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読者ライター【野菜】の記事18



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野菜川淳二の怖い話2 [ 2016/8/2 ]

全国の敏腕スロッターの皆様こんにちは。
どうも、稲川淳二です。
間違えました野菜川淳二です。

いやあ、そろそろ暑くなってきましたねー。
そういうときは怖い話でも聞いて涼しくなりましょうや、ってなもんだ。

 


ついこの間の話ですよ。
金曜日の夜。

アタシね、いつものホールで打っていたんです。
ええ、サンダーですよ。

そろそろ帰ろうと思ったからメダルを店員さんに流してもらってたんだ。

そしたらね、店員さんこう言ったんだ。
「明日は年に一度の日ですよー」って。

あたしね、それを聞いたとたんゾーッとしたんだ。

よく考えてくださいよ。
普通ね、そんなことあるはずが無いんだ。
あるはずが無いんですよ。
こんないつも出してないホールに、そもそもイベントなんてものがあるはず無いんですよ。

私は店員さんに向かって笑い飛ばしましたよ。
またそんな事言って嘘なんでしょ?って。

でもね、なんかおかしい。
なーんかおかしいんだ。

店員さん、笑ってないんだ。
真顔だったんだ。
真顔でずっと同じこと言ってるんだ。
他のお客さんにも、同じことをずーっと言ってるんだ。

明日は年に一度の日ですよ…
明日は年に一度の日ですよ…

ってね。

それであたしはピーンと来た。
ああ、これは霊の仕業だって。

ええ、根拠なんてありませんよ、あるはずないじゃないですか。

だからね、あたしは翌日このホールへ向かったんだ。
店長に文句言ってやろうかと思ってね。



明くる日、あたしは一人じゃ心細いってんで友人Aを誘って、一緒に整理券もらって並んでたんだ。

すると常連の人達が、まるで何かにとりつかれたかの様な声でこう言った。
「今日は絆。絆しかない」ってね。

いやー、あたしビックリしちゃってね。
ほんとは偽物語を打つ予定だったんですが、開店と同時に一目散にバジリスク絆に座ってしまったんですよ。

今思えばおかしな話ですよ。
きっと「何か」にそう仕向けられたのでしょうねえ。

バジ絆なんて普段まったく打たないものですからね。
設定判別だとかそういうのは最低限のことしか知らないんです。

まあ本当に高設定ならば打たない理由もないわけですし、せっかく座れたんだ、ちょっと頑張ってみようかと決心したわけです。


あー、会場の皆さんの中に「巻物」引くのが苦手だぞーって方はいらっしゃいますか。

…5人、6人。
ほお、結構いらっしゃいますね。

あの焦れったい感じはそうなってみないとわからないですよね。
ほんとイヤになっちゃうんだ。

皆さんはご存じでしょうが、あたしは昔っから巻物を引くのが苦手でねぇ。

打ちはじめて300G経った頃でしょうか。
周りはATに入っている人もちらほらと出てきているというのに、私だけメダルの貸し出しボタンから指が離せないんだ。

あーやだなー。
これは困ったなー。

なんて思っていたその時ですよ。
変な生き物が突然画面に出てきたんです。


バジリスク絆


うわあああああっ!!

周りや店員さんからも悲鳴が聞こえる中、場数を踏んでいるお陰か私はなんとか冷静に写真に納めることが出来たわけです。
実写版ビリーとでもいうのでしょうかねぇ、なんとも気味が悪い演出ですよ。ええ。

しかしあたしもこんなの初めて見た。
これはただ事じゃないぞと注意しながら、実写版ビリーのこの後の挙動に注目していたんです。

すると、


バジリスク絆


…喜んでるんですねえ。
このビリー喜んでるんですよ。

出目はよくわからないし、一体どうなるんだー、何が起きるんだーと思っていたら…

…BCに当選したんですねえ。
ええ、謎当たりです。
いやーこんな事ってあるんですねえ。
きっと運が良かったのでしょう。

なんとかそのBCでバジリスクタイムに突入することが出来たんです。
ああ良かったと胸を撫で下ろすも、すぐに気持ちを切り替えてBTに挑まないといけません。

大概の人は、BTに入った喜びの余韻に浸りながら気の抜けたレバーオンを繰り返すせいで良い結果を残せない、とあたしは聞いていましたからね、毎G本気のレバーオンですよ。
ええ、完全にオカルトの話です。

さあ争忍の刻だ。
奇数でお願いしますよと台のチャンスボタンをペチペチと2度叩きレバーオンした。

4対5

ええ、この瞬間に心がざわついたのを今でも覚えていますよ。

妙な雰囲気が漂うなか、第三ボタンを押した瞬間…

びゅるびゅるびゅるぽいぴぴぴー


バジリスク絆


いやー、やっぱりこういう事ってあるもんですねえ。
しみじみ感じますよ。


ってなもんで、順調にBCを3連程したあたりでアタシは用を足しに席を立ったんだ。

その時、一緒に来た友人の事をハッと思い出した。
彼は今日はまどマギがアツいんだと言いながら萌えスロコーナーへ走っていきましたから、ちょっと覗いてみようかと思いましてね。

