[4]天高く女神肥ゆる秋 [2013/10/11(金)] |
再び隣に誰かが座った。
ふと見れば、やっとの思いで歩いているような、しかも丸々と太った高齢のお婆さんだ。 まずい。
いや、まずいなどと言ってはいけない。
この丸々としたお婆さんが貧乏神と決まった訳ではない。
が、油断も禁物である。
このホール、どう見ても貧乏神が巣喰っている。
しかしこのマルいお婆さん、座った途端にボーナスを引いた。
そもそも貧乏神がボーナスなど引くだろうか。
いや、ボーナスを引くという事は、ホールが損をするという事だ。
ホールが貧乏になる。
まずい。
ボーナスを引いたはいいがこのマル婆ちゃん、目押しができないようである。
貧乏神に興味は無いが、俺はお年寄りが大好きなのだ。
もちろん俺が目押しを買って出た。
「あれ、悪いねぇ」
「いいよいいよ」
これに気を良くしたかマル婆ちゃん、俺にいろいろと話しかけてくる。
俺も全く人見知りをしない質なので気安く応じる。
「アンタどこに住んでんだい」
「ん?○○町だよ」
「ああそうかね。でも○○町にもパチンコ屋はあるだろうに」
「そうなんだけど、この台が打ちたくてね。この店にしか無くて」
そんな会話をしていると、俺もついにボーナスを引いた。
これはREGだったが、しかし…
「まさかこのマル婆ちゃんが…」という思いが頭をよぎる。
「だけどもう1000ゲーム以上ハマってんだし、どっちにしろそろそろボーナス引く頃だったんだよ。別にマル婆ちゃんが…」
そう考えていると、マル婆ちゃんがまたボーナスを引いた。
ここで再び目押しをしてやる。
「あれ、悪いねぇ。これでジュースでも買いな」
「え?いいっていいって」
マル婆ちゃんが5枚のコインを俺の台の下皿に入れてくれたのだ。
これで疑いは晴れた。
マル婆ちゃんはシロだ。
貧乏神がコインを恵んでくれる筈がない。
それどころか…
「マル婆ちゃんが来たら俺もハマりが終わったんだよなぁ」
とは言え、俺の心理がなかなか認めようとしない。
確かに俺は女神さまを探し求めてはいるが、誰でも良いという訳ではないのだ。
いや、もちろん俺の唯一絶対の女神さまはハニーである。浮気ではない。
ただ、もしも他にも女神さまに出会えるのであれば、ハニーのような美しい女神さまを求めているのだ。
このマル婆ちゃんが女神さまだとは、どうしても俺の心理が認めようとしない。
マル婆ちゃんが女神さまである筈がない、女神さまだと困る。
しかし、マル婆ちゃんが隣に座ったら俺もボーナスを引いたのだ。
まずい。
いや、まずいなどと言ってはいけない。
マル婆ちゃんが女神さまでも良いではないか。
それで俺が勝てるなら。
さて、やっとボーナスを引いた俺だったが、REGだったのでその出玉もすぐに底を突く。
残るクレジットは3枚。あと1ゲーム。
「そういやこの前もこっからボーナス引いたけど…」
そうそう奇跡は起きない。
最後の1ゲームで、ベル。
その出玉で、中リール下段白7。
「うっそ…」
嘘ではない。
本当にまた奇跡は起きた。
本当に驚いた。
最後の3枚からのボーナス。
これをよく考えてみよ。
最後の3枚。
これは、マル婆ちゃんのくれた5枚があったからこそ…
まずい。 まずいぞ。
いや、まずくないまずくない。
まずいなどと言ってはいけない。
マル婆ちゃんが女神さまだと困るなどと考えてはいけない。
マル婆ちゃんのおかげではないか。
マル婆ちゃんが隣に座った途端に俺は無間地獄のようなハマリから解き放たれた。
マル婆ちゃんがコインをくれた。
そのコインでボーナスを引いた。
まずいなどと考えてはいけない。
どう考えてもマル婆ちゃんが…
まずい。
しかしこの後も俺は順調にボーナスを引き、最終的には1000枚程のコインを得られたのだ。
認めたくはない。
我が女神さまは常にハニーのような美しい女神さまでなければならない。
しかし、事実は事実として受け止めねばなるまい。
そう、このマル婆ちゃんこそが、女神さまの五衰後の姿なのかもしれない。
つまり、マル婆ちゃんも60年くらい前は美しい女神さまだったのかもしれない。
だとしたら、ハニー、ハニーもいつの日か…
まずい。
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