[3]園長列伝≪その3≫ 〜園長 VS マナー悪軍団〜(後編) [2016/12/2(金)] |
<イベント最終日>
自分が影山の立場だったらどうするか。
私は何度もシミュレーションを繰り返しながら、現地に向かった。
開店時刻が近付くと、入口のブラインドが開く。
入口からは、金札の挿された北斗の拳のシマがよく見える。
金札台が設定6である事を彼等は前日体感している。
金札以外に朝一台を選択する為のヒントは一切ない……
となれば、彼等が「設定1であるその北斗」以外のどの台に座るというのだろうか。
「それ以外ありえない。」
何度シミュレーションしても結果は同じ。
もはや現地に向かう必要すらないように思えたし、事実、現場で待っていた光景もシミュレーションの結果と同じであった。
それはそうだろう。
ここまで計画的に、彼等を潰す為だけに用意された「金札台」に、誰が抗う事ができるというのだろうか。
それは、絆の3ベルと同じように彼等を縛り続けるのだった。
そして……
<21時>
私は最後の仕事があると告げられ、園長にトレジャーに来るよう呼び出された。
現地に到着した私が店内を1周すると、至る所にドル箱が、別積みの山が築き上げられており、閉店2時間前の21時だというのに、店内はほぼフル稼働の熱気を帯びていた。
店内のベンチに座っていた園長は、私の姿を見つけると手招きして私を横に座らせた。
「あいつらの台、どうだ?」
今のようにスランプグラフや差枚数の表示などなかった時代だ。
その台の収支は総回転数とボーナス回数から計算するしかなかったが、それでも彼等が大きく凹んでいる事は一目瞭然だった。
「ざっと計算して2万枚以上、昨日の勝ち分は優に溶けているだろう。」
園長はそう言うと、最後の仕事とやらを始めると言って店外に私を連れ出した。
携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛ける園長。
すると、しばらくして影山がトレジャーの出入り口から現れる。
「久し……」
園長の姿を見つけるなり、影山は挨拶しようとしたが、その言葉を制して園長は影山に問い掛けた。
「お前達10人が10人、揃いも揃ってなんであんなクソ台打ち続けてんだ?」
そのぶっきらぼうな口調に、影山がややムッとした事が見て取れる。
最後の仕事というのはなんの事だったのだろうか?
私はその意図を測りかね、困惑した。
「朝一の札台だったからだよ。 昨日も一昨日も札台は設定6。 周年イベントなんだから当然打つだろ。」
影山の口調も荒々しくなる。
元々、因縁のあった二人。
まさに一触即発の雰囲気である。
「で、お前の判別だと、あの台は設定6なのか?」
こんなに挑発的な物言いの園長は見た事ない。
園長が影山を煽っている事は明白だった。
「何が言いたいんだよ。 てめぇには関係ねぇだろうが。」
影山は髑髏の指輪を光らせ、園長の胸倉を掴む。
だが、園長もそれに少しも動じず、影山を睨み返す。
「お前達、店からマークされて嵌められたんだよ。」
その言葉を聞いて、ハッとして胸倉を掴む手を放す影山。
「影山、お前ほどのスロッターなら俺やコイツがなぜこの激熱の周年イベントで打ちもしないのにこの場に毎日いたか、その意味がもうわかるだろう?」
一瞬、影山の視線が私に向けられる。
そして次の瞬間、影山は無言で店内の仲間達の元へと戻っていった。
設定変更による天井クリアやストック飛ばし。
空回しによるガックン対策やダミーの札台。
優良な一般客に対してはそれをしないだけで、ホール側が特定の客を狙い撃とうと思ったら、その為の手段はいくらでもある時代だった。
ホールに目を付けられたらまず勝てない。
影山ほどのスロッターであれば、その事は熟知している。
あとは、その事を気付かせ、彼等に引導を渡すのが我々の最後の仕事だったという訳だ。
「これで影山達がトレジャーに来る事はないだろう。」
南店長がこうしてくれと言葉にした事は一度もなかった。
だが、この結果を望んでいた事が間違いない事くらいは私にも分かる。
それを察して、やってあげる事もまた乗りかかった船に対する責任だろうと園長は語った。
「さぁ、俺達も帰ろうか。」
最後の仕事を終えた園長は私の肩を叩くと、安堵の表情を見せてそう言った。
<1週間後>
私達の目の前には、見た事もないほど分厚い肉の塊がそびえ立っていた。
一人一万円の鉄板焼きのフルコース。
それは、今回の一件のお礼として南店長が我々に御馳走してくれたものだった。
「これ、すっごい柔らかい。」
意外にも最も勢い良く食べるのは愛さんだった。
その様子を満足そうに見つめる南店長。
あれから、影山が店に姿を見せる事はなくなったという。
「ホント、こんなの今まで食べた事ないですよ。 お二人もお酒ばっか飲んでないでほら。」
私を笑顔にしたのは、その肉の美味しさだけではなかったと思う。
〜デスロノート〜
そのノートに書かれた台番は翌日「設定1」になるという死神のノート。
完
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