年に一度のイベントなんだ。
まどマギだって他の萌えスロにだって設定が入ってたっておかしくないぞー、ってなもんだ。

でもね、島の入り口に立って気付いた。

なんかおかしい。
まどマギの島、いや萌えスロコーナーの気配がおかしい。
なーんか湿ってる。
なーんかおかしい。

もちろん全台満席ですよ。
座っているのは百戦錬磨で尚且つ汗っかきの屈強な戦士達だ。

でも、みーんな一様に顔を伏せているんだ。
ええ、屈強な戦士達が怯えているんですよ。

そんな中に、俯いたままの友人を見つけたんで、あたし声をかけたんだ。
「おいおい、どうしたんだ?辛気くさいぞー」ってね。
ええ、空元気ですよ。

でもね、一言も返事がない。

その友人の高橋…いやAさんとしましょう。
友人Aは普段は豪気な奴でねー、明るい感じの人なんですよ。
酒なんて一緒によく飲みますからねー。

友人Aは俯いたまま何かをぶつぶつ呟いている。
あたしの事なんか見てもいないで、
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいや…」
お経みたいなことを言ってる。

聞こえないんで近づいてみたんですよ。
おーい。って呼びかけながらね。

ある訳ないんだ。
ある訳ない。
あってたまるか…。

彼ね、泣いてたんですよ。
大の大人で屈強な萌えスロハンターの友人Aが、泣いてたんですよ。ええ。

他の皆も同じですよ。
みーんな泣いてるか怯えてる。
常連のマクロスおじさんなんてね、白目を剥いて泡を吹いてますよ。

あたし思った。
これはただ事じゃない。
これはただ事じゃないぞって。

それでね、萌えスロコーナーの中を突っ切ってね、台の履歴を片っ端から見てみたんだ。

全台が高層ビルですよ。
ええ。
ここはマンハッタンかと間違える程の高層ビル郡ですよ。

まどマギだと、一番早い初当たりの人でも500Gくらいだ。

友人はおは天の寸前からプチボ、そして600G台でまたプチボ。
もちろんARTは無し。
そして今、200のゾーンをスルーしたところだったんですねえ。
いやー、こんなことってあるもんなんですねえ。

それであたしはいたたまれなくなってねえ、友人の肩をぽんと叩いたんだ。
そしたら、ふぅっ、と彼は席を立ち上がって、そのまま自動ドアから店を去っていったんですよ。ええ。

後に友人から聞いた事なんですけどね、前日に夢を見たらしいんですよ。
亡くなったおばあちゃんが出てきて、「行くなー、行くなー」、ずうっと言ってたそうです。
今思えばこの事だったかもしれないなー、なーんて笑ってましたけどねえ。

けれどね、友人はぼそっとあたしに言ったんだ。
「いやー淳ちゃん、こんなことってあるもんなんだねー」



ってなもんで、萌えスロコーナーでの惨劇を尻目に、あたしはノリにノッていたんだ。
絆はこうなると終わる気がしませんからねえ。

とはいえ、獲得枚数が1500枚を越えた頃でしょうか、ピタッとレア役が来なくなったんだ。

あれーおかしいなあ。
おかしいなあ。
と、思ったときにはもう絆高確は終わっていましたよ。
ええ、そのあとは3セット程継続してまるで当たり前の様にBTは終了したんだ。

それでも1500枚は取れたんだ、まあ良しとしようじゃないかってんでね、他のバジ絆の様子を見に行ったんだ。

すると様子がおかしい。
時間は昼過ぎにして、絆に空き台がちらほらと出てきたんだ。

これはどうもおかしい。
そう思ったあたしは、空き台のスランプグラフをポチポチっと見てみたんだ。

ええ、スキーのジャンプ台ですよ。
まるで地獄の底にまで下っていくんじゃないかというようなグラフだ。
やめてある台のほとんどが朝イチ6スルー以降の初当たりですよ。ええ。

こうなってくると、あたしが座っているこの台も怪しいと思い始めましてね。

今のところBCの同色は1回だけ。
8対2で青異色が先行しまくっているんだ。
もちろん、弱チェも弱い。

これは危ないですよ。
運良くまとまったメダルを得ただけで、あたしも他の人たちのように死んでいたかもしれませんからねえ。

あと一回くらいBCを引いて移動しようかななんて思っていると、お隣の人が先にやめたんだ。
するとすかさず下皿に携帯を投げ込んだ人がいた。

物好きがいたもんだと思いその人をちらりと横目で見ると、

友人A 「ただいま」

うわあああああ!!
あたしは大声をあげて仰け反りましたよ。ええ。

どうしてここにいるんだと尋ねたものの、その理由を聞いてあたしは言葉を失いましたよ。
身の毛がよだつとはこのことなんですねえ。

こんなことあっちゃいけないんだ。

だってそうでしょ。

彼は…

ATMに行ってきたというんだ。

いやー、あたし驚いちゃってねえ。
まだ彼は諦めてなかったんだ、まだ取り返す気でいたんだ。

彼の投資はもう一筋縄では取り返せない域に達している。
これは火を見るより明らかだ。  
なのにまだ追うってんだ。
まだ勝つ気でいるんだ。

その心意気や良し。
あたし感動しちゃってねえ。
だからね、私も隣で尽きるまで戦うことを腹に決めましたよ。



それからどれくらいでしょうかねえ、ずいぶんと時間が経っていましたよ。

夕方頃には私のプラス分は無くなり、追加投資をすることを余儀なくされましてねえ。
BC間でほんとうにハマるんだ。
ええ、天井にももちろん行きましたよ。
これが悔しいったらありゃしない。

