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ゴーストスロッター 第3話



■ 第3話 ■

2004年6月中旬のある日の朝。

今日の優司は、いつもと違う行動をとっていた。

恒例のホールを巡ってのコイン拾いは、ある程度落ちているコインが増えだす昼頃から開始するため、
優司が活動を始めるのは基本昼から。

しかしこの日に限っては、朝一からあるホールの開店待ちの列へと加わっていた。
もちろん、打つ為ではなく。

時間は9:30過ぎ。
あと30分弱で開店というところ。

梅雨時とはいえ晴天に恵まれた、気持ちの良い朝だった。

「あの・・・・ ちょっといいかな。」

開店待ちをしているのは優司を含め20人ほど。

そんな中優司は、自分の前に並んでいた開店待ちをしている一人の男に、いきなり話しかけた。

その男は、歳は優司と同じ20歳くらい。

身長も175cm前後と優司と同じくらいだが、ガタイの良さが違った。
細身の優司と比べ、その男は筋骨隆々な感じで、服装などからみても一見悪そうな雰囲気を纏った男。

しかし、優司にとってはこの男でなければダメだった。

そう、いよいよ『惨めな生活から抜け出すための計画』を実行に移したのだ。

「・・・・・?」

いきなり話しかけられ、男は戸惑っていた。

「そんなに構えないでよ。
  お互いにプラスになる話があるんだけど、聞くだけ聞いてもらえる?」

「・・・・・・・・・」

「俺は夏目っていうんだ。 君は?」

「・・・・・・・・・・・藤田。
  つーか、いきなりなんなの?
  用があるならさっさと言ってくれよ。」

「ここじゃちょっとマズいんだって。
  絶対損はない話だから! ちょっと列から離れようよ!」

そう言って、藤田に開店待ちの列から離れるように促した。

藤田は、なんとなく腑に落ちないような気がしながらも、「絶対に損のない話」という部分に惹かれ、
優司に従って列を離れた。



こうして、ついに練りに練った計画を行動に移した優司。

その計画とは・・・・

まずはコイン拾いやデータ取りを行いながら、「ヒキは強いが立ち回りが全然な金のない若者」を探しだし、
その人間に変則的なノリ打ちを申し出ることだった。

優司は、台選びには自信がある。
はっきり言って、自分に勝てる人間はいないんじゃないかと思えるくらい。

そんな自分が選んだ台をヒキの強い人間に打ってもらい、勝利金を折半する。
自分の読みに絶対の自信があることを示すため、もし高設定がツモれなかったら負け金は優司が
全額負担する。

これにより、相手も優司の読みを信用してくれる可能性が高まると考えたのだ。

これが、優司の考えた計画の全貌だった。

優司は、元々超理論派の人間。
当然、「ヒキ」などというものは信じていなかった。
「大数の法則」により、試行回数を増やせば確率は収束すると信じきっていた。

しかし、あまりの自分のヒキ弱ぶりに、ついつい「ヒキは存在する」という概念が染み込んでしまい、
こんな計画を立てるに至ったのである。



優司の誘いに簡単に応じて素直に列から離れ、優司の話に聞き入る藤田。

すべてを説明され、藤田は素直にこの提案を承諾した。

「おお! じゃあ話に乗ってくれるんだね?」

「ああ、いいよ。 悪い話じゃなさそうだし。
  だって設定6を掴めなくて負けたら、負けた分返してくれるんでしょ?」

「もちろん! 台読みには自信があるからさ、そこは任してよ!
  6がツモれずに負け、っていう時は、全額俺が負け金を負担する。
  そのかわり、勝ったら勝ち金を折半ってのも忘れないでくれよ!」

「オッケー。
  俺に損はないんだし、ここ最近負けがこんでてキツイからやらせてもらうよ。」

交渉は、予想以上にすんなり決まった。

それもそのはず、この男藤田には、得はあっても損はないという話なのだから、決まらない方がおかしい。

しかもこの男は、優司がたっぷりと時間をかけて探した、『ヒキは強いが立ち回りがダメな金のない若者』
なのだから。

普段の負けっぷりを見るに、どこぞのお坊ちゃんでもない限り金がないのは明白だった。

「じゃあ明日、朝9時にはこのホールの前に来てくれない?
  そこで取って欲しい台番を言うから。」

「わかった。 9時な。」

集合時間を決め、そのまま二人は一旦解散した。
優司は、その足で近くの喫茶店へと入っていき、一番安い飲み物を注文して空いている席に座った。

「(よし・・・・ よかった・・・・ 本当によかった・・・・・!!
  これでこのクソ貧乏な生活から脱出できる!
  あんな読みやすいホールなら、俺ならほぼ間違いなく6の台を当てられる。
  その台を打つのはあのヒキの強い藤田って奴だ。
  これで出ないわけがない!)」

気持ちは弾んでいた。

数ヶ月もの間甘んじていたこの過酷な状況を、ようやく打破できる要因が生まれたのだ。

しかも行き当たりばったりではなく、しっかりと練りに練った計画なのだから、不安感など微塵も感じる
はずもない。

「(さて、明日は藤田に何を打たせるかな。
  やっぱ北斗だろうな。
  彼、北斗は特に強い印象があるし。)」

各ホールの状況や客の特徴などを記してあるノートを眺めながら、明日の計画を練る優司。

「(早く明日にならないかな。)」

明るい未来が鮮明にイメージできる今の状況に、自然と心が弾んでくる。
ここ最近感じることのできなかった感情だった。
 

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