投稿日 |
2016/1/23 |
投稿者 |
ハバタケ さん |
年代 |
40代 |
性別 |
男性 |
職業/立場 |
サラリーマン |
パチスロレベル |
上級者 |
PM4:40 ―
コツコツコツコツ…
パサ…
上司
「はいこれ3万円。 じゃ、よろしくな。」
俺
「わかりました、帰りに買っときます。」
コツコツコツコツ…
バタン。
「………」
年功序列…終身雇用。
ヤツは、時代に恵まれて昇進しただけの男。
仕事効率は悪く、決断も遅い。
弱者には強く強い者には弱い、典型的な嫌われ者だ。
忘年会で見た酒癖の悪さも酷い。
今日も、冬物を買うとかで俺にネット購入してくれと頼んできた。
なんでも他人任せなヤツだ。
これで何回目なんだ。
ラインでリンク先が送られてきている。
リンクを開くと、すでに購入ページ。
またボタンを押すだけのページ。
なぜだ…
必要事項を書いて金を振り込めばいいだけだ。
クレジットカードも使える。
仕事より簡単だ。
なぜできない…
商品はニット帽。
有名なブランドで、シンプルな黒のニットに小さなロゴが縫い付けられている。
価格は送料含めて約3万円。
マジか…
これって、俺がユニクロとかでニット帽買って、それっぽいロゴを付けてもわからないんじゃあないのか?
きっとまた後頭部を隠したいだけだ。
まあいい。
そんなことより、もうすぐ給料日だ。
いつの間にか大好きな大都技研から、大好きな秘宝伝が出てきてるじゃないか。
波が荒く、設定不問で吹くことが多いらしい。
それでいいんだ大都。
設定なんて期待してない。
次の休みは朝からブン回してやる。
今日はこれをコンビニで払ったら、さっさと帰宅だ。
ポチポチポチポチ…
・
・
・
・
『押すんじゃあない…』
・
・
・
・
え?
『暗闇で懐中電灯を見つけた時みたいに…簡単にボタンを押すんじゃあないと言っているのだ。』
な…なんだこの声は!?
ドシュウゥ!!
モクモクモクモク…
『勝者とは…運命の分岐点を見逃さない者だ…そして数少ないそのチャンスを必ずモノにするのだ…』
「あッ! お前は…あの時の…!」
『"あの時"だけじゃあない…私はずっと昔からお前といるのだよ。 そんなことより時間を無駄にするな。 そのページ…もっと下へスクロールしてみろ。 "分岐点"を見逃してるんじゃあないぞ。』
「ぶ…分岐点?」
グイィ…
「うっ…ゆ…指が…!」
↓スー…
●その他のお支払い方法
□銀行振込
□クレジットカード決済
□代金引換
『代金引換を押せ』
「えっ!?」
『お前は2日後の給料が約束されている。 品物が届く頃にはすでに十分な金を手にしているのだ。 だから、あの男との約束通り今ここで商品を注文し…代引きで金を払え。 グズグズするな。 すぐにここを出るのだ。 行き先は…わかるな?』
「バ…バカを言うな! そんなことはできない! もう消えてくれ…お前が出てくるとろくなことがない!」
『酸欠の魚みたいになってるんじゃあないぞ…パソコンを見ろ。』
ジジジ…
「うっ…これはホールの新台情報…」
『この日…この時…この場所で…取り返しのつく金を手にしたお前は、日常以上の"運命"を手に入れたのだ。 すでに心のルーチンがこれからのシナリオを描いているぞ。』
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
「シ…シナリオ…?」
『金を受けとった時、お前の心が決断したのだ。 "こうすればいつものように行けるじゃあないか…"とな。』
「バ…バカな…そんなことは思っ…」
『人間には必ず植え付けられているインパクトがある。 忘れられない記憶、消えないトラウマ…それらは頭で覚えてるモノじゃあなく、心で記憶しているモノだ。 だから消したくても消えず、忘れたくても忘れられない。 お前にも金を手にしたインパクトによる心のスイッチがあるのだ。 さあ行け…道路に座り込んで話しているヤツらのように、時間を無駄に過ごすんじゃあない。』
「イ…イヤだ…俺は絶対行かないぞ…」
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
『あの男は…お前を都合のいいヤツだと思っている。 毎日会社へ来て、せっせとエサを運ぶアリのような存在くらいとしか、お前のことを思っていない。 だがお前は公私共にヤツのために動いている。 本当にそれでいいのかね?』
「う…」
『この世に幸福という概念があるならば、そのボーダーは常にゼロでなくてはならない。 誰かが金を拾うということは、落としたヤツがいるということだ。 良い事が起これば悪い事も起こる。 どんな出来事であろうと、その帳尻は常にゼロに向かって進んでいく。 お前がヤツのために動くのならば、お前にも"得"が生まれなければならないのだ』
ドクン…
『社会には、使う者と使われる者の二種類しか存在しない。 お前はただ使われるだけなのか? 生まれて最初に見たものを親と刷り込む動物のように、もう"出来上がって"しまっているのか? 違うぞ…使ってやる番がきたのだ…利用するのだ、ヤツを!』
グラリ…
「う…もう…ダメだ…」
・
・
・
ビカッ……!
