投稿日 |
2015/7/25 |
投稿者 |
ハバタケ さん |
年代 |
40代 |
性別 |
男性 |
職業/立場 |
サラリーマン |
パチスロレベル |
上級者 |
「左のフロントライトが切れてますね」
きっかけは、ガソリンスタンドで言われた些細な一言だった。
前後のランプチェックをしてくれるサービスだ。
俺
「え? マジすか。 ここで取り替えできますか?」
店員
「えーと、これは・・・ ああ、純正のHIDですね。 すみません、うちHID置いてないんですよ」
俺
「ですよね〜。 じゃあこのままオートバックス行きます。 ありがとう」
店員
「ありがとうございましたー」
ブウゥーーン…
「HIDってなんだ?」
とにかく今日中にオートバックスに行って球を換えなくてはならない。
このままだと、今夜仕事場の入り口で守衛に止められてしまう。
俺はアイツが嫌いだ。
毎日入門許可証を見ながら手を挙げてはいるが、本当に見えているのか怪しい。
免許証のように小さな許可証を見せながら、数百台の車が走り抜けていくのだ。
ヤツは本当に許可証が認識できているのか。
いや、見えてるハズがない。
こっちを見てないのにOKの手を挙げる時すらある。
そのくせ速度が少しでも速いとすぐに車を止める。
そしてボールペンでコンコンしながら窓を開けさせ、えらそうにものを言うんだ。
今夜このまま会社へ行くと、俺は整備不良で必ずヤツに止められる。
それは最も避けたい無駄なストレスだ。
オートバックスは待ち時間が長いから昼間は行きたくないが、今日は行くしかない。
さっさとHIDとやらを交換して、家に帰って寝よう。
店員
「いらっしゃいませーっ!」
俺
「えっと…フロントライトがかくかくしかじかで」
キュルキュルキュルキュル(早送り)
俺
「え! 1万4千円!?」
店員
「はい、一番安いものと工賃合わせまして…」
おいおい…
たかがライトの球だぜ…?
1,500円の間違いじゃあないのか?
しかも2個セットでしか販売できないなんて…
工賃も球も、無駄に2倍払うのと同じじゃあないか…
中古の車を適当に買ったのが悪かったのか…
ハロゲンより明るいらしいが、前のオーナーは目が悪かったのか?
とにかく知らなかった…
球にはハロゲン球とHIDの2種類があるなんて…
そしてヤバイ…
俺の全財産は偶然にも1万5千円ポッキリだ。
これには、給料日までの6日分の生活費も含まれている。
電球買って飯が食えないなんてシャレにならない。
だが球を換えないのもヤバい。
俺
「あ、すみません。 今手持ちがないんで、ちょっと家に帰ってお金とってきますね。(ないけど)」
店員
「ハイ、お待ちしておりますー」
ガチャ
バタンッ
ブウゥーーン…
くそ…
どうする…どうする…
どうする……
6日間も片目ライトのままっていうのはさすがに……
・
・
・
・
『行けよ』
・
・
・
・
え?
『行くんだよ』
な、なんだこの声は?
ドシュウゥ!
ドロンドロンドロンドロン…
「!!!」
『人生とは・・・選択と決断の連続だ・・・』
「なな、なんだお前は!」
『その選択肢には必ず正解があり…間違いがある…。 長い人生において、正解を選び続けた者だけが成功者となるのだ…』
「な、何を言ってるんだ…」
『私は…お前の心の漆黒から生まれたお前自身の投影だ… お前が今まで選び、そして決断し続けてきたそのものだ…』
「お、俺が決断し続けたもの…?」
『人生のダンジョンで…人は必ず何かを選び、そして決断する。 学校を選び、会社を選び、結婚相手を選ぶ。 コンビニで何を買って食べるのかも、お前は選んで決断している…』
「なんなんだ…」
『結婚や就職は、その後の人生を決定付ける大きな決断だ… だが人間は選択の間違いに気づいた時、決断をやり直す者もいる… 再就職、再婚、そして元凶となるものの断ち切り… それが人生のやり直しというやつだ。 だがお前は、やり直しのチャンスすら捨ててここまで生きてきた…』
「うっ…」
『人生の決断の時、常にギャンブルというものを優先して選択してきたのだ。 そして多くのものを失い、傷つけ、すでに今のお前には、やり直せる選択肢は残っていない…』
「ううっ…」
『さあ今回も行け… お前が今まで決断してきたように。 もう後戻りややり直しはないのだ。 正解というレールを脱線し続けたお前の道は、もはや一つしかない。 さあ行けっ!』
「い、イヤだ… 俺は行かない… 確かに今月も負けたよ… 足を洗うことなんてできなかった… でもやめたんだ… 最後の…最後の金を使うことだけは!」
『フフ…タバコを吸え…。 お前はホールに着くまでの一本が好きだったな』
シュボッ…
「うっ! い、いつの間にタバコが…」
『窓から流れ出ていくそのタバコの煙を見ろ。 決められたルートを同じ速さで出ているだろう。 煙にとってそれしか道がないからだ。 他に選択肢はないからだ。 それが運命というものなのだ。 お前はそのタバコの煙と同じだ。 さあ行け! 次の交差点を左だ。 通い慣れたいつもの道だ』
「うっ… ひ、左…」
← チッカッ ← チッカッ
「だ、ダメだ… 行っては…」
ビカッ!
