[3]園長列伝≪その2≫ 〜初見のホールで狙うべき場所〜 [2016/9/23(金)] |
一瞬戸惑い、言葉を失くす私。
そんな私の様子を見てなのかは分からないが、男が一言呟いた。
「場所が悪いんですよね、北斗は。」
その言葉を聞くやいなや、園長は親指を立てた拳を突き出して、嬉しそうに言う。
「GOOD!」
男と園長が言っているのは、こういう事であった。
北斗の拳を狙ってしまうと、万が一着席できなかった場合には、外側の通路を通ってドロンジョ、ジャグラーのシマに向かうしかない。(最悪の場合、どれにも座れないリスクが生まれるので、北斗を見てからでも、南国育ち、吉宗に座れるかもしれないと考えてはいけない。)
となると、人の流れとは逆行する形になるので、本来狙いたい通路側の角付近に座れる可能性は限りなくゼロになる。
北斗の拳は、座れなかった場合のリスクが大きすぎるという事だ。
「ホールのイチオシ機種を狙うという発想自体は間違ってない。 もちろん並びが30番以内だったら、狙ってもいいかもしれないがな。」
園長は、男の持っていたメモ上で移動経路を指差しながら私に説明してくれた。
「それよりももう1つの着眼点、目立つ位置を狙うって方を明日は重視したい。」
気付けば、双方のメンバーが1人、2人と集まり、園長を中心に7、8人の輪ができていた。
「全台設定6、あるいは全台高設定のシマを作るとして、自分が店長だったら、やっぱりそれをできるだけ多くの人に見てもらいたいよな。 となると、人通りの多い場所。 だけど、中央の通路からだとシマの端の方は見えないから、全6にしてもその全体像は一目では確認できない……」
勘の良い男は園長の言わんとするところが分かったようであったが、私にはまだピンとくるものがなかった。
「明日、多くの人が一度は通るであろう場所で、なおかつ視界の開けた見栄えの良いシマ。 カウンター前のキンパルで俺達は勝負だ!」
そこまで言い切ったところで、園長はタバコに火を点ける。
後ろに並ぶ者達には、先に自分達の狙い台を宣言しておく事でさり気なく優先権を主張しつつ、狙い台が被らないようにしてあげるという配慮でもあった。
タバコの煙を真っ暗な夜空に吐くと、園長はキンパルを狙うべき理由は他にもあると続けて説明する。
「さっき、北斗の拳に座れなかった場合、どうなるかって話をしたがキンパルの場合はどうだ?」
北斗や吉宗に向かう人でごった返すであろう中央の通路を通らなければ、かなり早くキンパルに辿り着けるだろうし、万が一座れなかったとしても、同じくカウンター前のジャグラーや割の高い百景の中央通路側が押さえられる可能性が高い事。
BIG中のハズレという明確な設定判別要素があり、座れた後に低設定を回し続けるリスクも小さい事。
二重にも三重にも保険の効いた戦略に、私はただただ聞き入るのみであった。
「座れなかったら……、低設定だったら……、どこまでも慎重なその発想は俺らとおんなじでプロなんかな?」
男の言葉を聞いてふと周りを見れば、自分を除いて他の者は全員当然の事だと言わんばかりにうんうんと頷いている。
初めて聞いたような顔でぽか〜んとしているのは私だけだった。
「全台系を狙うならカウンター前のシマ。」
この時は知らなかったが、その後の経験を照らし合わせてみると、このセオリーはかなりの場面で当てはまっていた。
そんな貴重なセオリーを私が心にメモしていると、いつの間にか話題は次の話に移っていた。
「そういえば、カウンター前を狙うってのは、セオリーの一つだとしても、カウンターに垂直に配置されている角台はダメなイメージが強いよな。」
「えっ? そうなの!?」という私の心の声より先に、園長が確かにそうだと反応する。
「理屈で言えば同じなのに、あれはパチスロ界の七不思議の一つと言ってもいいよなぁ。」
どこからともなくメンバーの誰かが話し出す。
そこから先は、パチスロで本当にあった怖い話だの、終いにはパチスロに関係なくただただ怖い話だので私達は盛り上がった。
見知らぬ者同士が同じ趣味を通じて知り合い、語り合う夜はいつだってあっという間に過ぎていった。
気が付けば、夜は更け、日が昇り、私達はカウンター前のキンパルで、男達は通路を挟んで隣のジャグラーで千両箱を一杯にする作業に勤しんでいた。
あの夜から何年が経ったであろうか。
その間に4号機は撤去され、イベントは禁止されたが、それでも今日もカウンターに平行なシマに全台高設定を期待して座る私がいる。
効果のほどは定かではないが、10/6、青いものを手にして真っ先にカウンターに向かう男がいたら、それは誠なのかもしれません。
〜FIN〜
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