シュウゥ…*°
パアアァーー.*:.°☆
「う…まっ…まぶしい!」
《ハバタケ…行ってはなりませんハバタケ…》
「あ…あなたは!…あの時の…」
《ハバタケ…あなたはいつも、"自分は損をしている"…と思っていませんか…》
「え…」
《人のために色々としているが、自分には何の見返りもない…そう思ってはいませんか…?》
「そ…それは…」
《いいですか…人生とは人と人との繋がりです。 そしてその繋がりに最も大事なもの…それは信頼です。 社会にも、友人にも、恋人にも、家族にも…例外はありません。 信頼とは絆…絆とはすなわち愛。 愛は裏切るものではありません。 あなたはいつもみんなに言われてるじゃありませんか…"ありがとう"…と…》
「はっ…」
《目に見えるものだけが見返りではないのです。 あなたは心にたくさんのお礼を貰っているのですよ…》
「こ…心にお礼を…」
『そうだ。 お前はいつも心から礼を言われているぞ、店長にな。 いいか…こいつは裏切りじゃあない。 むしろ代金引換こそが正当な取引なのだ。 お前も店で商品を手にとって買っているだろう。 物を受けとる引き換えとして金を払う。 それがこの世の常だ。 この過程に"悪"など存在しているのかね?』
グラリ…
「せ…正当な…取引き…」
ピカアァー.*:.°☆
《ハバタケ…人は誰かに優しくされると、その人もまた誰かに優しくする生き物です。 彼もまた、あなたの見えないところで誰かを幸せにしています。 目の前のことだけにとらわれてはなりません。 毎日たった1つの良い行いが、長い年月を経て絶大な信頼と幸福を作るのです。 さあ、最初に選んだボタンを押すのです。》
「お…俺が信頼と幸福を…」
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
『ありきたりな良識と見解で未来を達観してるんじゃあないぞ…見ろ、そこのカレンダーの写真を。』
「はっ…」
『イタリアのピサの斜塔だ。 あの塔がなぜ傾いているのか…お前は知っているかね?』
「う…知らない…けど芸術的な何かだ…」
『違う…あの塔は地下水による地盤沈下で傾いているだけだ。 建設初期からな。 だがそれが歴史を作り、今では世界的な建造物となった。 もし最初の傾きで造るのをやめていれば、観光地にもならず、ガリレオの実験もなかっただろう。 いいか…この世には通常の思考では到達できない領域がある。 成功者は、普通以外の行動を起こすことで成功者となるのだ。 お前は押してしまうのか? "普通"にそのボタンを!』
グラリ…
「うっ…」
ピカアァー.*:.°☆
《ハバタケ…人が成功を成し遂げるために必ず持っているもの…それは信念です。 信念とはあきらめない心、あきらめない努力…あなたは以前、真っ直ぐに生きようと決めました…それはまさしく信念から生まれた決意。 ほら…そのカレンダーをめくってみなさい。》
「はっ…」
パラリ…
《それはゴッホの有名な絵のひとつ…自画像です。 彼の生前に売れた絵の枚数を、あなたは知っていますか?》
「し…知らない…でも相当な数なのでは…」
《彼は2千枚以上の絵を描きましたが…生前に売れた絵はたったの一枚です。》
「えっ…」
《いいですか…信念とは貫き通す努力の心…揺るぎない決意。 彼の生涯は凄まじい挫折の繰り返しでしたが、絵を描くことだけはやめませんでした。 そして世界に名を残す画家となったのです。 あなたはここでやめてしまうのですか? "自分の絵"を描くことを…》
「はっ…自分の絵…そ…そうだ…俺には強く決めたことがあったんだ!」
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
『ゴッホは拳銃自殺によって人生の幕を閉じている。 お前もするのかね? 自殺を……ククク… だが打つのは拳銃の玉じゃあない。 ジャラジャラと音のする方の玉だ。 さあもう行け…すでに賽は投げられているぞ!』
ド ド ド ドド ド ドド…
「ボ…ボタンを押さなきゃ…」
『そう押すのだ、リールのボタンを!』
「ハァハァ…」
《ハバタケ! あなたはこれまでの悪習を後悔したのではなく反省したはずです! 反省とはすなわち未来への階段! 今こそ負のスパイラルを断ち切るのです!》
『なあに簡単なことだ…勝てばいいんだよ』
ドクン…
《行ってはなりませんハバタケ! また地獄のような生活に戻りたいのですか!》
ド ド ド ドド ド ドド…
『フフ…今の時間なら確実に座れるぞ…』
"ガッ"…
《ハバ…"ガッ"…タケッ…"ガガッ"…》
『何を…"ガッ"…打つ…んだ…"ガガガッ"…』
「あ…頭が…」
ガガッ…
ガガッ…
ガガガガガガガガッ…
プチュン
・
・
・
・
・
…ーン ポーン
・
・
・
・
・
「はっ…」
ピーン ポーン
宅急便でーす
「あ…はい」
ガチャリ…
配達員
「代引きなんですが…29,620円になります。」
「代引き…? あ、はい。」
ガサガサガサ…
「じゃ3万円で…」
配達員
「ありがとうございましたー」
・
・
・
・
・
あの日…あの時…
俺は何に負けてしまったのか。
自分…パチンコ…それとも…
でも後悔じゃない、反省するんだ。
反省は未来への希望だ。
これからは真面目に生きよう。
普通であること、当たり前の事を当たり前に出来るってことが、一番の幸せだって気づいたんだから・・・
このニット帽…
明日アイツは喜ぶだろう。
それでいいんだ。
人と人とが繋がってこそ人生。
たくさんのありがとうを言ってくれる人生っていいじゃあないか・・・
腹が減った。
なんか食べに行こう。
給料日だしな。。。
・
・
・
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
・
・
・
『今の金…すぐに取り戻したいと思わないかね?』
プチュン…
― Fin ―
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