[3]設定6の在り処≪前編≫ [2016/7/1(金)] |
2時間後。
結局、その列が伸びだしたのは開店30分前を過ぎた頃からだっただろうか。
開店5分前には50人強のスロッターがこのホールに集まり、私達はその先頭で開店時間を待った。
「走らずにお一人ずつお願いします」
その声を聞くなり、小走りにカイジのシマへと向かう7人。
一人ずつ入店させるホールの場合は、殿(しんがり)になる8人目がわざと少し間を開けて入店する事で、先に入った7人が9番目以降の客に追い抜かれるのを防ぐ。
そんな事をしなくとも並び順に台を選択できるのが理想なのだが、こちらが綺麗事を並べても相手はお構いなしだ。
故に、これも朝一に狙い台を確実にキープする為の自衛手段として、必要があって編み出されたテクニックの一つであった。
そうして無事に8台のカイジを確保した私達は、設定6を意識したブン回し体制でゲーム数を消化していく。
幸い、カイジはボーナスを揃える時以外は一切の目押しが不要。
機械割は111.1%とやや低めだが、ゲーム数を稼ぎやすいのも魅力の一つであった。
カイジの設定6は、およそ98%の確率で前兆込み292G以内にボーナスが引ける。
私達は292Gを超える台を消去法で1台ずつ外していった。
すると……
燦々と照りつける太陽の下、立っているだけでも暑くなるようなホール外とは逆に、ややもすると上着がなくては肌寒いくらいにエアコンの効いた快適なホールの一角で、私達は正午を迎えた。
朝一は292G以内でボーナスを引けた台も、1台、また1台と292Gを超えてしまい、気が付けば292Gを超えていない台は残り1台になっていた。
カイジは全部で8台で、イベントは全部で7日間。
となれば、1日1台の配分になる訳だから、この日は最後に残ったこの台が設定6なのだと誰もが思い込んでいた。
そんな時、280G台で発展した限定ジャンケン演出。
「信じるべきはオレの力」
これは弱い方の演出。
「明白なんだよ、オレにはオマエのカードがわかる」の台詞がチャンスアップなのだが、そんな事は関係ない。
この日は最後に残ったこの1台が設定6で、設定6なら98%当たるはずなのだから。
そんな思いを胸に、演出をキャンセルしてレバーを叩く。
だが、そこに表示されたのはボーナス確定画面ではなく、通常画面であった。
私達は最後の1台のカイジも諦め、この日は解散した。
「やっぱりカイジに設定6は入っていなかった」
その日の夜、私達が解散した後もホールに残り、別の機種で設定6を狙った者からのメールが届く。
私はそれを自宅のベッドの上で受け取った。
そして……
翌日もその翌日も、私達は同じルーチンで稼働を続けた。
だが、結果は初日と変わる事はなかった。
私達は3日目を終えて15万、一人頭で2万弱の負債を抱えていた。
「やっぱりカイジに設定6は入っていなかった」
3日目の夜も、自宅のベッドで初日と同じメールを受け取る。
そのメールを確認した私は、携帯電話を閉じて、それを無造作に枕元に放る。
「何かが間違っているのだろうか?」
ベッドの上で天井を睨み、問い掛ける。
他の機種には設定6と思しき挙動の台も数多確認されているというのに、私達の座るカイジにだけはそれがない。
「イベント自体がガセなのか?」
「いや、他の機種には設定6が入っているのだから、そんな事はない」
2つの思いが何度も何度も頭をよぎるが、堂々巡りで一向に正解には辿り着けない。
だが、ここまでの3日間をカイジに費やしてきたのだから、意地でも設定6が入るまで打ち続けるべきだ。
イベント期間中設定6が使われていない台は、日に日に設定6が入る確率は高まっていくのだから、それが正解のはずだ。
軍団のメンバーは心の奥底では皆そう考えていた。
その時……
ブルルッ、ブルルッ
私に、ギャンブルを続ける上で最も大切な事を教えてくれた電話が鳴った。
〜〜〜後編に続く〜〜〜
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