってんだよ!
  そんなことはどうでもいいじゃねぇか!!
  まあ座れよ! 飲もうぜ!!」

「・・・・・・・・」

ここで、日高が口をはさむ。

「びっくりしただろ?
  でも、それは俺も同じだよ。
  昨日の深夜、いきなり遼介から電話がきてな。
  『細かいことは忘れて、また一緒に飲もうぜ!』なんて言ってきやがってよ。
  ったく、もっと早くそこに気づけってんだよな!」

嬉しくてたまらない、といった様子の日高。

日高の言葉をキョトンとしたまま聞いている優司を見て、真鍋が軽快に話しだす。

「まあ、そんな深く考えることじゃねぇよ。
  結局は、お前が最後に言った言葉が心に刺さってさ。
  『大人になるって面倒くせぇ、ガキになった方が楽だ』みたいな言葉がさ。」

「あ、あれが・・・・?」

「おう。 まあ、お前の言う通りだよな。
  細かいこと気にしてても面倒くせぇよ!
  どうせ人なんて100年足らずで死んじまうんだしな!
  無駄な意地張っててもしょうがねぇんだって!! ハハハハッ!!」

能天気な笑顔を見せる真鍋。
それを受け、日高・ヒデ・小島の3人も心からの笑顔を浮かべて楽しそうにしている。

嬉しさ・驚き・意外さ、いろんな思いが絡み合い、いまだ席に座ることなく立ち尽くしながら言葉を
絞り出す優司。

「な、なんなんだよみんなして・・・・
  俺が一人で悩んでたのがバカみたいじゃんよ・・・・」

ネガティブな言葉に聞こえるが、表情は意外に明るい。

そんな優司を見ながら、真鍋が笑顔で話しかける。

「まあまあ、とにかく一件落着したんだし、いいんじゃねぇ!?
  ほら、座れって!
  今日は俺がオゴるからよ!
  好きなだけ飲めよ夏目!」

屈託のない笑顔で優司に酒をすすめる真鍋。

「(・・・・・まあ、いいんだけどね。)」

優司はそう心の中で呟き、思わず笑みをこぼしながら空いている席へと座った。


【第2部 完】
 



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