| 投稿日 |
2014/2/7 |
| 投稿者 |
花緒 さん |
| 年代 |
30代 |
| 性別 |
女性 |
| 職業/立場 |
OL |
| パチスロレベル |
初心者 |
あたくしは清水寺なぞに行ったことはございません故、その舞台とやらがどれ程の怖いものなのか存じ上げておりませんが、清水の舞台から飛び降りるという言葉の意味は存じております。
遊戯場へ赴きまして、場内の通路を歩きますと、まあ何てきらびやかなのでございましょう。
いえ、決してお店の中が綺麗だとか飾り付けが華やかだとか、そういうことではございません。
通路の両側に並んでいる遊戯台の顔ぶれが何ともきらびやかではございませんか。
あたくしは清水の舞台から飛び降りたのでございます。
ええ、いつものような二円遊戯台が並ぶ通路ではなく、なんと五円遊戯台の通路なのでございます。
悪口を言うつもりなぞさらさらございませんが、あたくしのお勤め先で頂くお給金なぞではあたくしとても五円相場の遊戯台では遊べないのでございまして、いえ、日頃お世話になっているお勤め先ですもの、悪口なんて言ったらそれこそ罰が当たってしまうかもしれませんが、でもあの若い女性事務員の方は何故あんなにも意地が悪いのでございましょう、それは確かにあたくしはお仕事が得意ではございませんが、でももう一人のご年配の女性事務員のように年がら年中お仕事で失敗なんてしていませんのよ、とにかくお給金が上がる様子も無く、あたくしはいつも二円相場の遊戯台でしか遊べないのでございました。
それでも一念発起とでも言いましょうか、あたくしこの先もずっとこのままではいつまで経っても生まれ変わることもできないと思い立ちまして、ついに五円遊戯台で遊ぶことを決意したのでございます。
二円相場の通路ではお目にかかれないような素敵な遊戯台がたくさん並んでおりまして、その中から化物語という遊戯台を選んで座ってみたのでございます。
大事な大事な千円札がすうっと吸い込まれますと、出てきた硬貨はたったの二百枚でございましたが、その硬貨が無くならないうちになにやら戦場ヶ原さんの呪いを解きましょうというお話になりまして、するとすぐに緑やら白やらに眩しい絵がふたつ並んで止まり、どうやら無事に戦場ヶ原さんの呪いは解けたようでございました。
するとどうでしょう。
大当たりになった途端に画面には蕩れと表示されまして、例の眩しい絵が何度も何度も止まり、何度も何度も倍倍だの超倍倍だのと倍率が増えますと、いつの間にやらあたくしの手元には四千枚の硬貨が出てきたのでございます。
あらこれで八千円だわと喜んだのですが、ふと気づいたのでございます。
八千円ではなく二万円ではございませんか。
あたくしもうびっくりするやら嬉しいやら、清水の舞台から飛び降りて本当に良かったと感じたのでございます。
遊戯場に行った時刻が遅かったものですから、この時すでに夜の十時でございまして、さあ帰りましょうと思い、なんとなく始動レバーをかつんと叩きますと、すごい音と共に逆回転を始めたではございませんか。
まあ、どうしましょうどうしましょう、これは大変なことになったと舞い上がってしまいましたが、どうすることもできません。
もう十時で帰らなくてはいけないのにどうしましょうと慌ててみても、やっぱりボーナスを頂けるとなると帰るわけにもいかず、まあどうしましょうこのまま店仕舞いになってしまうわねと遊戯を続けたのでございますが、相変わらず倍倍だの倍率が上がるばかりでごさいまして、ついに店仕舞いの刻限まであと三分になってしまったのでございます。
このまま遊戯を続けられればあと千枚ほどの硬貨が出てくる手筈になっているのに勿体ないと思っていますと、店仕舞いまであと三分なのにまた逆回転が始まってしまい、あたくしはがっかりしたのでございました。
どうしてあたくしはこうなのでございましょう。
もっと早い時間にこうなれば良かったのに、やっぱりこれがあたくしの人生なのでございましょう。
それについてはあたくしもう諦めております故、その時のあたくしはきっと冷めた笑みを浮かべていたことでございましょう。
それでも合わせて五千枚の硬貨が貯まりまして、なんと二万五千円にもなったのでございます。
こんなあたくしのような人間でも、勇気を出して飛び出してみればこういうこともあるのでございますね。
ほくほくとした心持ちでお店を出ますと、綺麗なお星様が見えまして、今日は良かったわ、こんなに儲かって何を買いましょうかと夢見心地でおりますと、ふとあることを思いついたのでございます。
もうすぐ、そうもうすぐ、まあ、口にするのも恥ずかしいのでございますが、あと一週間でバレンタインデーではございませんか。
チョコレートを買い求め、それをお勤め先のあの、あの殿方にお渡ししようかしら、まあ、あたくしったら年甲斐もなくこんな気持ちになってしまって、もちろんあの方はあたくしのことなぞ何とも思ってらっしゃらないのはよく存じております。
あの方は決して俳優さんのような容姿ではございませんが、でも若い俳優さんには無い男らしさをお持ちになった方でございまして、あたくしのお勤め先の出入りの業者さんを大声で怒鳴りつけたりするほどの男らしさをお持ちなんでございますもの、あたくしもお仕事で失敗でもしたらあの方に怒鳴られるのかしらと想像すると、失敗するのが怖いような嬉しいような、まあ、あたくしったら空想癖があるのかしら、こんな人間ですもの、あの方があたくしを何とも思ってらっしゃらないのは当たり前でございますわね。
でも、あたくし今日はひとつ勉強になりました。
清水の舞台から飛び降りたからこそ、良い結果を得られたのでございます。
ですからもう一度清水の舞台から飛び降りて、チョコレートをお渡ししたらどうかしら、良い結末が待っているのかしら、なんて考えてみましたら、知らず知らずにあたくし顔がかあっと熱くなってしまったのでございます。
それでもこんなあたくしの人生を変えたいと思っているなら、人生の中で一度や二度は清水の舞台から飛び降りることも必要かもしれないと感じた次第でございます。
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