もういい。
そのために動かなければならないことが面倒くさい。
8千円落としたと思って諦める。
そもそも、騙される方がアホなんだ。
俺は意外にも金のことはあっさり吹っ切れた。
なによりも、この事件に関してとても気にかかることがあったのだ。
あいつはなぜ、俺が一人で来てると知っていたのだろう・・・
北斗のシマにも周りのシマにも人はそこそこいたのだ。
ツレがいる可能性を考えないはずがない。
だったら簡単には交換できないはすだ。
ノリ打ちの可能性だってある。
ツッこまれたらそれまでだ。
その場で捕まる。
おかしい・・・
何か絶対的な確信がないとできない犯行だ。
可能性があるとすれば・・・
店員とグル。
あの日、唯一店員だけが俺が一人だということを知っていた。
店員がグルなら、女のステルス交換はスムーズに行われる。
だとしたら、店員と男と女。
3人ぐるみの計画だったのか・・・?
しかし、それぞれを結びつける証拠などない。
そしてあの男の流暢な物言い・・・
初犯とは思えない。
外に出たあの時、俺がすぐに戻ろうとしたらどうなっていたのだろう・・・
男にはそのシナリオもあったはずだ。
呼び止める術はなんだったのだろうか。
そんなところが気になる。
あいつは一体、何通りの筋書きを用意していたのだろう・・・
そしてあれから10年。
俺はたまに考える。
もしどこかであいつに会ったら、
「あの時もし俺が外に出なかったらどうしていたのか」
「外に出て、俺が1分で中に戻ろうとしたらどうしていたのか」
そして、
「店員はグルだったのか」
そんな答えを聞いてみたいと思っている。
この事件は、今も仲間同士での語り草になっていて、酒の席ではしばしば出る。
そして、
「人を見たら泥棒と思え」
このことわざは、決して大袈裟ではないということなのだ。
「犯罪者」−完−
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