【第三の手記】
明くる日、私はその日の予定が無く、家で録り貯めておいたアニメを観ながら、カリカリ梅をひたすら口にほうり込んでいました。
そしてアニメを見終われば、気付けば車にのり、ホールへ出掛けていたのです。
これには自らの事ながら、驚きを隠し得ませんでした。
何故ホールへ向かうのか、暫くは休むと思ったはずなのに。
しかし私の本心はわかっていたのです。
偽物語やマジハロに奪われ、蹂躙された自分の諭吉さん達をまだ全て取り返していないことを。
昨日の自分はその本心を、その真実を、奥深く圧し殺し、気づかないふりをしていたのです。
なぜなら、その方がこれ以上の被害を生まず、多少ではないにしろ、敗けは敗けでも、これはこれで良しとしたから、気付かないふりをしたのです。
だから、諭吉さん達を助けにいくと心が決めたのでした。
自分の本心に気付き、その想いを曲げないためにも、ホールへ向かうのでした。
しかし、この勇猛果敢にみえる決断にも、たった一つ、冷汗三斗の、生涯わすれられぬ悲惨なしくじりがありました。
それはつまり、『戦国乙女2』に座ったことでした。
脇目もふらず、真っ先に座った先が戦国乙女2。
まさかとは思うが、自分は本当はただこの台を打ちたいだけが為に、またホールへ来たのではないだろうか。
これが事実ならば、こんなに恐ろしいことはない。
しかし真に恐ろしいのは、稼働の内容にあったのです。
初当たりは約960G、乙女ボーナスと名乗りつつも、獲得枚数は100枚にも満たなかった事実に自分はぎょっとして、くらくら眩暈しました。
疑似ボが沖ドキのように連チャンすることが売りであるこの台は、90枚程吐き出した後、うんともすんとも言わず、何事もなかった顔で通常時に戻ったのでありました。
そこで止めるべきなのであろうが、もう一度当たるまでは、と続行を決意したのです。
理由はもう、今となってはわからないのでした。
しかし数十G後、ぼろ雑巾の様になった自分を、激励してくれる出来事が起こりました。
雀の涙ほどの持ちメダルが無くなり、追加投資をし始めた頃、リールロックが2段階目までいき、とてつもなく可愛らしい1枚絵が見れたのです。
これが、俗にいうところの『萌えカットイン』か。
このキャラは恐らく、よしてる様だろうか。
萌えカットインというわりには、りりしい顔をしているような気がしないでもない。
ぷぅん
うわああああああああああ
フリーズしたああああああ
突然の出来事に自分はそう叫びながら椅子から転げ落ちました。
1/65536を引いた、この奇跡に対する恩恵は、真乙女ボーナスと、80%のループでボーナスをストックし続ける『ユウサイバトル』、そして高継続の『真鬼神討伐』、これらが確定なのです。
その時の自分は酷く手汗をかいていたのを覚えています。
当初の目的である諭吉さん達の奪還、これを忘れていた訳ではないが、半ば諦めてはいたのでした。
しかしそれが実現する。
今、正に実現するのだ。
さあ、とくと見さらせ。
自分こそは、いやさ自分こそが、真の引き強養分であるのだ。
【あとがき】
自分はあのあとすぐに、自分に向けて微笑をするユウサイに瞬く間に殺されました。
ストックをほんの数分で消化し、真鬼神討伐は2連で終了しました。
そして出てきたメダルを全て、沖ドキトロピカルにぶち込み、またしても100枚に満たないボーナスを獲得しただけなのでした。
自分はこう思うわけです。
あの時に、あのフリーズを引いた時に、やれない人間はスロットなど打ってはいけないのだと。
そう気づいた私は、そのまま重たく冷たい心のドアを閉め、ガチャンと鍵を掛けました。
いまはもう自分は、養分どころではなく、狂人でした。
いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。
一瞬間といえども、狂った事は無いんです。
けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。
つまり、あの時に結果を残せず、沖ドキトロピカルを打つような者は狂人。
フリーズで何千枚と出せる者は、真のスロッターという事になるようです。
神に問う、引き弱は罪なりや?
ユウサイのあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて沖ドキトロピカルを打ち、そうして自分に呆れ果てて、狂人という事になりました。
いまに、この自分の心のドアを開けたところで、自分はやっぱり狂人、いや、廃人という刻印を額に打たれる事でしょう。
回胴人、失格。
もはや、自分は、完全に、スロッターで無くなりました。
いまは自分には、幸福も不幸もありません。
ただ、一切は過ぎて行きます。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「スロット」の世界に於いて、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。
ただ、一切は過ぎて行きます。
最近は知らないお爺さん達と、どうしようもない履歴のジャグラーを小突いては、ビッグかバケかで一喜一憂し、目押しのお手伝いしつつ、リハビリに励んでおります。
おわり。
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