| 投稿日 |
2014/3/4 |
| 投稿者 |
花緒 さん |
| 年代 |
30代 |
| 性別 |
女性 |
| 職業/立場 |
OL |
| パチスロレベル |
初心者 |
清水の舞台から飛び降りることの爽快さを知ったあたくしではございましたが、ええ、思い切って買い求めたチョコレートはあたくし自分で食べたのでございました。
あの時だけはどうしても清水の舞台から飛び降りる勇気が湧いてこなかったのでございます。
しかし遊戯場で遊ぶ際だけは勇気が湧いてくるようになりまして、今日もお店に入りますと、五円遊戯台が並ぶ通路へと真っしぐらに向かったのでございます。
しかしそうは申しましても、先だっては五円相場でこてんぱんにいじめられてしまったのでございまして、今日の遊戯に使えるお金は四千円しかございませんでした。
それでも今までのあたくしでしたら、それこそ負け犬のように二円相場の遊戯台の通路へと逃げ込んでいたところですが、今日のあたくしはちょっと違っておりました。
何やら妙に自信が湧いてきたのでございます。
もちろん何の根拠もない自信なのでございますが、それでも今日は自信に溢れていたのでございます。
きらびやかな遊戯台が並ぶ五円相場の通路を歩き目に止まったのが、まどかマギカという遊戯台でございました。
この台が三台並んでございまして、真ん中の台が空いており、両脇の台にはそれぞれ殿方がご遊戯してらっしゃいました。
殿方に挟まれて遊戯するなんて、まあ、あたくしどうにもどきどきしてしまいまして、真ん中にあたくしが座って両隣のお二人はどうお感じになってらっしゃるのかしらと、あたくしこっそりお二人をちらりと見たのでございます。
するとまあ、お二人ともあたくしのことなぞ眼中にないようでございまして、お二人とも遊戯台の画面に夢中のようでございました。
その画面に映っているのは何かと言えば、ええ、何やら可愛らしいお洋服をお召しになられたお嬢さま達でございます。
このお嬢さま達に、お二人の殿方が夢中になっているではございませんか。
ええ、そうでしょう。そうでございましょう。
あたくしのような何の色も艶もない人間より、あのように若さとみずみずしさと可愛らしさ溢れる女性の方が良いに決まっておりますわね。
さらに、右隣の台では画面のお嬢さまが何やら変身したようでございまして、殿方がそれを携帯電話で写真を撮っているではございませんか。
まあ、なんて、なんて、なんて憎らしい。
あのお嬢さま達、いえ、お嬢さまなぞとお呼びするのも腹立たしい、あの娘達でございます。
あのように可愛らしいお洋服を着て甘ったれた声を出して媚を売れば、殿方を夢中にさせられると思っているのに間違いございません。
そうして多くの殿方を騙し、お金を巻き上げようという腹づもりなのでございましょう。
両隣の殿方お二人はやはり娘達にご執心の様子でございますが、それも当然でございましょう。
いえ、むしろ殿方として健全でございましょう。
このお二人は決して悪くはないのでございます。
悪いのは、そう、あの娘達でございます。
ほらご覧なさい。
思わせぶりな仕草や声で殿方を騙し、ボーナスを小出し小出しにし、そのくせそこから先には進ませないのでございます。
魔法使いなぞと名乗っているようでごぞいますが、その実あの娘達は魔女の手下かその類いでございましょう。
忌々しい娘達ではございますが、あたくしも遊戯を始めてしまったものは仕方がない、千円だけ使ったら辞めようと思ったのでございます。
ところが五百円使ったところでリールに桜桃が止まり、西瓜が揃うかと思ったら揃わず、そしてどうやらボーナスが出ることになったのでございます。
しかしあたくしがこの娘達を憎んでいるのでございます、きっと娘達もあたくしが嫌いなのに間違いございません。
ARTなぞ頂ける筈もないと思っておりましたら、あっけなくARTになってしまったのでございます。
これにはあたくしもびっくりいたしまして、いえ、しかしこれもあたくしを手懐けるための企みだろうと思い、騙されるものですかと注意深く見守っておりました。
ところがまた意外なことに何度も何度も遊戯回数が上乗せされ、再びボーナスも出まして、娘達は可愛らしい声を上げて可愛らしい姿に変身し、そして八百枚の硬貨が出てきたのでございました。
忌々しい娘達だと思っておりましたが、こうやって見るとあたくし誤解していたのかしら、本当は本当に可愛らしい娘達、いえ、可愛らしいお嬢さま達なのかしらと思うようになったのでございます。
あんな可愛らしいお洋服をお召しになって、空を飛んで、魔法を使って、そして変身して、まあ、羨ましいですわね。
そして、こんなあたくしのような駄目な人間にも八百枚の硬貨を与えてくださって。
こんなあたくしにも、幼い頃があったのでございます。
こんなあたくしも、大きくなったら魔法使いになりたいと夢見た頃があったのでございます。
魔法使いに変身したいと夢見たのでございます。
でもこのお嬢さま達のように、魔法を使えるのは若いうちだけなのでございましょうか。
あたくしのような人間は、もう変身することなぞできないのでございましょうか。
もしも、もしもあたくしも変身できたら、まあ、あたくしったらいつまでも夢想癖が治りませんわね。
しかし、思い切って一歩を踏み出すことを覚えた今となっては、それも夢ではないのかもしれません。
あたくしにはあのお嬢さま達のように悪者と戦う勇気はございませんが、でも、勇気を出してさらにもう一歩踏み出せば、変身まではできなくても、ほんの少し、ほんの少しくらいは変わることができるかもしれない、そうすればこの先あたくしの人生もほんの少しは好転するのかもしれないと感じた次第でございます。
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