投稿日 |
2013/12/3 |
投稿者 |
花緒 さん |
年代 |
30代 |
性別 |
女性 |
職業/立場 |
OL |
パチスロレベル |
初心者 |
あたくしは、通路をさまよっておりました。
それはもう、この世なぞは捨ててしまってもいいと言わんばかりの顔をしていたことでしょう。
何故にと言えば、それは北斗の拳やラブリージャグラーや頑固一徹などが、あたくしをいじめたからでございます。
そんなあたくしが、今にもこの世を捨ててしまいそうな顔で通路をさまよっていたとして、誰があたくしを責められましょう。
あたくしだって、お金を捨てに来たわけではございませんもの。
みなさんちらりとあたくしを見ますと、すぐに目を背けるのでございます。
ええ、こんな貧乏神を背負って歩いているような人間、関わりたくはございませんでしょう。
あたくしはあたくしで捨て鉢な心持ちで通路を歩いておりますと、目に止まりました。
ええ、あの野獣です。
エヴァンゲリオンの初号機です。
あたくしはあの初号機なぞ嫌いなのでございます。
粗暴ですぐに我を失うあの野獣、けだものが嫌いなのでございます。
時折見せる咆哮や、ぐっと力を入れて握るあの手に、ふと胸の奥がぞくっとする事も無いわけではございませんが、いえ、あのようなけだものです。
あたくしは大嫌いでございます。
しかし一度その野獣と目が合ってしまいますと、不思議なものであたくしは知らぬ間に呪縛されたようにその野獣の前に座っていたのでございます。
あたくしの前にこの台でお遊びになられた方が残していかれたのでしょう、台を見ますと硬貨の残高が一枚と表示されておりました。
そこであたくしは新たに硬貨を投入する前に、全掛けボタンをぱちりと押してみたのでございます。
すぐには何の事かわかりませんでした。
ぱちりとボタンを押しますと、画面が遊戯中の画面に切り替わったのでございますが、あたくしの頭はそれを理解するのに時間がかかりました。
そして気づきますと、画面には何やら小さな文字が表示されておりました。
目をこらして読んでみますと、そこには戦線復帰中と表示されておりました。
まあ何ということでしょう。
ART中だったのでございます。
あたくしはびっくりいたしまして。
ええ、他の方が遊戯している最中の台を横取りするような浅ましい人間だと思われては詰まりませんもの。
周りをきょろきょろと見回しましたが、それらしき人はおらず、台の周りにも煙草やら電話やらも置いてありません。
やはりART中に遊戯をおやめになられたようでした。
まあなんとこのような運がございましょうか。
どうやらあたくしが遊戯しても差し支えないようでございます。
残り遊戯があと八十回ほどありました。
遠慮なく遊戯を始めますと、例の野獣に乗っておられるのがあのちんちくりんのシンジさんだなんておかしゅうございまして、あの野獣を飼い慣らすのはもっと荒ぶる魂をもった猛々しい殿方がよくお似合いになられ、そのほうがあたくしの胸の奥が、まあ、あたくしったら何を言っているのでしょう、あのようなけだものなぞは根絶やしにしてしまわれた方が良いに決まっておりますが、とにかく野獣が暴れまわりどんどんと硬貨が増えてゆくのでありました。
シンジさんは野獣共々何かに覚醒なされ、台全体が真っ赤に染まりますと、ますます残りの遊戯回数が増えてゆきまして、途中で出たボーナスでは毎度青リンゴばかりが実り、あたくしは本当は酸っぱい青リンゴより甘くて酸味はほのかに香る程度の赤いリンゴの方が好みなのではございますが、そのようなわけで遊戯回数は増える一方でございました。
まあ何ということでしょう。
ただ同然で拾ったようなこの台で、あっという間に四千枚より多い硬貨があたくしの手元に出てまいりまして、この世を捨ててしまおうとしていたどころか、捨てる神あれば拾う神ありという如く、気がつけば店仕舞いの刻限になっておりまして、お店の奉公人の殿方がそろそろおやめになられてはいかがとあたくしをお呼びになられ、つい先ほどまでとは別人のような浮ついた心持ちであたくしは席を立ったのでございます。
世の中何が起こるかまことにわからぬものでございます。
時には人智を超えた得体の知れぬ不思議なものに誘われることもございます。
そしてその得体の知れぬものに自分の胸の奥底を見透かされ、そして胸の奥底を鷲掴みにされたとお感じになられたら、その時は進んでその縛に就いてみるのもまたひとつの悦かもしれぬと感じた次第でございます。
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