もちろんあたしだけが悔しがっていたわけじゃない。
ええ、友人もですよ。

隣に座ってからというもの一言も喋らないで、もくもくとレバーを叩いていたんですけどねえ、2回目のBC間天井に連れていかれたときに、虚空を見上げてぼそっとこう言ったんですよ。

「今なら、なんだってできる気がする」

その言葉の意味を理解できずに、あたしはおそるおそる彼に現在の投資額を聞いたんだ。

「92000円」

そう聞いた私は、レバーを叩く手を止めました。

これ以上はいけない!!
これ以上はもう戻ってこれなくなるぞー!!

ってね、ええ、彼の耳元で叫んでいました。

でもね、彼はとっても穏やかな顔をしてたんだ。
スロットを打っているとは到底思えないような、本当に落ち着いた顔でこう言ったんだ。

「大丈夫。 もうこれからの人生、惰性で良い。 だから俺は今を生きるよ」

それを聞いたあたしは何も言えなくてねえ。
自然と涙が出てきましたよ。

彼はついこの前、こんなことを言ってたんです。

「あー、ルンバ欲しいなー」

ってね。

92000円あったらルンバだって買えてましたからねえ。
それを思い出したら涙が止まらなくなってねえ。


そこからはまた無言で絆を打ち続けていたんだ。

少しでも負け額を減らしたい。
あたし達ふたりはそれしか考えていませんでしたよ。
ここまでやっておいて逆転だなんて、おこがましい話ですからねえ。

だからあたし達は、精神的にいつ壊れてもおかしくない状態だったことは確かですよ。

その時です。

ぷーーぴぃーー

笛の音色が聞こえたんだ。

こんなときに口笛なんか吹く余裕があるのかと友人を見たらね、彼、泣き崩れていたんだ。
ひぃー、ひぃー、ってねえ。

それであたしは彼にどうしたの?って聞いたんだ。

それでも彼は答えない。
ずうっと泣いてる。
ひぃー、ひぃー、って。

あたしは声を張り上げて、

どうしたんだ!?
どうしたんだ!?

って聞く。

彼はそれでも答えない。
回りの人たちもうろたえちゃってねえ。

そうしてね、彼は自分の台を指差したまま泡吹いて倒れちゃったんだ。

あたしは彼が何を見たのか知るのが怖くなっちゃってねえ。

ほんとは見たくないですよ、ええ。
あたしだって怖いんだ。
それでもおそるおそる彼の台に目をやったんだ。


フリーズ


フリーズしてるんですねえ。


いやー、こういうことってあるもんなんですねえ。
あたしもスロットはじめてそこそこ経ちますけどね、こんな劇的な瞬間は初めてですよ。

よくやったぞ!
お前はよくやった!

そう言ってあたしは、気付いたら友人を抱き締めていましたよ。

「ありがどう…、ありがどう…」

泣きながら、鼻水をたらしながら彼は喜んでいましたよ。
いやーこんな奇跡ってあるもなんですねえ。



結局、終わってみるとこの日はまったく激アツの日ではなかったんだ。

「年に一度のイベント」

この言葉を使ってまでしてあたし達からぶっこ抜く営業スタイルは、さすがのあたしもいかがなものかと思いましたよ。

出ていた台はハーデス1台と、マイジャグがちらほら。
バジリスクだとか、北斗だとかメインの島のほとんどが出ていなかったんだ。

そうそう、友人の話ですよ。

彼はフリーズを引いたあの後、コーヒーを奢ってくれたんだ。

でもね、あたしがそのコーヒーを飲み終わる頃には絆高確は終わってしまってねえ。
そこからの失速具合はとても見れたものじゃなかった。
おおよそ1200枚の獲得で終わりましたよ。

フリーズ引いたのにねえ。
こんな無慈悲なことがおこるんだなー。
こわいなー。

って思いましたよ。



そうしてあたし達の「年に一度のイベント」は終わったんだ。

その帰り道、彼は言いました。

「淳ちゃん、この店、もしかして潰れるんじゃない?」

あたしは適当に「大丈夫じゃない?」なんて言ってたんだけどね。
いやあ、ほんとうにホールってのは怖いところですねえ。

ああ、ちなみにね、どうしてだか分からないんだけどねえ、

−50000円

これがあたしのその日の収支です。

不思議だなあ。
いつの間にこんな負けたんだろう。
なーんて思いましたよ。うん。



(C)山田風太郎・せがわまさき・講談社/GONZO
(C)UNIVERSAL ENTERTAINMENT



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