| 投稿日 |
2013/12/19 |
| 投稿者 |
花緒 さん |
| 年代 |
30代 |
| 性別 |
女性 |
| 職業/立場 |
OL |
| パチスロレベル |
初心者 |
あたくしなぞはもともとが貧乏性に生まれついております故、お金をちまちまと使うことが常でございますが、それでも勤め先で毎月のお給金をいただいた折には、まるで子供のようにあれを買おうかしらこれを食べようかしらなぞと小さな夢を抱くこともございます。
それでも実際はお買い物に行きましても、あらお金がもったいないと並んでいる売り物を眺めるだけで帰ってくることも多ございます。
しかしあたくしの大好きな回胴式遊戯機だけはやはりやめられないものでございまして、お給金をいただいた後はどうも胸がそわそわしはじめまして、お休みの日にはつい遊技場へ出向いてしまうのございます。
こんな吝嗇なあたくしでございますから、遊技場で遊ぶのも常に硬貨一枚の貸し賃が二円の遊戯台を選ぶのでございますが、遊技場には遊技場のご都合があるのでございましょう、貸し賃二円の遊戯台には新しい遊戯台なぞはほとんどございません。
あたくしだってほんとは、あたくしが男児の中の男児と焦がれる慶次さまのご尊顔を拝見したく思っておるのでございまして、ならば生まれ変わり一段とお美しくなられた慶次さまに遊んでいただきたいと願っておるのではございますが、こればかりは仕方がございません。
日本一の男児でございますもの、二円相場なぞはお似合いにならず、やはりきらめく二十円相場の高みにおいであそばすのがお似合いでございましょう。
あたくしといえば、慶次さまのおられる二十円遊技台の通路なぞは恐れ多くて立ち入ることなぞできないのでございまして、場内中央の広い通路を歩き、慶次さまのご尊顔を少しでもいいから見たいと、さり気なくちらりと慶次さまがいらっしゃるはずの通路を見てみたのでございますが、まあ、あたくしったらまるでうぶな乙女のようなことを言ってしまいました、残念ながらたくさんのお客様の陰に隠れてご尊顔を拝見することは叶いませんでした。
あたくしはあたくしという人間をわかっているつもりでございます。
あたくしのような者は、所詮は遊技場内の場末の如き空気漂う二円遊戯台の通路がお似合いなのでございましょう。
しかしその場末だって捨てたものじゃございません。
こんな場所にだってちゃんといらっしゃるのでございます。
かたや慶次さまが男児の中の男児ならば、こなた漢の中の漢とお呼びすべき、あら、見えてまいりました、ほら、ラオウさま。
慶次さまのように場内の華々しい場所におられるわけではございませんが、逆にこの遊技場内の荒野のような場所でこそ、いえ決して悪く言っているわけではございません、荒野のようなこの場所でさえ敢然と屹立なさるのがラオウさまなのでございます。
あたくしは遊戯台の前に座り、早速遊戯を始めたのではございますが、ラオウさまはなかなか出てきてくださらないのです。
いつもいつもあたくしをやきもきと焦らしてしまわれるのでございます。
やっと出てきてくださったと思ったら、まあラオウさまったらいつもいつもあの女の人を追っかけるばかりで、まあ、あたくしったらまるで嫉妬でもしているみたいではございませんか、あたくしがラオウさまに見合った人間ではないことくらいあたくしだって存じておりますが、でもたった一度でいいからあの太くて逞しい腕でぎゅっと、あら嫌ですわ、あたくしったらはしたないことを、きっとあの腕にあの女の人を抱きかかえるのでございましょう。
トキさんも時々出てらっしゃいますし、トキさんもなかなかの逞しさをお持ちではございますが、トキさんはちょっと優しすぎましょう？
トキさんを見ておりますと、トキさんはたった一人でも生きてゆけるのだというような芯の強さを感じてしまいまして、ああほら、今またラオウさまがケンシロウさんを拳骨で殴ってらっしゃいます、あのような逞しさのほとばしる強さがあたくしの胸の奥をぞくっとさせるのでございまして、それにしてもラオウさまったらあの拳骨でいつもいつもケンシロウさんばかりをぶっていらっしゃって、たまにはケンシロウさんではなくてこの、まあ嫌ですわ今日のあたくしはどうかしておりますのね、それに引きかえラオウさまは今日もお強くいらっしゃってあのケンシロウさんが一度もラオウさまに勝てないんですもの。 ええ一度たりとも。
ラオウさまが強ければ強いほどあたくしのお金はどんどん減ってゆくのでございますが、この世にはお金より大切なものがあることくらいあたくしだって存じておりますし、このお金と引きかえにラオウさまの荒々しいまでの逞しさを目の当たりにしてあたくしの体の芯まで、まあ、あたくしったら何を言っているのでしょう、逆にケンシロウさんが強いほどあたくしのお金は増えるのでございますが、そのような時は何故かふと切なさを覚えるのでございます。
今日は五回もラオウさまとケンシロウさんの決闘を拝見できましたし、やはりラオウさまは百獣の王と呼ぶにふさわしいお方でございました。
お家に帰ってみますと、今日は二円遊戯台で遊んだにもかかわらずあたくしのお財布はずいぶんと軽くなっていたのでございますが、それと引きかえに、いえ同等以上に得たものがございまして、遊技場こそがあたくしにとってあたくしがあたくしでいられる唯一の場所であり、あたくしがあたくしでいられる無上のひと時であると感じた次第でございます。
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