[2]何が彼を・・・ [2017/4/28(金)] |
<見たくはなかった光景>
スロットコーナーと同じく100台ほどが設置されてるパチンココーナー。
だが、スロットコーナーと違って稼働はほとんどない。
3人、いや4人だろうか。
まぁ、この店のガチガチに閉められた釘では仕方がな……!?
その4人のうちの一人は彼だった。
エヴァか何かを打っていたように記憶している。
「なんでこんなゴミホールのパチンコ打ってるの?」
私は彼の後ろに立って、問い掛けた。
だが、返事はない。
「まぁいいや。 さっきの残りの金は?」
ゼニガタに座る時に万札を渡した。
90G回して止めたのだから、7千円残っているはず。
だが、彼の答えは耳を疑うものだった。
「全部使った」
「は? 何に?」
「さっきのゼニガタ」
ゼニガタを90G回すのに1万円も使う訳はない。
にも関わらず、彼は子供のような嘘を真実だと言い張った。
金を持っていないはずの彼が何故パチンコを打っていたのか。
その金はどこから出てきたものなのか。
そう考えれば、私の7千円が彼が打ってるパチンコ台のサンドに消えた事は明白であった。
「こいつ……」
だが、私は彼をそれ以上問い詰める事はしなかった。
この状況に至ってもなおハンドルを離そうとしない男に、何を言っても無駄だと悟ったからである。
<何が彼をそうさせたのか?>
たった7千円。
彼が今までに私にもたらしてくれたメダルの枚数を考えれば、そう思う事ができる。
だから、私はこの事で彼との一切の交友を断つような事はしなかった。
ただ、彼に金を預ける事はなくなった。
それだけである。
「何が彼をそうさせたのだろう?」
私に嘘がばれないとでも思ったのだろうか。
そうだとしても、他人の金を騙し取ってまでパチンコを打つという選択を彼にさせたものは何だったのだろうか……
そう考えても答えなど得られるはずもない。
何故なら、そんなものはハナから存在しないからだ。
病気の母親の為にどうしてもお金が必要だった?
そんな事情があろうはずもない。
ただ目の前に、所有者が席を外した7千円とパチンコ台がある。
たったそれだけで、人の道を踏み外すような行為をさせるだけの悪魔的な魅力がギャンブルにはあるという事なのだろう。
そして、結果はどうか?
彼にとって自分は友人だと私は思っていたが、その友人の信用を失ってまでも手にしたいと思ったものを彼は手にする事ができたのだろうか……
そんな事も考えてみるが、おそらく、そういった形でギャンブルと交わっても、ギャンブルがその行為者に対して、それに見合うだけの見返りをもたらす事は決してないと私は思う。
いや、そもそも人の道を踏み外すに値するような見返りなど、この世には存在しないのではなかろうか。
少なくとも、この日彼が手にした7千円の現金は、あっという間に銀玉に変わっては消えてなくなっていった。
あれから10年が過ぎた。
定職に就いても長続きしない彼は、今でも打ち子生活を続けている。
私はその様子をSNSのタイムラインで時折眺めるが、彼はあの頃と少しも変わっていない。
「やじきた打ちたいけどお金ないんで、代打ち・並び打ちで打たせてください」
相変わらずの彼を複雑な心境で私は見つめていた。
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