シュウゥ…
パアアァァーーー☆*
「な、なんだ、ま、まぶしい!」
《ハバタケ…待ちなさいハバタケ…》
「な、なんだ…?」
《行ってはなりませんハバタケ… あなたは自分自身と強い約束をしたはずです。 最後のお金は自分のためにとっておくと… 私は、その強い締結心から生まれた心です… さあ、家に帰るのです》
「そうだ、そうだった! 俺は行かないって決めたんだ。 スーパーに寄って美味しいものを買って帰ろう! 守衛のおっさんも、話せばきっと待ってくれるハズだ」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…
『自分に嘘をつくことができないのは… お前自身が一番よく知っている… 今までこれと同じ場面をどれだけ繰り返してきた…?』
「うっ…!」
『お前は生粋の博打打ちなのだ… 逆に誇りを持て… ホールを思い出すのだ… 確率を芸術的に可視化できるあのホールを』
「ううっ…!」
ピカアァー☆*
《ハバタケ…行ってはなりませんハバタケ… 窓から出て行くその煙をご覧なさい。 その煙の速さは、あなたの人生と同じです。 時の流れはゆっくりに見えて、実はとても早く進んでいるのです。 今まであなたはその流れる煙のように儚く時間を使い、そして消えゆくその煙のようにお金を失ってきました…。 でもこれからのあなたは違います。 さあ、家に帰るのです》
「ス、スーパー…寄らなきゃ…」
ゴ ゴ ゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…
『40歳…お前は今40歳だ… 見ろ、そこで道路に穴を掘ってるヤツらを…』
「はっ…」
『お前と同じように正解を選べず… 一生道路を堀り続けるヤツらだ。 職は違えど、自分とダブって見えるだろう・・・』
グラリ…
「ハア…ハア…」
『お前と同じで欲望に負けながら野心を抱き…優先順位を間違え、一定の枠から出ることのない人生を歩むのだ。 だがヤツらにはチャンスがある。 若さゆえに、正解を選び直せるチャンスがな… だがお前にはもう何もない。 チャンスを全て棒に振ってきたからな。 さあ、もう3分で着くぞ』
ゴゴ ゴ ゴゴ ゴ ゴ…
「ハア…ハア…さ…さんぷん……」
ピカアァーー☆*
《迷うことなどありませんハバタケ…… ほら、あそこで道路を掘っている人達をご覧なさい。 彼らがいなかったら、道は作れないのですよ…》
「はっ…」
《誰かがこの道を設計し、誰かが材料を作り、そして彼らがそれを使って道を作る。 それが社会というものです。 もし人類がみな天才なら、誰が道路を掘ってくれるのでしょう? 誰がトイレを汲み取ったり、ゴミを回収してくれるのでしょう? 人は皆、適材適所で必要とされているのです。 無駄な人生を歩む人などいないのですよ。 …あなたはもう40歳… でも60歳になった時、振り返ればまだ20年も時間があったと必ず後悔します… さあ、自らの手で未来を切り開くのです》
「ハア…ハア…俺も誰かの役に…」
『そうだ、お前は役に立っているぞ… お前のおかげでホールの店員とその家族は食べていけるのだ。 クク… お前は病気なのだ。 治したいならホールへ行け。 そこで勝つことだけが唯一の治療法なのだ』
グラリ…
「ハァ…ハァ…」
《安心なさいハバタケ… あなたはもう光の当たる場所にいます。 長年苦しんできた葛藤と決別する時がきたのです。 さあ、迷わず家路へ向かいなさい》
「ひ…光の当たる場所…?」
『フッ…お前はすでに後戻りのできない場所にいるのだぞ… そしてそこは自ら選んだ場所なのだ。 光がある場所には必ず影がある。 男と女、天と地、内と外、昼と夜… この世の全てのものは、相対するものと同時に存在することでそのバランスが保たれている。 そしてお前は影だ。 それはすで決定されたことなのだ。 もう足掻くのはやめろ… いつものように行けばいいのだ。 お前にとってはコンビニに入るのと同じはずだ』
ドクン…
《行ってはなりませんハバタケ! 半年も経てば、そこは煙と騒音の中でレバー叩き続ける苦行の場にしか見えなくなります。 今あなたに問うているのは、ホールか家かなどではありません。 安らぎと共に生きるか、業火に焼かれるのか、その是非を問うているのです!》
ド ドド ド ドド ド ド…
「ハア…ハア……ラ、ライト…買わなくちゃ…」
『そうか… で、今日は何を打つんだ?』
「ハア…ハア…」
《ハバタケ… 勝っても負けても地獄を生むのがギャンブル! あなたはそれを身をもって知ったはずです!》
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
「あ、頭が…」
『行け!』
《家に帰るのです!》
『行……"ガガッ"…け…』
《い……"ガッ"に…帰…"ガガッ"の…です…"ガガッッ"》
ガガッ…
カガッ…
ガガガカガガッ…
・
・
・
・
プチュン…
・
・
・
・
ませ…
ませ…!
「はっ…」
/
いらっしゃいませ!
\
「はっ… こ、ここは…」
ジャラジャラジャラジャラジャラ…
ジャラリ…
「こ、これはアラジンA・・・2・・・」
ジャラジャラジャラジャラジャラ…
お、俺は負けてしまったのか…
またしても…
『クク…いや、勝ったな…6,000枚も…出てるじゃあないか…』
クルッ
「ハッ…い、今の声は…か、帰ろう…ライトの球を換えなくては…」
ガチャ
バタンッ
ブウゥーーン…
ゴ ゴゴ ゴゴ ゴ ゴ…
『で、明日は何を打つんだ?』
― Fin ―
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