| 投稿日 |
2014/1/4 |
| 投稿者 |
花緒 さん |
| 年代 |
30代 |
| 性別 |
女性 |
| 職業/立場 |
OL |
| パチスロレベル |
初心者 |
あたくしは哀れな野良猫のように通路をさまよっておりました。
いえ、いっそのことあたくしが猫だったらどんなに良かったかしらと思うのでございます。
甘えた鳴き声で人さまにすり寄っていけば、餌のひとつもいただけるのでございましょうが、貧乏神を背負って歩いているようなこのあたくしという人間が遊戯中の殿方に声をかけても、硬貨の一枚も恵んでいただける筈がございません。
あたくし、来世はきっと野良猫に生まれてこようと心に決めたのでございます。
シンジさんは頼りなく、頼みのアスカさんは今日はお見えにならず、ゲンドウさまはいつものように冷淡なお顔でただひと言無いとおっしゃられるばかりでございまして、いえ、でもあのようにあたくしを突き放すように無いとおっしゃられると、逆にあたくし胸の奥がきゅっとなるのでございまして、冷たくされればされるほどどこまでもゲンドウさまに、まあ、あたくしったら話が横にそれてしまいました。
その後も天海さんやデューク東郷さんなども、ちっともあたくしの相手をしてくださらないのでございました。
もう帰ろうかしらと通路を歩いておりますと、ふと誰かに呼び止められたのでございます。
ちらりと横を見ると、そこにいたのは例のケンシロウさんではございませんか。
ならばと思い、ひと目でもラオウさまにお会いしたいと遊戯台の前にあたくしは腰かけたのでございます。
なけなしの千円札がすうっと吸い込まれますと、一度に五百枚の硬貨が出てまいりまして、ええ、あたくしが遊戯するのは常に二円遊戯台でございます。
その硬貨の三枚を手に取り、遊戯台に入れたのでございます。
まあ、するとどうでしょう。
硬貨を入れた途端に何やらリンさんの叫び声が聞こえまして、ええ、リンさんがケンシロウさんの名前を呼ぶ声でございます。
まあ何ごとかしらとあたくしびっくりいたしまして、画面を見てみますと、画面の左隅にある大当たりまでの遊戯回数が表示される部分には何も表示されていないのでございまして、ではさっきのリンさんの叫び声は何だったのかしら、遊戯台が壊れているのかしらと思ったのでございます。
何故かどきどきしながら始動レバーをかつんと叩いてみますと、その途端に画面に現れたのはあのアミバさんではございませんか。
あたくしはびっくりいたしまして、どうしてこのような時に、しかも遊戯開始の一回目でどうしてアミバさんがお出ましになるのかしらとあっけに取られたのでございますが、これはもしやケンシロウさんとアミバさんの殴り合いが始まるのかしらとはらはらと成り行きを見守っておりますと、ええケンシロウさんったらお相手がアミバさんの時はそれはもう強うございまして、それでもアミバさんはいつも果敢にケンシロウさんに立ち向かってくるのではございますが、それにしてもアミバさんはいつも不健康そうなお顔をしてらっしゃいますのね、もしや内臓でも病んでらっしゃるのかしらとあたくしいつも気になるのでございますが、ここで案の定二人の殴り合いが始まりあっという間にケンシロウさんが勝ち名乗りを上げたのでございました。
つい先だっても同じようなことがあったばかりでございますのに、またこのような幸運に巡り会ってしまって、あたくし逆に怖くなってしまいまして、しかし勝ち名乗りを上げたケンシロウさんは全身から真っ赤な後光を放つと、ラオウさまのもとへと向かって走り出したのでございます。
あの弱いケンシロウさんがあのような真っ赤な後光を放つなんてあたくし初めて拝見いたしまして、これは今日のケンシロウさんはひと味違うと思って見ておりますと、やっぱりラオウさまにはかなわず、ラオウさまに拳骨で殴られてあっさりと倒れたのでございました。
期待したあたくしが馬鹿でございました。
先だってのような幸運が二度もあるわけございませんわね。
その後あたくしの硬貨は全部なくなってしまい、千円札があたくしの手もとに戻ってくることはございませんで、あたくしはやっぱり哀れな野良猫のようにお店を出たのでございました。
お店から一歩外に出ますと冷たい風が吹きつけてきまして、ああやっぱりあたくしは駄目な人間なのかしら、この先ずっと幸運をつかむことなぞできないのかしら、やっぱり次は野良猫に生まれてこようと思ったのでございますが、こんな寒い夜に野良猫はどこでどうしているのかしらと考えますと、たとえあたくしがいつもいつも遊戯場でお金を捨ててしまうような駄目な人間だとしても、ついに幸運を得られないまま一生を終えるのだとしても、あったかいお風呂に入ることができるあたくしの方が野良猫より少しはましなのかしらと感じた次第でございます。
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